王の悲しみ10
王の悲しみ、今話で終わりです。
「タルメラン様、私は何をすれば良いのですか」
コサムドラの城、エリック、エリザの姿を目たレナは、兎に角早く城に帰りたかった。 自分の帰る場所は、あの城なのだ。
「何を急ぐ事がある」
そうだ、急がなければ。早く父やハンスに伝えたい。いや、まだ確信は持てないが、おそらく間違いはない。ベルはきっと喜びながら怒るんだろうな。
「レナには話さなければならない事が、山程ある。だから、そう慌てるな」
タルメランに誘われて、城のテラスまでやって来た。
コサムドラの城に比べればとても小さなテラスだったが、村が一望出来た。
「小さな村だ。しかし、この村で一族と配下の者を無事に暮らさせるのは、本当に大変で骨の折れる事だった」
「一つ先に聞かせて下さい」
「何だい」
「タルメラン様は、国を追われたタルメラン様なのですか?」
「どうして、そう思う」
レナは返答に困った。
「カリナだな。あの子は幼い頃から察しの良い子だった」
レナはタルメランの言葉を待った。ここまで来たのだ、真実を知りたい。
「そうだよ。私が国を失った情け無い王タルメランだ」
「じゃぁあの夢は」
「夢じゃない。あれは私の記憶だ」
レナは言葉を失った。
だとすれば一体何年タルメランは生きているのだ。
「もう五百年は優に過ぎてしまったな。話せば長くなる。まぁ、座りなさいレナ、疲れただろう」
後ろを見ると、気持ちの良さそうなソファが現れていた。
戸惑ったが、タルメランの言うように少し疲れていた。腰を下ろすと、直ぐに眠くなってしまった。
「お休みレナ。大丈夫。レナには何もしないよ」
タルメランの声が遠くに聞こえた。
「こんな山奥に……」
側近は歯を食いしばった。後ろに続くタルメランの家族や使用人達も、目の前に広がる景色に茫然と立ち尽くしていた。
そこは、草木が生い茂り、太陽の光さえ届かない場所。
「敗者とは、こう言う事だ」
タルメランが、一瞥すると草木は姿を消し小さな田舎町が現れた。
「城はあの辺りだな」
次の瞬間には石造りの城が出来上がっていた。
「住めば都だ。皆でしばらく療養しようじゃないか」
タルメランの言葉に皆涙した。
いつか必ず、国を取り戻す。
しかし、その機は訪れないまま、人々はこの山奥での生活に慣れきってしまった。
タルメランも高齢で、そろそろ最後の時を迎える筈だった。
しかし、何年たってもタルメランは老体のまま生き続けた。
「我が祖先よ。我に何を求めている」
身体以上に弱った魔力を振り絞ったタルメランに、魔人皇族の祖先は冷たく言い放った。
「国を失うような者を、こちらに迎え入れるわけにはいかない」
城に突然現れた隣国の国王に、アンドレは目の錯覚かと思った。
「レナ様は間違いなく村にいる。ギ、ハンスに、あ、いやハンス王子を直ぐに村へ」
アルセンは真剣だった。
「分かりました。ハンス、行ってくれるか」
「もちろん」
次の瞬間、ハンスの姿は執務室から消えていた。
「ハンス王子は、本当にレナ様を大切にしてるんですな」
そう言うアルセンの胸の内には、エヴァの姿が浮かんでいた。
ハンスが戻るまでの間、アルセンはコサムドラの城で非常時に備える事となった。
とは言え、ここは他国。本当に非常時にならない限り、アルセンが手を出せる事は何も無かった。
「あら、ジャン。また来てくださったの!」
アルセンは毎日エヴァの店に通い、時にはリエーキの城にエヴァの菓子を届けさせたりした。
とてもゆっくりと眠れた。
「ここは……」
そうだ。魔人皇族の城だ。レナは慌てて起き上がった。
「おや、レナ目が覚めたかい」
「……」
また夢を見た。いや、夢ではない。あれはタルメランの記憶だ。
だとすれば……。
タルメランが悲しい顔でレナを見詰めた。
「そうなんだよレナ。私はね、死ねないんだ」
次話も、よろしくお願いします。




