猛進の先14
「ただ、私について来れば良い。お前は手出しをするな。何が起こっても、だ」
セルゲイは、何も知らされないまま、ただ父の後ろを着いて歩いただけだった。
何もしないのなら、一緒に来る必要があったのだろうか。
初めて村に足を踏み入れた。
ここが魔人皇族の村なのか。小高い丘の上に、石造りの小さな城が見えた。
あの時、閉じ込められたのは、あの城の何処かだろう。
ぼんやりと考えながら歩いていると、それは突然起こった。
同行していた魔人達が、一斉に村の人達を襲い始めた。
逃げ惑う村人、反撃する村人、しかし、圧倒的にリエーキ軍が強かった。
セルゲイは目を疑った。
そんな筈はない。父までもが魔力を使っている。
いや、違う。使っているフリだ。
何か大きな力が、この村を覆い尽くし襲っている、セルゲイの目にはそう見えた。
村中で上がる怒号と悲鳴。
小さな女の子が、セルゲイの足元まで逃げて来た。
助けたい。
女の子に手を伸ばそうとした時、目の前で地面に吸い込まれる様に消えた。
消える瞬間の少女と目があった。それは恐怖と絶望を浮かべていた。
「!!」
セルゲイは、間も無く父になる予定だった。
「子供にまで手をかけるのか」
父に詰め寄ったが、何も答えなかった。
ほんの一時間程で、村に静寂が訪れた。
「帰るぞ」
セルゲイは、何もできなかった自分達を責めながらの帰国となった。その脳裏には、あの少女の目が焼き付いていた。
「セルゲイ、お前は何も悪くないよ。それに、お前の父親も」
カリナの言葉に、セルゲイはとうとう泣き始めた。
「子供の名をつけて欲しいと来た時に、気付いてやればよかったね。ずっと抱え込んで辛かったろう」
カリナの言うとおりだった。
父が村にたどり着けたのは、自分が調べ上げた資料があったからだ。
何故父はあんな事をしたのか。
セルゲイは、全てが嫌になってしまった。何も知らされず、何もできないのなら、何知りたくないし、何もしたくない。ふとした事で、あの目がセルゲイを苦しめた。
産まれてきた子供にも後ろめたかった。
お前の父は、小さな女の子を見殺しにしたんだ。
「自分の子だろ。名前はセルゲイお前が付けなさい」
父に言われたが、こんな穢れた自分に名前など付けられる子供が可哀想だ。
その時、カリナの事を思い出した。
魔力皇族のカリナから名を貰った子なら、きっと幸せになれる。
ドプトスまでの帰り道は、アルセンの用意した馬車を使った。
「本当に、あのままで良かったのかしら」
しばらくアルセンを手伝いたいと言う願いにセルゲイ夫婦を墓に戻さないまま、城を離れた。
「まぁ、構わないよ。魔力が使えるわけでも、他の者に見える訳でもないんだ」
ポケットの中から解放され、レナの隣で馬車に揺られるカリナの言葉にレナも納得した。
「そうよね、あの親子には時間が必要よね」
「何を一人前な事を言ってるんだい」
クマのぬいぐるみが大笑いをした。
そして、覚悟を決めた。
村へ戻ろう、と。
ハンスの代わりにムートルに滞在していたエリザは、我慢の限界だった。
兄の行方が気になる。
しかし、ムートルにいては何も調べようが無い。かと言って、任務を放棄してここを離れるわけにもいかない。
せめてマルグリットと話が出来れば、とは思うものの冷静に話ができるのか、自信がなかった。
何もわからないまま時間だけが過ぎる中、エリザに朗報がもたらされた。
レナが、コサムドラに帰って来た。
アンドレに帰国の挨拶を済ませたレナは、花嫁の間へ向かった。ここなら、カリナも人目を気にせず話せる。
「私は人目何か、気にしちゃいないけどね」
「大おば様は、気にしなくても私が気にするの。だって、ぬいぐるみと話す17歳何て聞いた事ないもの」
花嫁の間は、レナがベナエシへ旅立ったあの日から大して変わってはいなかった。
ハンスが命じたのだろう、掃除はされている様だった。
「暫く大おば様のお部屋はここね」
「ここね、って自分で動けやしないのにこんな所においとかれてもね」
カリナがため息をついた時、ハンスが部屋に入って来た。
「レナ、戻って来たんだね!」
ハンスはレナが返事をする間も与えず、レナを抱きしめた。
「仲が良いのは結構だけど、あまり人前で見せつけるもんじゃないよ」
姿の見えない声に、ハンスはレナを抱きしめたまま身構えた。
次話もよろしくお願いします。




