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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
戦いの17歳
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猛進の先2

 レナが全てを話し終わった頃には、夜が明けようとしていた。

「じゃぁ、あの時アルセンが突然引き下がったのはレナだったのか!」

 思わずハンスが歓喜の声を上げたが、アンドレは渋い表情だ。

 当たり前だ。大事な娘が、誰にも相談せず独りでとんでもなく危険な事をしていたのだ。

「ごめんなさいお父様。でも、あの時は相談する時間もなかったし、したところで、きっと誰も信じてくれなかったわ」

「とにかくレナが無事で良かったよ。今後は独りで暴走してはいけないよ」

 もう済んだ事。しかも、レナに恐れをなしたアルセンは以降すっかり静かになった。

「はい」

「で、それがどうしてベナエシに行く事になるんだい」

 まだハンスは納得出来なかった。

「カリナ大おば様よ」

「え?」

 ハンスは思いもしなかった人物の名前に心臓が跳ねた。

「カリナ大おば様なら、何か知ってるはずなの。私はジャメルが城を捨てただなんて絶対に思えない。何かあったのよ」

「でも、あの方は亡くなったんだよ」

 まだハンスはカリナの名を口にする事すら恐れていた。


 結論が出たのは、ベルが朝食に呼びに来る直前だった。


「カーラ、結婚したばかりで、ベナエシなんて遠い国へ行くなんて、本当にごめんなさいね」

「そんな事を仰らないで下さい。私はお供に選んで頂けて、喜んでいるのですから」

 レナに絶対的信頼を置くカーラは、大喜びで旅の支度に取り掛かった。


 祖母の元で花嫁修行。

 これがアンドレの考えた建前だ。

 高級役人会議のレナの席には、ハンスが座る事となった。

 本来婚約の段階では、まだ他国の王子であり、国政の会議に出席するのは控えるものだが、これもまた、国政の勉強と言う建前で簡単に承諾された。

 中にはレナが出席するよりも、ハンスが出席する事の方が喜ばしいと考える役人までいた。

「何だか悔しいけど仕方がないわね」

 レナはこれまで勉強した山の様な資料をハンスに預けた。


 出発の準備は直ぐに整えられ、レナとカーラはベナエシに向かって旅立った。

 道中、教育係だったマルグリット邸を訪ねる予定になっていた。この予定はレナが無理矢理組んだものだ。エリザとジャメルの幼い頃を知るマルグリットなら、何か知っているかもしれない。

 しかし、ファビオに会えるかもしれない期待で浮き足立ったレナは、アンドレやハンスとの出発時の挨拶をどうしたのかすら記憶になかった。


「まぁ、よくお立ち寄り下さいましたわ」

 マルグリットは大喜びでレナを迎え入れた。

 ほんのひと時立ち寄り、在り来たりな挨拶と会話をしただけだったが、ときおり見せるレナとファビオの視線に、マルグリットは二人の関係に気付いてしまった。

 まさかファビオが、そんな大胆な事をするなんて……。

 別れ際、一瞬レナとファビオの手が触れ合った。二人はあの日の事を思い出していた。お互い初めての事だったが、直接触れ合う肌の感覚は今でも生々しく思い出せた。

「では、マルグリットさん、ファビオもお元気で。またお伺いしますわ」

 レナは後ろ髪を引かれる思いで、マルグリット邸を後にした。今はジャメルの事を優先にすべきだ。それを条件に、アンドレもハンスもレナのベナエシ行きを許したのだ。

「ジャメルが村へ行ったきりなんてねぇ」

 最後にマルグリットが小さく呟いたのをレナは聞き逃さなかった。

 ジャメルは村に居るの?

 しかし、それ以上マルグリットからジャメルの事を聞き出す時間はなかった。



 勿論、別れ側レナにだけ聞こえる様に村の話をしたのはマルグリットの策略だ。

 これでレナ様が村に興味を持ち、足を向ければ私の役目は終わり。私とファビオの幸せは約束されたも同然。

 レナが去った後のマルグリットは、至極上機嫌だった。

「母さん、何でそんなに上機嫌なんだよ」

「あら、そう見える?」

「うん。そんな上機嫌な事態じゃないよ。これじゃ、いつムートル国へ行けるのか分からなくなってしまった……」

「そんなに急ぐ事もないでしょ」

「そうだけど……」

 一刻も早く一人前になってレナの元へ行きたいファビオにとっては、焦りさえ覚える事態なのだ。

明日もよろしくお願いします。

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