表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/271

代償3

 レナが目を覚ますと、そこは見覚えのある部屋だった。

 食堂の方から、良い匂いがしてきた。

 足も腕も動かすのがとてもおっくうだったが、空腹には勝てなかった。

 食堂に向かうと、女将が笑顔で迎えてくれた。

「目が覚めたかい? お腹すいただろう」

 女将は、身体の芯から温まるスープを出してくれた。

「まだたべられそうなら、おかゆにしようか?」

「いえ、大丈夫です」

 急に食べたらお腹がびっくりしちゃう。数日ぶり、現実世界では数か月ぶりに、安心して眠り食事が出来た。

 そうすると、頭によぎるのはタルメランの言葉だ。

 初めてタルメランを心底恐ろしいと感じ、身震いがした。

 少しでも村から遠い場所に行きたい。お腹の子を守らなくては。


「もう少し、ゆっくりして行けばいいじゃないか」

 宿の女将はレナを引き留めようとしたが、レナがやつれた笑顔を返すだけだった。

「ちょっと、レナ。まわ私をここへ置いていく気かい!」

 カリナが食堂のテーブルの上で騒いでいたが、レナは振り返らなかった。


 ハンスの執務室にアルセンがやって来た。

「いつまで、この部屋に閉じこもっているつもりだ。大事な婚約者を探しにも行かないで」

 そう言ってアルセンは甘酸っぱい香りのケーキを、ハンスの目の前に差し出した。

「な、何ですかこれは」

「私が産まれて始めて焼いた杏ケーキだ」

 急な事にハンスが驚くと、アルセンが不機嫌に答えた。が、どこか声が弾んでいる。

「アルセン様がケーキを!?」

 ハンスの驚いた顔に、アルセンは満足顔になった。こんなに感情を表情に出す人だっただろうか。特にここ最近アルセンの様子は、ハンスが側近をしていた頃とは比べものにならない。

「頂きます」

 杏ケーキは、しっとりとしてほんのり甘く少し強めの酸味が大人の味だった。

「本当にアルセン様が焼かれたのですか?」

「なぜ嘘をつく必要がある」

「そうですね……」

「それを食べたら、今すぐ村へ向かえ」

「え?」

「このまま、この執務室でぼんやりレナ様の帰りを待つのか? ハンスに戻って良い子演じてるつもりか? そんな事で、あのレナ様の婚約者が務まってるのか?」

 アルセンが一気にまくしたてた。

「しかし……」

 煮え切らない態度のハンスに、更にアルセンは追い込む。

「分かった。では今直ぐ私が村へ向かってレナ様を探し出しリエーキへ連れ帰り我妻にする」

 そう言ってアルセンは執務室を出ようとした。

「お待ちください!」

 ハンスは自分でも驚くほど大きな声を出していた。

 アルセンは振り返ると

「今すぐ行け!」

 ハンスは、その声に弾かれたように執務室を飛び出した。


 ハンスが城を飛び出した事に、エリザが気付いた。

「ハンスが居なくなっても、私がいるではないですか」

 飄々としているアルセンをエリザが睨み付けた。

「そのような目で見ないでくれ」

「それは失礼いたしました」

「あ、少し聞きたい事があるのだが」

 立ち去ろうとするエリザをアルセンが呼び止めた。

「何でございましょう」

「18歳の」

 アルセンの声が思いの他小さかった。

「え?」

 思わず聞きかえしたエリザにアルセンは、顔を赤くして言った。

「18歳の女の子に贈り物をしたいのだが、何をすれば喜んでもらえるのだろうか」

「はいぃぃぃ?」

 今度はエリザの声が大きくなった。


 ハンスは急用が出来た為、ほんの数日ムートルへ戻っている、と言う事になった。

次話もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