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復習 祖母が犯した罪 

 孤児から皇女になったレナ。

 自分が魔人である事を受け入れ、向き合う事を決めた矢先祖母から衝撃の告白を受ける。

 祖母は、レナと母アミラを殺そうとして失敗したのだ。

 全てを知るベルを訪ねて行く。

 それは国の歴史でもあった。

 全てが、ルイーズの知らぬ間に決まり進められていた。


「私の人生は、大切な時に限って、魔人に苦しめられてしまう」


「アミラの動向は、私達兄妹が見張りますので、ご安心下さい」


 嘆くルイーズに、そう申し出たのはジャメルだった。


 間もなくして、国内外に向けて婚姻の儀が行われた。


 アミラの素性はひた隠しにされた。


 不満顔のルイーズを見た人々は、嫁姑の不仲を噂した。


「不仲も何も、話をした事もないわよ、ねぇベル」


「そうですわね」


 ルイーズに嘘をついている。


 ベルは心苦しかった。


 アミラには、城の中で部屋が与えられた。


 その部屋に食事を運ぶ役目をベルに命じたのは、アンドレだった。


 アミラの城での生活は、1時間ほど散歩に出る程度で、居るのか居ないのか、分からないほどだった。


 ベルには、アミラが人生と言う時間が静かに通り過ぎるのを待っている、そんな風に見えた。


「どうして、ここへ来られたのですか」


 思わず聞いてしまったベルに、アミラは微笑み答えた。


「命を賭けた呪いほど、強力な呪いはございませんから」


 アミラにとって、歴史上の出来事ではなく、アミラの人生を支配する呪いなのだ。


「私の行動で、この国の民の平和が守られるのなら」


 アミラは、本当にルイーズを苦しめたあの魔人と同じ人種なのだろうか。


「中には魔力に溺れて、守らねばならぬ事を忘れる者もおります」


 唐突なアミラの発言にベルは思わず、目を見開いてアミラを見つめてしまった。


 私は今、言葉を発したのだろうか……。


「ああ、もう、本当にごめんなさい。あの、もし良かったら思った事は言葉に出していただけませんか」


 ベルは、部屋を早々に逃げ出してしまった。


 また心を読まれてしまった。


 でも、アミラ様なら信じて良いんじゃないだろうか。





「庭の花が綺麗に咲いておりましたので」


 ある日ベルは、食事と一緒に、庭の花を生けて運んだ。


「まぁ、ありがとう!」


 ささいな事だったが、ベルとアミラの距離は少しずつ近づいた。


 しかし、アミラと親密になっていったのはベルだけではなかった。


「ベル、ちょっとご相談が…」


 アミラが思いつめた様子で言った。





「アミラ様のお人柄に惹かれたのは私だけではなかったのです」


 レナには思い当たる人物がいた。


「もしかして、お父様?」


「そうです」




 アンドレが怒り狂う母ルイーズを見たのは、始めてだった。


「何を言っているのです! アンドレ」



「しかし、アミラは私の妻です!」


「絶対に許しません。妻が欲しいのなら私が他に探します。あの女だけは絶対に許しません」


 大事な息子の妻に魔人など、絶対にあってはならない。


「一体アミラの何が気にいらないのです」


「お前は、あの女に心をもてあそばれているのです!」


「そんな事は絶対にない! 母上、あなたは本当のアミラを知らないだけだ」


「知っている! あの女は魔人だ!」


「魔人の全てが叔母様のような人ではない」


 ルイーズにも、本当は分かっていた。


 ジャメルにエリザ、他にもルイーズがこの城に来る前からここで仕事を得ている魔人達は皆、国王やルイーズ、アンドレを敬い慕ってくれている。


 しかし、息子の妻が魔人などと、到底許せるものではない。


 それとこれとは、話が別だ。


 また私は魔人の為に、煮え湯を飲まされるのか。


 もういい、腹を括ろう。


 私が鬼になればいいのだ。


