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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
戦いの17歳
131/271

ある魔人の死5

 花嫁の間を静寂が包んだ。

 レナは自分の心臓の鼓動がファビオに聞こえてしまうのではないかと思った。

「も、もうムートルへ向かうの?」

「まだ。だけど……」

「だけど?」

 レナの声が震えた。

 分かっていた。いつかこうなる。レナはハンスとの婚約を破談にす事すら出来ないくせに、ファビオを愛し、ファビオに愛される事を望んでいた。

 矛盾。

 レナにぴったりな言葉だ。

「ほら、レナも忙しそうだし。俺も準備があるし……」

 ファビオが言いよどんだ。

「ちがう……」

「え?」

「違うんだ。ごめん、本当は自信がなくて……」

「ジシン?」

 ファビオは情けない顔をレナに見られたくなくて、レナを胸に強く抱きしめた。

 しかし、それは逆効果だった。

 レナにはハンスに怯えるファビオの姿が見えてしまった。

「レナがこんなに頑張ってるのに、俺は……」

「ファビオ……」

 レナはファビオに負けないくら強く、ファビオの背中に腕を回した。

「必ず強くなって、自信をつけて戻ってくる」

 今、この瞬間ファビオはやっと決意した。

「待ってる……」

 ファビオは、レナの言葉に、レナを抱きしめたまま腰が抜けたようにその場に崩れた。

「良かった……。レナが待っててくれるなら、どんな事でもできる気がする」

「うん……」

 それはレナも同じだった。

 レナは身体をファビオに預けた。

「レナ?」

 ファビオに名前を呼ばれて、レナは顔を上げた。

 目があった二人にそれ以上の言葉は要らなかった。もう随分前からこうなる事を望んでいた。 

 長い長いキスの後、これから始まるいつ終わるとも分からない別々の時間に刻み込む様に一つになった。


 二人は、益々別れが辛くなってしまった。

「また明日ねっ、て別れましょう」

 レナの提案だった。

「そうだね」


 日が昇る前に、ファビオは城を後にした。

 まだ自分の肌に、レナの張り付く様な肌の感触が残っていた。

 それはレナも同じだった。

 初めて男性を受け入れたシルシが、レナに訪れた。


「おや、今朝はお肌の調子も良さそうですわね」

 レナ自身気が付かなかったが、多少の苦痛を伴って少女から女になった輝きがレナから溢れていた。

「きっと昨日よく寝たからね」

 レナは明日からの会議の資料に手を伸ばした。



 ファビオは城から戻ると、旅の準備を始めた。母マルグリット母まだ帰らないが、いつムートルから迎えが来ても良いように、友人知人への挨拶も始める事にした。


 ジャメルはマルグリットに去られてから、村への一歩が踏み出せないまま、宿にとどまり続けていた。

 時折エリザの意識が自分を探して近くまで来ているようだったが、見つからずにやり過ごせている。

 何故エリザから逃げるような事をしているのか、自分でもわからなかった。瀕死の重傷を負わされたからでもない。巻き込みたくないからでもない。そもそも、エリザは既に巻き込まれて、あんな騒ぎを起こしたのだ。

 では、一体なんなのか。

「早く、村へ帰って来てよジャメル」

 村のある方向を見ながら思案していると、突然少女の声が聞こえた。

「誰だ……」

 辺りを見渡しても、気配すら感じられない。

「私よ、エリーよ」

「そんなハズは……」

「あら、信じてくれないのね。村で待ってるわ、本当よ」

 ジャメルは警戒したが、それ以上の事は何も起こらなかった。

 これはもう、村へ行くしかない。

 ジャメルは、宿を後にした。

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