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「タルメラン王から子供を隠すのではなく、表に出すのだよレナ。そうすれば、人の目もある。タルメラン王でも、そう簡単には手を出せまい」

 アンドレの考えだった。

「沢山の人の目で、この子を見守って貰う。という事ですか?」

「そうだ」

 そんな手がタルメランに通用するだろうか。相手が人間ならば、通用するかもしれないが、どんな手を使ってでも、この子を奪いに来るに決まっている。

「だったら、タルメランを殺してしまえば良いんだ」

 思い悩むレナに、カリナがこともなげに言った。

「でも、大おば様。タルメラン王は死ねないのよ?」

 そうなのだ、全てはタルメランが死ねない事に問題があるのだ。

「大おば様は、どうすればタルメラン王が死ねるかご存知なの?」

「いや、知らないよ。知ってたら私がやってたさ。ただタルメランは言ったんだろ? 祖先が拒否するからだ、って」

「ええ、そう言ってたわ」

「だったら、その祖先に受け入れさせれば良いんじゃないのかい?」

 成る程、カリナの言う通りだ。

 しかし……

「何百年も前の祖先に、どうやって……あっ!」

 そうだ、レナの魔力なら可能だ。

「ねぇ、大おば様。祖先のお墓はどこにあるの?」

「村で生れ育った私が知るわけないだろう」

「でも、元は魔人国だったベナエシに居たでしょ?」

「そんなものはベナエシの城にはなかったねぇ」

「それじゃぁ、お墓を探す所から始めないと駄目って事?」

「そうなるね」

 レナが落胆していると、ハンスがムートルから戻って来た。

「どうしたの、元気がないみたいだけど。具合でも悪い?」

 レナの様子に心配したハンスが優しい言葉をかけた。

「ギードは、レナと出会ってすっかり変わってしまったね。いや、違う。今が本当のギードいや、ハンス何だろうね。子供の頃は弱虫なのだと思っていたけどね」

 カリナが笑った。

「きっとそうよ、大おば様」

 レナも笑った。

 今はとにかくこの子を無事に生む事が自分の課せられた大仕事。他の事は、その大仕事を無事に終えてから考えよう。それに、来月には婚姻の儀だ。


 本当の自分。

 ハンスの胸に突き刺さる言葉だった。

 ギードだった頃、身体の中が冷たく冷え切っていた。

目的の為なら、どんな事でもしてきた。傷付けてしまった相手も多く居る。そんな自分が、今こんなに幸せで良いのだろうか。

 それに、今でも時々あの頃のように冷え切っている自分を見つけてしまう事がある。

 ムートルでファビオと何度か顔を合わせたが、言葉を交わす事はなかった。ファビオの方は、何か言いたげだったが、ハンスの方から声をかけようとは思わなかった。

 レナの人生から永遠に消えてくれ。

 すれ違う度にそう念じていた。

「ハンス? 変な顔をしてるわよ?」

 レナに考えを見られたかと不安になったが、レナは妊娠が分かってからは身体への負担を考慮して可能な限り魔力を使っていなかった。

「ごめん、ぼんやりしてただけだよ」

 来月には婚姻の儀で、正式にコサムドラの王族になるんだ。ムートルに住む魔人親子など無関係な立場になるのだから、もうこれ以上考えるのは止めよう。

 ハンスはレナに微笑みかけた。

 

 リエーキに戻ったアルセンは、どうにかしてエヴァの店へ行く理由を作り出そうとしていた。

 来月にはレナとハンスの婚姻の儀と披露宴が催される事になっていて、アルセンも招待を受けていた。

 ただ、それまで待てる自信がアルセンにはない。エヴァと杏ケーキを作ったあの日の事を夢に見るほどだ。

 それにレナとエヴァは友人だと言うではないか。披露宴にエヴァが来ていれば、リエーキの国王だとばれてしまう。それまでに一度、エヴァには本当の事を、せめて自分がリエーキの王である事を伝えなければ。

 どうしてあの時名前を偽ったのか後悔しきりである。

 魔力で支配する事を止めてからは、国の事は大きな決断が必要な事以外は、信頼できる家臣に任せてある。

 最初は心配だったが、思いの外うまく行っている。

「おい、そろそろモモが実る季節だな」

 通りがかりのメイドに確認をした。

次話もよろしくお願いします。

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