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絶望の日々7

 エリザから報告を聞いた誰もが、言葉を失った。

 あのジャメルが死んだ?

「私はまた息子を失った」

 嗚咽するベルの姿は、その場に居る全員の涙を誘った。

 アンドレは静かに立ち上がった。

「少し独りにしてくれ」

 その夜アンドレの執務室からは朝方まで灯りが漏れていた。


 翌日マルグリットの元へ、コサムドラの城へ来るようハンスから迎えの馬車が来た。

 大丈夫?

 気を付けて。

 母にそんな言葉をかける事すら、ファビオは躊躇った。

「行くわ……」

 そう言ってマルグリットは旅立った。

 つい昨日まで幸せだったのが夢のようだ。

 何よりジャメルが死んだ事が、マルグリットを打ちのめしていた。少なくともあの二人きりの時間、マルグリットはジャメルを愛していたのだと改めて実感した。

 全てをエリザに話してしまった。あの方の怒りに触れたかもしれない。ただ幸せを願っただけなのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。


「私の力を使ってもジャメルを取り戻す事は出来ないのかしら」

 レナは自分の力でジャメルを復活させる事が出来るのではないだろかと考えていた。

「もう、身体がありませんので、おそらく無理です」

 エリザが静かに言った。

「でも遺体はあったんでしょ?」

 遺体さえあれば、どんな姿でも元に戻せる、レナは確信していた。

「レナ様のお命が危なくなります。兄はそんな事、望んでいない筈です」

「でも……」

 ジャメルの死を受け入れられないレナは、他に方法は無いのかと思案したが何も浮かばないでいた。

「せめて墓くらい作ってやりたいです」

 泣きはらした顔のベルがポツリと言った。

「そうね、お父様に相談してみましょう」

 そのためには、村へ行ってジャメルの亡骸を連れ帰らなければならない。私が行く、レナは決意した。



 間もなくマルグリットを乗せた馬車が、到着する。レナはどんな顔をしてマルグリットと会えば良いのか分からなかった。

「ねぇ、ハンス。マルグリットさんはどうなるの?」

「僕にも分からないよ……」

 急遽用意された面会室を、エリザとハンスが外へ会話が漏れ聞こえないよう魔力で包んでしまった。

 ジャメルの死は、まだ他へは知らされていない。面会室にはジャメルの死を知る、アンドレ、レナ、ハンス、ベルがマルグリットの入室を待っていた。

 エリザが、マルグリットを連れて入ってきた。

「到着されました」

 ベルは仇を見るような目でマルグリットを見ていた。

 レナはマルグリットを直視する事が出来ず、下を向いていた。そして、ファビオがこの事態をどう思っているのかが気になった。

「到着早々に申し訳ないねマルグリットさん」

 アンドレが静かに語りかけた。

「あ、えっと、あの……はい……」

 マルグリットは明らかに動揺し、レナの知っている頼りがいのあるマルグリットとは別人になっていた。

「エリザから話は聞きました。しかし、私も貴方の口から直接聞きたいと思い来て頂きました」

 アンドレの静かな語りに、マルグリットは益々動揺してしまった。

「私は何もしていません。ただジャメルと、あの、その、そう言う関係になっただけです。ジャメルは独身でしたし、私も夫を亡くして一人身でしたし、そんな咎められるような事は……」

 ベルが嫌悪の目で自分を見ている事に気付いたマルグリットは、言葉に詰まった。


 面会は二時間近く続いたが、ただ取り乱すマルグリットを見ているだけの時間だった。

 エリザが持ち帰った情報以上のものは何も聞き出せず、一先ずマルグリットはコサムドラの城預かりの身となった。


「何だかマルグリットさんて、思っていたような人ではなかったのね」

 レナの感想に、ハンスも同感だった。

 面会で気疲れをしてしまったレナとハンスは、花嫁の間で少し休む事にした。

 レナもハンスも、ファビオの事を思っていたらしく、どちらからとなくファビオの話題になった。

「ファビオはマルグリットさんとジャメルの事、知っていたのかしら」

「いや、ファビオが知っていたら、僕が気付かないわけがない。ファビオの考えている事は、全て把握していたつもりだから」

 そう言って、ハンスは意味ありげにレナを見た。

「な、なに……」

「いや、何でも無い」

 そう言ってレナを抱きしめた。

 何でも無いわけがない。しかし、レナを追い詰める様な事はしたくなかった。

「急にどうしたの?」

「レナは僕だけのレナだから。それだけは絶対に忘れないで」

 ハンスはそう言って、花嫁の間から出て行った。


次話もよろしくお願いします。

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