王の悲しみ3
レナは、目の前に居る老人の腰にある剣に手を伸ばした。
「!」
剣を手にしたレナは迷う事なく、その剣を自らの首に突き立てた。
その瞬間、レナは今首に剣を突き立てた自分を見下ろしていた。いや、自分ではない。
ジャメルを見下ろしていた。
「ジャメル!」
誰かが叫んだと思ったが、それは自分の声だった。
とても寝覚めの悪い夢。
夢……、なのだろうか。
手に取った剣の手触り、首に突き立てた時の感触、全てが生々しく残っている。それに、ジャメルを見下ろしていた時に嗅いだ血の臭い。レナは、暫く手を見つめ続けていた。
ハンス一行は、村へと向かう一本道の入り口まで何とかやって来た。
魔力を持たないコサムドラの警備隊は、こで待機する事になった。日暮れまでにハンス達が降りてこなければ、それを城に報告する役目だ。
何かに導かれている。登り始めた一行は、すでに異変を感じていた。
気付けば、村の入り口だった。
「タルメラン王の魔力ですわ」
マルグリットが呟いた。
もっと感動するのかと思っていたのだが……。
ハンスは、自分のルーツでもある場所で、意外に何も思わなかった。
「王はどこにいらっしゃるのですか」
「恐らく城かと……」
「城へ行く前に、ジャメルとエリザの家の裏も確認しておきましょう」
マルグリットは返答に困った。ジャメルの亡骸を見たくなかった。
「ああ、申し訳ない。遺体の確認は私達が行います。マルグリットさんは家の場所だけ教えてくだされば結構です」
本当にハンス様は察しが良い。いや、魔力で心の中を見られてるのかも……。
一行はマルグリットを先頭に城へ向かい始めた。
「ここです」
マルグリットが足を止めると、ハンスと魔力軍数名が朽ち落ちた家の裏へと一斉に走った。
しかし、そこに目指したものはなかった。
「遺体さえ回収できれば、そのままコサムドラへ戻ろうと思っていたのですが、目論見は王に気付かれていたようですね。遺体はありませんでした。城へ向かいましょう」
やはり王は気付いておられた。
マルグリットは震える膝に何とか力を込めて、城へ向かって歩き出した。
誰一人、言葉を発する者は居なかった。
城の中は、ひんやりとした空気が流れていた。
マルグリットが足を止めた。
すると、今まで無かったはずの人影が、少し先の石階段に現れた。
「マルグリット、ご苦労だったね」
人影から声がした。
ここで私の役目は終わり。
マルグリットが一歩下がった事で、ハンスが先頭になった。
「お前はリンダの子、ハンスだな」
人影が一歩一歩ゆっくりとハンスに近付いた。
「はい」
ハンスが跪くと、マルグリットも魔人軍もそれに倣った。
「タルメラン王、もう無理です」
また夢?
レナは声の方を向いた。いや、向きたかったが、身体中が痛んで向けなかった。
これは夢ではない。間違いなくタルメラン王の記憶だ。理解した瞬間、レナの視点はタルメランからレナ自身へと変わった。
「王、このままでは我々は全滅してしまいます」
「何故、魔人が人間に負けるのだ……」
「それは……」
側近は言葉を濁した。
しかし、タルメランには分かっていた。
「一部の魔人達が、人間に寝返ったのだな」
「皆、あれ程王のお力で救われたのに……」
扉の向こうから、バタバタと足音がした。
「どうした!」
側近が青ざめた。
「王子が!」
タルメランは決意した。
「国を開け渡そう。そして、我々は何処かでひっそりと暮らそう」
「そんなっ!!」
側近の目に、悔し涙が溢れた。
「泣くでない、生きる為だ。そして我々の血を絶やさぬ為だ」
少し内容が停滞気味ですね…
次話もよろしくお願いします。




