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代償11

 レナ懐妊の報せは瞬く間に、コサムドラ中に広がった。

 もちろんエヴァの耳にも届いた。

「まさか、短期間に友達二人が妊婦になるだなんて。私達まだ18なのよ!」

 エヴァは苦笑いするしかなかった。

 最近のエヴァは、ジャンと名乗ったアルセンに教わった杏ケーキが好評で、相変わらず忙しい日々を送っていた。エヴァの店の繁盛振りを見て真似る店もあったが、どの店もエヴァの店には敵わなかった。それはエヴァのお菓子とお茶に対する思いによるところが大きい。

 ジャンは自分の国に帰ってしまったが、定期的に素晴らしい杏をエヴァに送ってくれていた。

「本当に不思議な人……」

 ジャンの好意に気付いていなかった訳ではない。少し気になる存在になりつつあった。しかし、杏は送ってくるものの、メモも手紙も入っておらずエヴァは何だか肩透かしされた気分になっていた。

「後から杏の請求とか言って、とんでもないお金を請求されるんじゃないでしょうねぇ」

 つい先程届いた杏を見つめ声に出して言ってしまった。

「そんな事はしない」

 エヴァが驚いて振り返ると、そこには大きなカゴを抱えたアルセンが立っていた。

「ジャン!」

「珍しい桃が手に入ったんだ」

 カゴの中にはエヴァが見た事もない桃が何種類も入っていた。


 ムートルで静かに暮らしていたマルグリットの元にエリザから手紙が届いた。

 一時ムートル国王預かりとなっていたマルグリットの身は、見張りを兼ねたメイドを置く事を条件にムートルの自宅に戻っていた。 メイドの名はアリサと言い、とても気立ての良い若いメイドだった。

「奥様、コサムドラからお手紙が届きましたわ」

「読んで頂戴」

 最初の頃は、メイドに手紙を読まれる事に抵抗はあったが慣れてしまえば自ら文字を読まなくても良いので楽だと気付いた。最近どうも字を読むのが億劫になって来た。


「え? コサムドラへ?」

 仕事から戻って来たファビオに、コサムドラへ行きたいと訴えた。

「エリザから手紙が来てね、どうしても見せたい物があるって」

 ファビオは悩んだ。恐らくアリサを連れて行く事を条件にムートル側の許しは出るだろう。

 そもそも、母マルグリットの動向はそこまで注目はされていない。

「コサムドラ側に問題はないんだろうか」

「ないからこうして手紙を送って来たんだと思うわ」

 ファビオもエリザからの手紙に目を通したが、ただ見せたい物があるから来て欲しい、としか書いていなかった。

「分かった。僕からハンス様にお聞きしてみる」

「ありがとうファビオ」

 マルグリットも、あまり気乗りはしなかったがこうして家の中に閉じこもっているよりかは、幾分気が晴れるかもしれない、そんな期待もしていた。


「ねぇ、お父様、カーラの所に遊びに行って良いかしら」

 レナは、子供部屋に何を揃えようか悩み過ぎ、誰彼構わず相談するのだが、これと言った良い案が出てこない。ここは同じ妊婦のカーラに相談すれば良いのではないかと思いついたのだ。

「んー、あまり城の外に出て欲しくはないんだが」

 アンドレは、またレナがどこかへ行ってしまうのではないかと心配していた。

「では、迎えを行かせてカーラを城へ連れてきましょう」

 絶対に反対すると思っていたベルが妙案を出してくれた。

「本当に!」

「出産するとなかなか暫くは外に出られませんからね。カーラの気晴らしにもなるでしょう」

 ベルは直ぐに手筈を整えに行ってしまった。

「でしたら、私が!」

 慌ててベルの後を追うエリザの姿にアンドレもレナも顔を見合わせて笑った。


 アルセンの持ってきた桃で作ったケーキは、とてもみずみずしく今までにない味わいの物が出来上がった。

「エヴァ、君の作るケーキは本当に素晴らしい」

「ジャンにそう言って貰えると、作り甲斐があるわ」

 少し年は離れているが、エヴァの心はアルセンに揺れていた。

 何よりエヴァの菓子作りを認めてくれている。それに、ジャンが側に居ると何だか安心する。

 こんな人が父親だったら、いや違う、恋人だったら?

 最近、エヴァの父は娘の稼ぐお金を当て込み仕事を辞めてしまっていた。かと言って店の手伝いをする訳ではない。母は手伝いをしようとはするが、エヴァとは反りが合わず遠慮して貰っていた。

 孤軍奮闘するエヴァには、アルセンの優しさが心に響いていた。


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