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代償17

 エリザ一行は、温泉の街に到着した。

「ここは……」

 宿の前に到着した時、マルグリットは身体の芯が揺すぶられるような感覚に襲われた。

「兄とマルグリット様もお泊りだったんですよね」

 そう言ってエリザは宿に入って行ってしまった。

「奥様?」

 マルグリットの足が止まい、アリサは不思議そうにマルグリットを見た。

 アリサには何故マルグリットに自分の様な監視が付けられているのか、何も知らされていなかった。監視が付けられているにもかかわらず、マルグリットの息子ファビオは王室に近い地位で仕事をしている。きっとマルグリットは税を逃れたとか、その程度の事で監視が付いているのだと勝手に思い込んでいた。そして、まだ誰も受け入れた事のないアリサの胸は、紳士的に接してくれるファビオへの淡い思いで溢れていた。

「ああ、ごめんなさい」

 マルグリットは、宿へ一歩踏み込んだがその足は震えていた。


 マルグリットとアリサに用意された部屋は、あの時ジャメルと濃密な時間を過ごした部屋だった。

 マルグリットにはジャメルの息使いが今にも耳元に届きそうに思えた。

 ジャメルは死んだのよ……。

 いくら自分に言い聞かせても、身体中にジャメルが蘇ってくる。

 風に当たろうとバルコニーへ出たものの、そこにもジャメルの息使いが残っていた。ここで抱きしめられた事、あのベッドの上でジャメルを全身で受け止めた事、そして街を散歩した事、つい今起きている事の様に思い出された。

「奥様、お着替えはこちらにご用意いたしましたが、今お着替えされますか?」

 アリサに声を掛けられなければ、このままあの時まで身も心も戻ってしまいそうだった。

「ええ、ありがとう。そうね、着替えましょうか」

 マルグリットはバルコニーを離れた。一瞬、そこにジャメルがいる様な気がしたが、誰もいなかった。

「そようよね、彼は死んだのよ」

 自らに言い聞かせるように声に出して言ってみた。

 突然妙な事を言うマルグリットを、アリサは不気味そうな目で見ていた。


 翌朝。

 エリザに連れられて、やって来たのはこじんまりとした家だった。

「どうぞ」

 中に入ってみると、家の中も趣味の良い家具や食器が揃えられており今すぐにでも住めそうだった。

「ここは? とても素敵ね。趣味も良いわ」

 マルグリットは目を輝かせて、家中を見て回った。

 アリサも、この家は奥様の趣味にとても良くあっている、そう感じていた。

 一通り見終わり、最後は寝室へ案内された。

「どなたのお宅なのか知らないけれど、寝室まで見るのは失礼じゃないかしら?」

 エリザは城以外での生活を知らないから、そう言う当たり前な礼儀を知らないのかしら。

 マルグリットの心配を無視して、エリザは寝室の扉を開けた。

 ゆったりと広いベッドに、庭が見渡せる大きな窓。恐らく窓からの眺めまで計算されて配置されたテーブルセット。まるで、ジャメルと過ごした宿の部屋のようだ。

「この家は、兄が頼んで用意させた家です」

「え?」

 マルグリットの全ての動きが停止した。

 視線すら動かすことが出来ない。

「いつ……」

 やっと声が出た。

「宿の方のお話では、兄は女性とあの宿に宿泊していたようです。兄はある日一人で出かけた切り帰らなかったそうです。おそらく村へ向かったのかと。その少し前にこの家を……」

 マルグリットは、その場にふらふらと座り込んでしまった。

「奥様!」

 アリサが慌てて手を差し伸べたが、マルグリットはそれを拒否した。

「いいの……」

 動悸がし始めた。

 あの日、どうして私はジャメルを置いて去ってしまったのだろう。あの日、ジャメルの元に留まっていれば、今頃この家でジャメルと暮らしていたのだろうか。

「ああジャメル。ごめんなさい、ごめんなさい」

「マルグリット様が、落ち着かれたら宿までお連れして。戸締りは頼んだわ」

 エリザは、アリサの手に無理矢理家の鍵を押し付け、一人家を後にした。


 暫く街を歩いたエリザは、ふと空を見上げた。

 子供のころ、やけに身長が伸びた兄を見上げていた頃を思い出した。

「ねぇ、兄さんの思いは伝えたわよ」

 あの家は、私がお城を下がった時、使わせてもらうわね。

 エリザの頭上に風が吹き抜けた。


次話もよろしくお願いします。

(アリサ、ファビオに恋してんじゃん)

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