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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
戦いの17歳
134/271

ある魔人の死8

 少年ジャメルは、失った村での日々をやり直していた。

 両親もエリザも、エリーとマルグリットの姉妹も皆そこに居た。ただ平凡で幸せな毎日。あの日の後も続く筈だった毎日がそこにはあった。

 こんな筈はない。

 ふとそんな意識が現れるも、直ぐに消えてしまう。ただ、それを何度か繰り返しているうちに、少年ジャメルは自分の中にもう一人誰かかがいる気がし始めた。


 最初に気付いたのはエリザだった。

 湿布薬の薬草と格闘している、ふと兄ジャメルの気配を感じた。

 それは、直ぐ隣に立っているかのようだった。

「兄さん?!」

 しかし、それは直ぐに跡形もなく消えてしまった。薬草を吸いすぎて、幻覚でも見たのだろうか。


 それは、会議中のレナにも感じられた。

レナは会議が終わると、花嫁の間に駆け込んだ。

「エリザ、さっきジャメルの気配がしたんだけど」

 薬草を刻んでいたエリザの手が止まった。

「やはりそうでしたか」

 薬草の所為ではなかった。

「でも、あれ子供よね……」

 レナの言う通りだった。兄ジャメルに違いはなかったが、それは子供だった。

「どういう事? ジャメルに子供いたの?」

「いえ、私は存じませんが、いたかも知れませんわね」

 エリザは再び薬草を刻み始めた。

 若い頃の兄は、随分と人気があった。あの影のある無口な感じが、若い女の母性本能をくすぐったのだろう。

 もしかしたら、あの頃の相手の誰かが子を産んだのかも知れない。

「私、ジャメルを本気で探すわ」

 レナの言葉に、エリザの手が止まった。

「兄はそれを望んでいないと思います」

「でも、この城にジャメルは必要よ」

 レナが食い下がった。

「私ではお役に立てませんか……」

「そうじゃないけど……。」

 レナも薬草を刻み始めた。


 エリザは誰にも言わずに、ジャメルを探し続けていた。ジャメルに子供が居ない事も調べ上げた。

 だとすれば、何をどうしても見つからなかったジャメル本人が、突然少年に戻ってここへ意識を馳せた。何かがおかしい。

 しかし、レナをこれ以上巻き込むわけには行かない。



 少年ジャメルは夢を見たのかと思った。

 大きな城の一室で、薬草を刻むおばさん。

 偉そうな人達と一緒に会議をしている若い女性。

 あれは何だったんだろう。

「ジャメル、忘れるんだ。人間の中で暮らした事など忘れてしまえ。そして、ここで大人になってエリーと結婚すれば良い。お前の望んだ事だろう?」

 この声……。

 ジャメルは全てを思い出した。

「王様!」

 少年ジャメルは、あの冷たく固い石畳の上で現実に戻っていた。

「どうだ、幸せだっただろう」

 王の言う通り、ジャメルは幸せだった。

「我々の国を取り戻せたら、もっと幸せに暮らせるのだ。ジャメル、お前とマルグリットのおかげでレナを見つける事が出来た。レナさえここに来れば、全ては取り戻せるのだ」

 危険だ。

 この村は危険だったのだ。

 恐らくマルグリットは、王に操られているのだ。

「いや、違う。ワシはマルグリットを操ってなどいない」

 ジャメルの意識は完全に王に把握されてしまっていた。

「マルグリットは、自分の家族の幸せと引き換えにワシの手先になる事を誓ったのだ。まぁ、一度は逃げようとしたので、幸せを一つ取り上げたがな」

 嬉しそうに笑う王に、狂気を感じた。


 それは、レナとエリザが、ベルに例の薬草を湿布している時に起きた。

……エリザ、何があっても村には来てはいけない……

 突然エリザの思考に飛び込んできた。

……姫君、救っていただいたのに申し訳ない。しかし姫君のお陰でエリザを人殺しにしなくてすんだ……

 今度はレナに。

 レナを姫君と呼ぶのはジャメルだけだ。

「エリザ、ジャメルが!」

「ジャメルがどうしたのです!」

 突然叫んだレナに、ベルは状況が飲み込めず思わず大きな声を出してしまった。

 しかしらエリザにだけはジャメルに何が起きたのか理解できた。

 間違いない。

「兄が死んだようです」

 エリザが静かに言った。


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