浸入6
一体何故、今自分は微笑んでいるんだろう。
エリザは自室で、レナが婚約で着たドレスのサイズ直しをしていた。
カーラとエリックの結婚式に向けた準備をレナと二人で始めた。レナは使える部屋がないか、様子を伺いに行っている。
自分には巡って来なかったが、結婚はめでたい事だ。だから微笑んでいるのだろうか。
そこまで考えたところで、エリザの思考を何かが遮った。エリザはドレスを眺めて「やっぱり綺麗ね」と微笑んだ。
レナは、一週間後に予定したカーラとエリックの結婚式に使えそうな部屋を探していた。 探しながら、城の中の異変を探っていた。 そもそも、産まれてこの方、魔力を使えなかったカーラやエリック、それにファビオが使える様になった事自体が異変なのだ。
ファビオ……。大変な約束をしてしまったかもしれない。でも、そのお陰で今こうして前向きに生きられる。
それは偶然だったのか。
レナが城の中をウロウロと歩き回っていると聞いたジャメルは、不信に思いレナの気配を探すも一向に見つけられない。エリザは自室にいる様なので、エリザを訪ねた。
「エリザ、姫君が城の中を歩き回っているそうだが、何か知っているか?」
「え?」
ドレスのサイズ直しをしていたエリザは、兄の異変に気付いた。
「兄さん、それは誰の……」
分かった、マルグリットだ。あの女、とうとう、兄に手を出したか。
「どうして!!!」
エリザが、大声を出した。
何事!
レナは兄妹の異変に気付き、エリザの部屋に急いで向かった。
レナがエリザの部屋に飛び込むと、エリザが怒りで震えていた。
「何事?」
「レナ様、兄が……」
そこまで言ったエリザ、今度は泣き出してしまった。
「何があったの」
レナはジャメルを見たが、ジャメルも何が何やら、と言った表情で妹を見ていた。
「ねぇ、話してエリザ」
レナは、ドレスが犠牲にならないうにエリザの手からドレスを受け取り、離れた場所に置いた。
エリザは、突如キッと顔を上げ兄ジャメルを睨んだ。
「兄さん、マルグリット様はエリー様ではないのよ」
レナには何の事かサッパリ分からなかったが、ジャメルの顔色が変わったところを見ると、何か思い当たる節があるらしい。
レナも気付いた。
「え? もしかして、城を開けていた間、マルグリットさんといたの?」
レナの何気ない一言が事態を悪化させた。
「城を開けていた?」
エリザが噛みしめる様に言った。
「お前には無関係な事だ」
今ここで、村の事を言うわけには行かない。
「あの女!」
「そんな言い方をするな!」
「兄さん、あの女は信用出来ない! 忘れたの、あの女の我儘で私達死んでたかもしれないのよ!」
レナは何をどうしていいか分からず、ただ二人を見ていた。
あの黒い何かが、二人の身体からじわじわ溢れるように現れ、二人の身体を包み始めた。
城を守る魔人二人がいさかいを起こしている。これはとんでもない非常事態だ。
「ねぇ、二人も落ち着いて」
「姫君、妹と城を頼みます」
黒い何かに包まれ、ジャメルの表情すら見えない。
「ちょっと、どこへ行くの!」
あっという間に、ジャメルの気配は城から消えた。
エリザは次第に落ち着きを取り戻し、エリザを包んでいた黒い何かもエリザの中へと戻って行った。
あの黒い何かが全ての原因なのは間違いない。しかし、どうすれば良いのかレナにはさっぱり分からなかった。
城を飛び出し馬を走らせていくうちに、ジャメルも落ち着きを取り戻していた。
気が付くと、マルグリットの家の前に居た。
「ジャ、ジャメル様?!」
外出から戻ったファビオと鉢合わせをしてしまった。
「父上の事は残念だった」
「急な事でしたので業務にもご迷惑を……」
「そんな事は気にしなくても良い」
「どうぞ、中へ」
ジャメルはファビオの案内で家の中へ入って行った。
マルグリットは、夫と過ごしたこの家にジャメルが居る事に、何か後ろめたさを覚え、それを誤魔化すかのように当たり障りのない会話に集中した。




