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代償15

 恐る恐る部屋に入ると、ベルは産まれたばかりの赤ん坊を抱き呆然とカーラの側で立っており、エリックはカーラの手を握ってカーラの名を叫ぶように呼び続けている。

 そして、カーラの腰から下は血の海だった。 そして、その海は広がり続けている。

 部屋は血の臭いで充満していた。血の臭いだけではない、死の臭いもしている。レナは一瞬吐き気を覚えた。

「カーラ! しっかりするのっ!!」

 集められていた出産経験のあるメイド達が必死にカーラに呼びかけているが、カーラがその呼びかけに応える様子はない。

 母の異変に気付いたのか、産まれたばかりの赤ん坊がベルの腕の中で、まるで火がついたように泣き始めた。

「レナ様!」

 状況に驚き動けないでいたレナとエヴァに気付いたのはマルグリットだった。

 何故マルグリットが居るのか、今はそんな事はどうでも良かった。

「マルグリットさん、カーラはどうしたの?」

 レナの声は震えていた。

 マルグリットが、目線で部屋を出るように即した。

 部屋の扉を閉めてマルグリットは、沈痛な面持ちで話し出した。

「カーラはお産の後に大出血を起こして意識が定かではありません。このままですと……。今、医者を呼んでいますが、間に合うかどうか。間に合ったとしても、助かるのは難しいかも……」

 レナは目眩がした。

 つい数時間前まで痛みに耐えながら談笑をしていたカーラが死ぬ?

「我が国では、出産時の死亡は稀だ」

 アルセンが言った。

 そうだ! 魔力だ! どうして思いつかなったのだろう。

 レナがカーラに駆け寄ろうとしたが、いつの間にか側に居たエリザに止められてしまった。

「今はダメです。レナ様とお腹のお子様に触ります」

「でも、エリザ、カーラがっ!!」

 エヴァは状況に耐え切れずらその場に座り込んでしまった。

 アルセンはエヴァの肩を抱き、意を決した。

 見て見ぬふりは出来ない。助かる命は救わなければ。こんな気持ちになったのは初めてだった。今まで気分次第で奪ってきた命を撮り戻す事は出来ないが、失われそうな命は救う事は出来る。

「レナ様、使ってよろしいか。我が国から医者を連れて来ます。今なら間に合う!」

「でも……」

 レナはエヴァを見た。

 エヴァは二人の会話の意味が全く分からず、呆然としている。

「時間がない、命がかかってるんだ!」

 アルセンの言葉にレナは頷いた。

 次の瞬間にはアルセンの姿は消え、瞬く間に一人の女性を連れて現れた。

 エヴァは驚きで声も出せなかった。

 今、目の前で起きた事は、何?

 女性は、直ぐに部屋の中に飛び込み、カーラの腹部に手を当てた。

「お母さん、しっかりなさい。赤ちゃんがお母さんを待ってるわよ」

 女性がカーラに呼びかけると、カーラは少し反応を示した様だった。

 何が起きたのか理解できないメイド達も、カーラが呼びかけに応えた事に歓喜の声をあげた。

「出血は止まりました。意識も間も無く戻るでしょう。心臓が止まってしまう前で良かった。止まっていたら間に合いませんでした。出血が多かったので、回復に時間がかかるかもしれませんが、もう大丈夫です」

「ああ、ありがとう」

「いえ、国王のお役に立てて私も嬉しいです。では、後は人間の医者に任せて大丈夫でしょう、私は戻ります」

「ご苦労様」

 アルセンと女性の会話をエヴァは、目を大きく見開いたまま瞬きすらせず、そして一言も漏らさず聞いていた。

 そして、女性はエヴァの目の前で再び消えた。と同時に、アルセンが他のメイド達の記憶を置き換えた。ただ、どうしてもエヴァの記憶に手を出す事が出来なかった。


 カーラとエリックの子供は男の子だった。

カーラは回復に暫くかかると言う医者の見立てで、動ける様になるまで城で過ごす事になった。

 娘の危篤の報せに、着の身着のままやって来たらしいカーラの両親も到着していた。

 やっと外が明るくなる時間、レナ、エヴァ、アルセンは食堂で早目の朝食を取っていた。

「アルセン王、さっきの方は癒者なの?」

 レナのやり方とは全く違うが、明らかに魔力でカーラを救っていた。

「いえ、魔人の医者です。我が国では父が成績の良い魔人に医学を学ばせて、医学の知識と魔力で治療をする者を育てる過程を作ったのです」

「素晴らしいわ」

 レナというアルセンの会話をぼんやり聞いていたエヴァが、やっと口を開いた。

「ねぇ、二人共、私に何か言うことはないの?」

 自分が驚いているのか、怒っているのか、喜んでいるのか、エヴァには分からなくなっていた。

「あのねエヴァ、話さなければいけない事が多すぎて、何から話せば良いのか分からないの」

 レナがエヴァに懇願する様に言った。

「そうね、私も何から聞けば良いのか分からないの」

 エヴァは暫くの沈黙の後、アルセンの手を取った。

「ジャン、私には何が何だか分からないけど、カーラを助けてくれたのが貴方だっていう事だけは分かる。本当にありがとう」

 今はカーラが助かった事を喜ぶべきだとエヴァは思った。

「エヴァの役に立てたのなら嬉しい。では私は帰ります。詳しい事は、レナ姫から聞いて下さい」

 アルセンは逃げる様にして、食堂から出て行ってしまった。

次話も、よろしくお願いします。

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