猛進の先8
もし、あの時の私の選択が間違っていなかったのなら、せめて念願だった歴史書を見たい。
カリナは念じ続けた。
それが届いたのか、若しくは単にレナが不意に思い出したのか。
「もしかして!」
何故かその棚だけは、本の更に後ろにも本が収納できるようになっていた。
「あったわ! 大おば様、あったわ!」
レナは数冊の古めかしい本をクマのぬいぐるみの前に積んだ。
「早く見せとくれ!」
レナは、ゆっくりと本を開いた。
クマは黙々と読み続けた。
レナはページをめくり続けた。
自らの子を自らの手で流したその夜、カリナは我が子に誓った。
「私が、お父様より先に魔人国を復活させる。あんなひどい事、これ以上させちゃいけな」
なのに歳を重ね、失いつつあった体力と魔力を得る為、レナを襲ってしまった。
あのルイーズの手紙が、レナを守ったのはルイーズの思いだけではなく、あの日失ったあの子の力もあったのかもしれない。父タルメランと同じ道を歩もうとした愚かな母を止めたのは、きっとあの子だ。
「あの本達が、持ち主を選ぶんですって」
レナがそんな事を言っていた。
何の為に歴史書を読む必要があったのか、本当の目的を思い出したのを、歴史書が知ったのかもしれない。
「やっと、私も選んでもらえたのかもしれないね」
ただ、自らの手でページをめくる事すら出来ないことがもどかしくて仕方がないが。
「レナがこの棚に、歴史書を戻した事が全てのきっかけだね」
「え……」
「最後の一行、読んだかい? あるべき場所に戻った時、再び時間が動き出す」
「あ……。でも私、そんなつもりは……」
「物事ってのは、たいていの事が、そんなつもりなく始まるもんなんだよ」
最後の一文は間違いない、父タルメランの字だ。
レナとカーラが、コサムドラへ戻る日が決まった。
「レナ、私も行くよ」
このまま大人しく墓の中で眠るつもりはなかった。動き出した時間から、父タルメランを引きずり落とさねばならない。
それに……
「できるならリエーキに立ち寄って、あの大馬鹿に小言の一つも言っておきたいね」
しかし、ベナエシを離れる前に片付けなければならない大事な事があった。
「本当に良いの? 大おば様。このままコサムドラへ行っても誰も気付かないと思うけど」
レナにしてみれば、新たな揉め事が起きるだけにしか思えないのだが……。
「レナだって、この状況をルイーズに言わすにここを離れる訳には行かないだろう。それに、村が襲われた頃の事をルイーズからも聞きたいんだよ」
そう言われてしまっては、手を貸さない訳にもいかなかった。
夕食を済ませて、自室に戻ったルイーズは机の上に、レナに渡したクマのぬいぐるみが置いてある事に気付いた。
「おや、夕方ここへ来た時にでも忘れたのかもしれないね」
手にしたぬいぐるみは、自分が仕上げた時とは、何かが違う気がした。
「ひ、久しぶりだね」
カリナは緊張で少し声が裏返ってしまった。
「え?」
ルイーズは、ぬいぐるみをじっと見つめた。
明日もよろしくお願いします。




