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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
戦いの17歳
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猛進の先8

 もし、あの時の私の選択が間違っていなかったのなら、せめて念願だった歴史書を見たい。

 カリナは念じ続けた。

 それが届いたのか、若しくは単にレナが不意に思い出したのか。

「もしかして!」

 何故かその棚だけは、本の更に後ろにも本が収納できるようになっていた。

「あったわ! 大おば様、あったわ!」

 レナは数冊の古めかしい本をクマのぬいぐるみの前に積んだ。

「早く見せとくれ!」

 レナは、ゆっくりと本を開いた。

 クマは黙々と読み続けた。

 レナはページをめくり続けた。


 自らの子を自らの手で流したその夜、カリナは我が子に誓った。

「私が、お父様より先に魔人国を復活させる。あんなひどい事、これ以上させちゃいけな」

 なのに歳を重ね、失いつつあった体力と魔力を得る為、レナを襲ってしまった。

 あのルイーズの手紙が、レナを守ったのはルイーズの思いだけではなく、あの日失ったあの子の力もあったのかもしれない。父タルメランと同じ道を歩もうとした愚かな母を止めたのは、きっとあの子だ。

「あの本達が、持ち主を選ぶんですって」

 レナがそんな事を言っていた。

 何の為に歴史書を読む必要があったのか、本当の目的を思い出したのを、歴史書が知ったのかもしれない。

「やっと、私も選んでもらえたのかもしれないね」

 ただ、自らの手でページをめくる事すら出来ないことがもどかしくて仕方がないが。



「レナがこの棚に、歴史書を戻した事が全てのきっかけだね」

「え……」

「最後の一行、読んだかい? あるべき場所に戻った時、再び時間が動き出す」

「あ……。でも私、そんなつもりは……」

「物事ってのは、たいていの事が、そんなつもりなく始まるもんなんだよ」

 最後の一文は間違いない、父タルメランの字だ。


 レナとカーラが、コサムドラへ戻る日が決まった。

「レナ、私も行くよ」

 このまま大人しく墓の中で眠るつもりはなかった。動き出した時間から、父タルメランを引きずり落とさねばならない。

 それに……

「できるならリエーキに立ち寄って、あの大馬鹿に小言の一つも言っておきたいね」

 しかし、ベナエシを離れる前に片付けなければならない大事な事があった。


「本当に良いの? 大おば様。このままコサムドラへ行っても誰も気付かないと思うけど」

 レナにしてみれば、新たな揉め事が起きるだけにしか思えないのだが……。

「レナだって、この状況をルイーズに言わすにここを離れる訳には行かないだろう。それに、村が襲われた頃の事をルイーズからも聞きたいんだよ」

 そう言われてしまっては、手を貸さない訳にもいかなかった。


 夕食を済ませて、自室に戻ったルイーズは机の上に、レナに渡したクマのぬいぐるみが置いてある事に気付いた。

「おや、夕方ここへ来た時にでも忘れたのかもしれないね」

 手にしたぬいぐるみは、自分が仕上げた時とは、何かが違う気がした。

「ひ、久しぶりだね」

 カリナは緊張で少し声が裏返ってしまった。

「え?」

 ルイーズは、ぬいぐるみをじっと見つめた。


明日もよろしくお願いします。

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