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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
戦いの17歳
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婚約9

「ファビオ、行かないの?」

 レナとハンスの婚約披露に、マルグリット親子は招待されていた。

「うちは父さんが死んだばかりなんだ。そんなオメデタイ席には不似合いだ」

「確かにそうねぇ」

 それに好きな人の婚約披露なんて、出たくもないわよね。マルグリットは急にレナとハンスに憎しみを抱いた。

ファビオを守り、父母や姉を取り戻すのに多少の犠牲は必要なのよ。



 あの日、ファビオが両親の寝室を開けると、母が床に座り込んでいた。

「母さん……?」

 振り向いた母話は泣いていた。

「ああ、ごめんなさいね。ご飯、作るわ」

「ここで何を……」

「いえね、父さんの服で、あなた用に作り変える事が出来そうなのが無いか探していたら、昔の事を思い出して。ダメね、いつまでも泣いてちゃ」

 そう言って、引っ張り出していた父の服を全て元に戻して部屋から出て行ってしまった。

 そうだ、働かなければ服どころか食べる物も買えなくなる。母の事だ、多少の蓄えはあるだろうが、それを食いつぶしてしまうわけにはいかない。

 この家を売ろう。そして、どこか他の街か国で仕事を探そう。

 そうは思うものの、何から手をつければ良いのか分からないまま、再び酒に手を出してしまい、レナとハンスの婚約の日も身体中から酒の臭いをさせていた。



「ファビオ、本当にもうお酒は止めて頂戴。身体に悪いわ」

「うん……。分かってる」

 そう言って、また一口酒を口に運んだ。


 レナとハンスの指には、婚約指輪が輝いていた。

 軽い昼食を挟んで、午後の数時間レナとハンスは椅子に座り手を取り合い、画家の前に座っていた。

「はい、結構でございます」

 絵師の言葉に、二人は思わす息を吐いた。

「お疲れ様でございました」

 一ヶ月後には絵は出来上がり、城に飾られ民が自由に見る事が出来るようになる。

「お部屋の準備ができおります。お二人ともお部屋へどうぞ」

 緊張でがっちがちになったカーラが呼びにやってきた。



 レナとハンスは夕食会までの時間が、レナの部屋で休憩を取ることになっていた。

 ハンスと二人っきりになってしまう。



「レナ、何だか元気がないね」

 ハンスが思い切ってレナに声をかけた。

「そうかしら……」

 夕食会用のドレスを準備していたカーラが心配そうにレナを見ていた。

 マリッジブルー……?

 カーラから伝わってきたのは、そんな聞いたことも無い言葉だった。

 レナはハンスの求婚を承諾した。婚約期間は2年間。レナが19歳になるのを待つ。その間に、互いをよく知り問題が無ければ結婚式となる。と言うのは、建前でもう結婚が決まったも同然だった。

 静かに目の前に座っているレナの心をのぞき見ようとするが、時折聞こえてくるファビオと言う名以外伺いし知る事は出来なかった。

 ファビオ、また彼奴か。ハンスは計画を実行することにした。



 夕食会に出席したドミニクが、余りに行儀がよくレナは驚いた。

「ねぇ、ハンス。ドミニクはどうしちゃったの?」

 婚約の成立以降、初めてレナから話しかけた言葉がこれだった。

「ああ、エリザさんに随分しごかれてたからなぁ」

 レナとハンスが、自分を見て笑っているのを知ったドミニクがプイっとそっぽを向いた。

「ドミニクは、どうして怒っているの?」

「あぁ、レナと結婚がするのは自分だとムートルでも散々暴れてたよ」

「ええ!?」

「明日は、ドミニクを連れて街へ出ようとおもっているんだけど、良いかな?」

「あら、是非どうぞ」

 レナとハンスが話す様子を、ジャメルが食い入るように見ていた。

「ジャメルは僕達の婚約に反対なんだね」

「反対ではないのよ。でも、時期尚早だって言ってたわ」

「時期尚早か……」

「皆んな楽しそうね」

 レナが宴を楽しむ人々を眺めて言った。

 レナの心は一体どこにあるのだろう。やはり彼奴なのか。


 その夜、ジャメルが城から姿を消した。

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