最初の戦8
サコムドラでは、、会議中の高級役人達が歓声がをあげた。
「ムートル国の民も明るい話題に喜ぶでしょう!」
「隣接する国のうち、コサムドラ、ベナエシ、ムートルの王室が身内となれば、リエーキもこの前のような無茶はしないだろうし、国策としても素晴らしい」
「レナ様もお年頃になられたという事だなぁ」
諸手を挙げて喜ぶ役人達の中で、ジャメルだけが渋い顔をしていた。
「何だジャメル、何て顔をしておるのだ」
高齢の役人が、ジャメルの顔を見て大笑いをし始めた。
その笑いは、リエーキのムートル進行で、緊張続きだった役人達に安息感をもたらし、会議室が笑いに包まれた。
レナがメイドと親しげに庭に出て来たので、思わず隠れてしまった。
しかし、次の瞬間ファビオの目に飛び込んできたのは、メイドにきつく抱きつくレナの姿だった。
「!」
しかしファビオを驚かせたのは、抱きついた事ではない。
レナが抱き付いたのはメイドの筈だった。しかし、今ファビオの目に映るのは卑屈そうな顔をした男なのだ。
ファビオからはレナの背中しか見えず、レナがどんな顔をしているのかうかがい知る事は出来なかった。
今すぐ踵を返して走り去りたい。
しかし、身体の動かし方を忘れたかのように動く事が出来なかった。
レナは、ファビオに気付いていた。
しかし、今はそれどころではない。
「アルセン王ね」
レナはメイドの耳元で囁いた。
「な、何をおっしゃいます。私は……」
「誤魔化しても無駄。私にはアルセン王、あなたが見えてる」
メイドの身体がガクガクと震え始めた。
「ど、どうして……」
男の声だった。
「魔力の違いでしょうね」
レナは静かに言った。
「こ、この手を離して下さいませんか」
「ダメよ。逃げる気でしょう。私からそちらに出向くつもりだったけど、丁度いい。ここで話をつけましょう」
「は、話とは……」
レナは腕に、いや目に見えない魔力の力を強めた。
「よくもムートルに攻め込んだわね」
「そ、それはコサムドラの姫には無関け……」
レナが力を強めた為、最後まで言葉を発する事が出来なかった。
「黙って聞きなさい。アルセン王、あなたの魔力は私の足元にも及ばない。今後、私の大切な物に手を出したら、私はあなたを許さない。それだけは忘れないで」
アルセンは引き下がらなかった。
「べ、別にレナ姫に許していただかなくてもっ!!」
レナは更に力を強めた。
「私、まだ自分の力が何処までなのか分からないのよね。でも、まだまだ強められるわ。そうすれば、アルセン王、あなたはこのメイドの身体の中で消滅するんでしょうね。一度やってみましょうか」
「!!」
アルセンは何とか体を動かそうとするも、ビクともしない。
「約束してくださる?」
メイドの首がカクンカクンと上下に動いた。
「分かって頂けたら、それでいいの」
レナが魔力を解いた。
ファビオには、何が起きているのかわからなかった。
レナの腕の中で脱力したメイドが意識を取り戻した。
「失礼」
ファビオの横をエリザが通り抜けた。
エリザはレナから、自力では歩けないメイドを受け取った。
「エリザ、お願い」
エリザが全てを悟っている事は分かっていた。
そして、そのエリザの背後に居るファビオの事も。
ファビオはハンスに言われた言葉を思い出した。
魔人。
膝が震えた。
震える膝を何とか動かしレナに背中を向け走り出した。
レナは止める事が出来なかった。
ファビオは魔人に怯えている。今のレナが何を言っても、ファビオは受け入れないだろう。
そう、これで良いのです。
エリザは、自分の心に何か正体不明の黒い物が生まれた事に気付いた。




