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代償2

 レナは耳を疑った。

「死ねない……のですか……」

 そんな事があるのだろうか。母アミラも友人アンも、そしてカリナやジャメルも死んでしまったと言うのに。

「信じてないね、レナ」

 タルメランが悲しい眼をして言った。

「でもタルメラン様、同じ一族の母アミラや、カリナ様は死んでしまいました」

「そうだったね。アミラもリンダもカリナも死んでしまったんだったね。どう言う訳か、いや、訳は分かっているんだが、私だけ死の世界に居る先祖が迎え入れてくれないのだ」

「国を失ってしまったから……ですか?」

 レナは、タルメランがレナに見せた記憶を思い出した。

「そのようだ。しかし、あの時は一族を守るためにはああする他なかったんだよ」

 あの時一番悔しかったのはタルメランだ。

 なのに、こんな仕打ち。

「ひどい……」

 タルメランが微笑んだ。

「レナは優しいね。人間の世界で育ってしまった事は、良かったのかもしれないね」

「何か私にできる事があるのでしょうか」

「もちろん」

 役に立てるのなら、それに越した事はないのだが、今のレナはこうして座っている事すら辛く、今すぐ横になりたいと思っていた。

「ああ、レナ横になりなさい。何なら少し眠りなさい。ここは現実とは時間の経過が違う。身体にかかる負担も大きい」

 横になり、少しだけ、と目を閉じたがそのままレナは眠ってしまった。

 レナのやつれた寝顔を見たタルメランは、限界だと悟った。

 これ以上レナをここに留めては、身体に障りが出る。長い間、本当に長い間待ったのだ。あと一年待つのは、何の問題もない。


 ここは、どこだろう。

 ほんの少し目を閉じたつもりが、眠ってしまったようだ。村の城でも、コサムドラの城でもない。暗いような、明るいような、ただ何だか物凄く不安な気持ちにさせられる場所。

「レナ、レナ聞こえるかい」

 タルメランの声だ。

「タルメラン様、ここはどこですの?」

「心配することはない。村を出たら、コサムドラの城へ戻るんだ」

「えっと、それはどう言う事なのでしょうか」

 何か役に立てる筈なのに、城へ戻れとはレナには理解できなかった。

「ここはね、レナ。現実世界とは時間の流れが違う。今のレナの身体では耐えられない」

「それは……」

「お腹に、子供が居るね」

 タルメランには気付かれていた。そうか、この耐えられない疲労感と眠気は妊娠しているせいなのか。レナ自身もやっと身体の異変の原因が分かった。

「村の外に戻れば、すでに二か月近く経っているんだよ。言い換えれば、この数日でお腹の子は二か月成長したんだよ。レナの身体が辛いのも当然だ」

 悪阻で苦しんでいたカーラの姿を思い出した。

「生まれる迄の間に、考えておいてくれ。癒者の力で村の者達を元の姿に戻して国を取り戻す手伝いをするか、産まれてくる子を私にくれれば私の魔力は劇的に回復してわが手で復活ができるだろう。どちらが良いか、レナが良いと思う方で良い。考えておくんだよ」

 タルメランが何を言わんとしているのか、レナは聞き間違えかと思った。タルメランの魔力を取り戻す為に、子供をタルメランに渡す? それはあの儀式の為に?

「さぁ、お戻りレナ。ああ、私の子ファビオにも村へ来る様に言っておいてくれ。マルグリットには言いそびれてしまった」

 

「あの!」

 レナはタルメランを呼び止めたつもりだった。

「あら! あんた! レナじゃないかい!」

 返事をしたのは、別荘の村の宿の女将だった。その腰には、レナが宿に置いて行ったクマのぬいぐるみがぶら下がっていた。

「レナ!」

 カリナの声だった。

「大おば様……」

 聞き覚えのある安心できる相手の声に、レナは身体の力が抜け意識を失った。

「ちょちょっと、レナ! しっかりして!」

 女将の声をどこか遠くから聞こえていた。


 レナの思考はグルグルと回っていた。

 子供をさし出せ?

 我が子ファビオ?

 タルメラン様は、何を言っているの?


次話も、よろしくお願いします。


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