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代償18

 城ではカーラの産んだ子供が、皆の注目の的になっていた。

 城に響き渡る、子供の泣き声に皆の頬が緩んだ。

 レナの体調も不安定ではあったが、ベル曰く

「妊婦としては順調」

 との事で、一日の終わりには、ハンスが愛おしそうにレナのお腹を撫でるのが日課になっていた。

「僕達の子供は、女の子かなぁ、男の子かなぁ」

「そうね……」

 レナの生返事に、ハンスの手が止まった。

「レナ、何を考えてるの?」

「え?」

 この夜レナは、ファビオの事を考えていた。

「何か悩んでいる事があるなら、話して欲しい」

 レナも同じ思いだった。

 ハンスとは悩みも喜びも共有したい。それが夫婦となり親となる二人の責任だと思っていた。

 しかし、ファビオの事をハンスに話していいのだろうか。

 エリザが旅から戻るまで、レナの手元に置かれていたカリナの魂が宿ったクマのぬいぐるみが、レナを見つめていた。

「しなきゃいけない喧嘩は、先にしておくべきだよ」

「大おば様」

「そうだよレナ」

 レナは言うなら今しかないと覚悟を決めた。

「あのね、マルグリットさんの事なんだけど……」


『さぁ、お戻りレナ。ああ、私の子ファビオにも村へ来る様に言っておいてくれ。マルグリットには言いそびれてしまった』

 タルメランがレナとの別れ際に言い残した言葉。

「本当に、父がタルメランがそう言ったのかい……」

 カリナの声は震えていた。


 その夜、レナの告白は、カリナの心も、ハンスの心もかき乱した。

 自分の血を引く娘たちを、自らの魔力を保つために犠牲にしてきたのだ。妻でもない女に自分の子供を宿らせる。タルメランなら、その程度の事平気でするだろう。しかし、だとすれば自分がした事に意味があったのだろうか。自分が子供をさし出さなくても、タルメランはマルグリットの様に子供を産ませた。やはり、あの時の自分は、子供を守るためと言い訳しながらタルメランから逃げただけだったのだ。全てを失くし、魂だけになってしまった今になって、それを再確認するはめになるとは。せめて魔力さえあれば、レナの子供を守る事が出来るのに。やはりタルメランには死んでもなわなければ。カリナは、計画を練り始めた。

 同じ頃ハンスは、ぐっすりと眠るレナの寝顔を見ていた。もし、こうなる前にレナがファビオの出生の秘密を知っていたら、自分を選んだのだろうか。

「ハンス? 眠れないの?」

 レナが目を覚ましてしまった。

「うん」

「悩みがあるなら言ってよ。約束でしょ?」

 レナの手がそっとハンスの頬に触れた。

 ハンスはその手を握った。

「怒らない?」

「うん」

「笑わない?」

「もう、早く言ってよ」

「もし」

「もし?」

 レナはハンスの目を覗き込んだ。

「もし、僕と婚約する前にファビオの出生の秘密を知ってたら、どうした?」

 レナは驚きで瞬き何度もした。

「私達の結婚は、私達だけの問題ではないのよ? それに、子供も産まれるって言うのに、何を言ってるのよ」

 レナはクスクスと笑い、自分のお腹を撫でた。

「あなたのお父様は、つまらない事で悩んでるわよ」

「そうだよね。うん、そうだ」

 ハンスは、レナとレナの中ですくすくと育つ自分の子供を抱きしめた。


 エリザと共に城に戻ってきたマルグリットは、到着早々レナに呼び出された。

「あら、お付きの方もご一緒なのですね」

 レナは、マルグリットと共にやってきたアリサに驚いた。まさか、あの話をメイドに聞かせる訳にはいかない。

「ごめんなさいね、席を外してくださるかしら」

 レナの言葉をアリサは無視をした。

 この結婚前に妊娠しているふしだらな姫は、何を言っているのだろう。私は、ムートル国国王の命令で奥様の見張りをしているのよ。こんな姫に指示される覚えはないわ。

 アリサの態度に、マルグリットが驚きたしなめようとした瞬間、アリサが全身を硬直させた。

 そして、アリサは無言で部屋を出て行った。

 レナは手元にあったクマのぬいぐるみから意思が消えている事に気付いた。

 しかし、今はそれどころではない。目の前に不思議そうな顔で座っているマルグリットに伝えなければならないのだ。

 マルグリットも魔人。何か異変が起きた時のために、隣の部屋でハンスが待機している。

 もし自分が、親子ほど年の離れた娘に、こんな事を伝えられたらどうなるだろう。

 レナは、恐る恐る話を切り出した。

次話もよろしくお願いします。

(アリサ……カリナだよね……)

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