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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
戦いの17歳
114/271

婚約7

「急なお願いを聞いてくださり、有難うございます」

 エリザはハンスの出迎えを受けた。

「いえ、お役に立てれば良いのですが」

 エリザは妙な気分に襲われていた。

 ハンスの目の前のに来るまでは、何かふわふわとしたとても良い心地だった。

 が、ハンスの前に立つ突然現実に襲われた。

 薄いベールを剥ぎ取られた、そんな感じただ。しかし、これがいつもの自分だ。顔の筋肉に違和感を感じた。どうやら自分は先程まで微笑んでいたらしい。レナ様が見たら「気持ち悪い」と言うかも知れない。

「どうかされましたか?」

 急に真顔になったエリザの姿に、ハンスがは不安になった。ここへ来たくなかったのではないだろうか。何か難しい伝言をレナから言付かっているのではないだろうか。

「では、早速仕事をしましょう。代わりの人選は、どうなっていますか?」

「一応、心に決めた人物はいるのですが、まだ依頼はしておりません」

「そうですか、それでは私の任務をについてお教えください」

 表情一つ変えずに話すエリザの姿に、レナの言っていたエリザ像そのものだと思った。だとすれば、先程の微笑んでいたエリザは誰なのだろうか。



 ハンナが嬉しそうに、レナの新しいドレスの手入れをしているが、レナはそれを着た自分を想像できないでいた。

「どうされました、浮かない顔をして。ミロキオの誓いが叶いましたと言うのに」

 ハンナに言われて思い出した。

 ベナエシの温室で花に誓った筈なのに、レナの心にはハンスに今はもうなかった。でも、もしかしてファビオの様子が分かれば、ファビオにきちんとお別れを言えれば、何かが変わるかもしれない。

 ぼんやりと窓から庭を見つめていると、庭に居たカーラが手を振っているのが見えた。

「レナ様!」

 カーラとエリックは魔力が目覚めてから、尚更親密になっていた。

 レナの婚約の後、結婚をすると先日報告があった。

 カーラの大きな声に、ハンナも窓から庭を覗いた。

「なんでしょうね、もうすぐ花嫁になるって言うのに、あんな大きな声を出して」

 レナは思わず吹き出した。

「花嫁になったら大きな声にを出しちゃいけないの?」

「当たり前でございますよ。花嫁はおしとやかに微笑んでいなければ」

 レナは窓から顔をだして叫んだ。

「カーラ! 花嫁は、おしとやかに微笑んでなきゃだめなんだって!」

「レナ様! 何て大きな声!」

 ハンナはドレスを落としそうになった。



 ファビオはずっと海の底で漂っている気分だった。

 そろそろ母が食事を持ってくる頃か。このまま消えてしまいたいと思っている心に反して、ファビオの身体は空腹を訴えていた。しかし、指一つ動かすのも重い。

 ファビオは這うように自分の部屋から出た。

「母さん、腹減った」

 静まり返った家の中にファビオの声が響き渡った。

「母さん?」

 突然、ファビオの脳裏に隣家アン親子の最後がよぎった。

「母さん!!!」

 思うように動かない身体に苛立ちを感じながら、ファビオは両親の寝室に向かった。

 扉を開けようと思うのだが、身体動かない。

 もし、母にまで何かあったとしたら、自分のせいだ。何を酒に逃げてるんだ。母を支えなければならないのは自分だ。

 もし、この扉を開けて何も起きていなければ、もう逃げたりしない。だから、何も起きないでくれ。

 ファビオは扉を開けた。



 エリザの訪問は、ドミニクにとっては地獄の日々となってしまった。

「ドミニク様、何でしょうね、その字は」

「ドミニク様、何でしょうね、そのお行儀は」

「ドミニク様、何でしょうね、そのお言葉使いは」

「ドミニク様、お食事の好き嫌いはいけませんよ」

 無表情で静かに注意するエリザに、ドミニクは怯え始めた。

 しかし、兄ブルーノは大喜びだ。

「エリザさんに来ていただいたおかげで、ドミニクが随分と王子らしく振る舞えるようになった」

「だって、あのおばさん凄く怖いんだ。ニコリともしないんだよ。ハンス兄さん、どうしてあんなおばさんを呼んだんだよ」

 ドミニクがエリザから逃げ回る姿が、宮殿内の名物になってしまった。

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