 あの日は失敗したが、今回は必ず成功させてやる。




「それで、お祖母様はママを殺そうとしたの?」




 当初、アミラはアンドレの申し出を断り続けた。


 ルイーズの魔人に対する怒りはもっともであり、もし、今ここで自分が一人の女としての幸せを選んでしまえば、城の中に居る魔人達の運命をも狂わせてしまいかねない。


 このまま静かに生きていく、そう決めてここへ来たのだ。


 ところが、ある日ルイーズから手紙を受け取った。


 たった一言。


 『好きにすれば良い』


「ベル、これはどう言う意味なのかしら」


「文面のままかと…」


 ベルの様子に気付けない程度に、アミラの心も躍っていた。


 そして誓いを立てたのだ。



 ルイーズからの手紙を受け取ってから暫く、アミラは城の中でアンドレの妻として幸せな日々を送っていた。


 アミラは、自分の身体の変化に直ぐ気付いた。


 自分以外の魂が、自分の中に居る。


 勿論アンドレは喜んだが、一番喜んだのルイーズだった。


 産まれてくる子供と過ごすために、部屋の調度品を自ら選び幸せの絶頂にあったアミラ。


 そして、毎日のように届くルイーズからの贈り物を疑いもなく受け取り、そして口にした。


 お腹の膨らみが目立ち始めたある日、珍しい果物がルイーズから届けられた。


 切り分けたのは、ベルだった。


 アミラが突然苦しみ始めた。


 このままでは、お腹の子どころかアミラ自身の命が危ない。


 アミラは自ら立てた誓いを、破った。




 ルイーズの部屋に、フレッドとアンドレが神妙な面持ちで入ってきた。


「うまくいったのかい!?」


 上気した顔のルイーズが、弾かれた様に椅子から立ち上がる。


「とうとう、やってやった!」


 フレッドとアンドレに駆け寄り、二人の手を取った。


「もう、これで魔人に悩まされる事は無いわ」


「そうだな」


 フレッドはそう言って、ルイーズの手を振り払った。


「母上……」


 アンドレは、優しく手を解く。


 兵が、ルイーズを鎖に繋ぎ、古城へ連れて行った。




 苦しみから解放されたアミラが、荷物を準備していた。


「私は、城を出ます」


「どうしてです、そんなお身体で」


「ベル、今までありがとうございました」


 荷物を抱えて、今にも出て行きそうな気配である。


 様子に気が付いたジャメルとエリザもやってきた。


「二人にはわかるでしょう。私が何故出て行くのか。出ていかなければならないのか」



 ジャメルが、アミラの部屋に呼ばれたのは、アミラが自身の妊娠に気付いた時だった。


「誓いを立てようと思うの」


「誓いの証人になれと?」


「私は生まれてくる子に魔人であって欲しくないの。魔人なんて何一つ良いことないわ。だから誓いを立てます。この子が普通の人間として産まれてくる代わりに、私は今後一切魔力を使わないと」




「誓いを破って魔力を使ってしまったけど、ママと私の命は助かったのね」


 ここからは誓いの証人だった自分が話すべきだ、ジャメルは心を決めた。


「誓いを破ったら、逆の事が起こる。ここから先は、私が話しましょう」


「ああ、ジャメル。そうね、ここからはお前が話すべきね。お茶が覚めてしまった。入れなおしましょう」


 ベルが席を外した。


「じゃぁ、私の魔力は、お祖母様の毒からママと私を守る為に……」


「そう言う事になりますな」


「そう考えると、私が魔人なのは、仕方がないわね」


 レナはジャメルに微笑みかけたが、ジャメルの表情は暗い。


「まだ、何かあるの?」


 ジャメルは迷っていた。


 これ以上、話す必要はあるのだろうか。


 不必要にレナを傷付けるだけなのではないだろう。


「ジャメル?」


「いずれ知る事になるなら、今知った方が良いのかもしれませんな」


 ジャメルの目は、遠い闇を見ていた。

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