最初の戦4
ハンスが城に到着した。
「さぁ、兄さん帰ろう!」
ドミニクはハンスの乗って来た馬車に、自分の荷物を手当たり次第に運び込み、さっさと乗り込んでしまった。
「アンドレ様や、レナ姫に礼を言わなければ」 ハンスが嫌がるドミニクを馬車から降ろしていると、ファビオが駆け寄ってきた。
「ファビオ、この人が僕の二番目の兄さん。兄さん、僕の遊び相手のファビオ」
ドミニクが嬉しそうに二人の間に立った。
ハンスにはファビオが何者なのか直ぐにわかった。
「弟を、ありがとう。君も魔人なんだね」
そう言って、ドミニクを連れて城の中へ入って行った。
ハンスには分かっていた。ファビオがレナにとって何者なのか。そしてファビオ自信が、魔人である事をまだ知らないという事も。
「男の嫉妬か」
自嘲するハンスの顔を、ドミニクが不思議そうに眺めていた。
ファビオには、ハンスの言った事が全く理解できなかった。
今、ハンス王子はマジンと言ったのか?
マジンとは魔人なのか?
君も?
どう言う事だ?
息子の様子に気付かないわけがない。
ファビオが生まれてからは、ファビオの事ばかりを気に掛けて生きてきたのだから。
ハンス様、なんて事を……。
「レナ様、申し訳ありません。少し体調が優れませんので、帰らせていただきます」
「あら、大丈夫?」
「はい」
マルグリットはファビオと会わないよう城の中を移動し、ジャメルを探した。
「ギードが、ファビオに?! 何と卑怯な!」
「ジャメル、彼はハンス様よ。リンダ様のお子様ハンス様」
「ですがっ!」
あやつめ、何が楽しくてマルグリット様が隠し通してきた事を。やはり、あの男は信用できない。そもそも、いつもレナ様を危険にさらすのは、あの男だったじゃないか。
ジャメルの鼻息が荒くなってきたが、今はそれどころではない。
「お願いがあるの。ファビオをレナ様に同行させて欲しいの」
「それくらい容易いですが…」
「まさかレナ様と二人旅をする事になるとは」
ファビオは混乱したまま、レナを乗せた馬車の御者として旅立つ事になってしまった。とは言え、元々それほど深く物事を考える性質ではなかったので、王子の気まぐれか何かだろう、と自分を納得させた。
それにしてもマジンなんて言葉、子供の時以来に聞いた。マジンごっご、いつもアンに負けていたなぁ。
考え事に集中した為だろうか、馬が機嫌をそこねて急に止まってしまった。
「ファビオ、どうかしたの?」
「馬の機嫌が悪くて、申し訳ありません。なぁ、どうした。機嫌なおしてくれよ」
ファビオが馬に話しかけると、馬が嬉しそうに、再び走り出した。
「ファビオは馬と話せるみたいね」
朗らかに笑うレナを見て、ファビオは顔を赤くした。レナを抱きしめた事を急に思い出し、レナを直視できなくなってしまった。
「今日は行けるところまで行って、何処かに宿を取らないといけないわね」
ただ旅の急ぐ旅の予定を言っただけだったのに、ファビオと二人きり宿に泊まるのかと思うと、レナは胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。
「なんと、やはりアルセンは自国の民を魔力で支配していた、という事だったのか」
アンドレは驚きを隠せなかった。以前レナが、その様な事を言った時は半信半疑だったが、まさか本当だったとは。
「魔力から解かれたリエーキの民の多くがムートルに残り、復興を手伝ってくれそうです」
ハンスは嬉しそうに言った。
「でもフェルナンドは死んでしまったの?」
魔人だとか魔力の事は、さっぱり分からなかったドミニクだが、フェルナンドが死んだという事だけは理解できた。色々口うるさい執事だったが、死んだと言われると急に情がわいて来た。。
「フェルナンド可愛そうだね」
ドミニクは、しょんぼりと肩を落とした。
「さぁ、ドミニク。お世話になったお礼を言って! ムートルに帰るぞ!」
ハンスはそう言って、ドミニクの背中をポンと叩いた。
本当は、せめて一目レナに会いたいと思っていた。
ドミニクとハンスが部屋を出ようとした時、アンドレは思い出した。
「そうだ! 私の母が、ハンス王子とレナの婚約がどうのと言っているのです。また、落ち着かれましたら、話を進めましょう!」
アンドレの言葉に、ハンスの足が止まった。
が、返事をしたのはドミニクだった。
「王様、レナが結婚するのは僕ドミニクだよ。間違えないで!」
アンドレとハンスは、思わず笑いだしてしまった。




