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15.5,弥助、新生活

 俺が信長から拝領した屋敷にて。


「オイ、飯ハ、マダ、カヨ」

「…………」


 何故だ。


 何故こんな事になっている。


 調理場に面した小さな座敷部屋に転がって漫画絵巻を読みあさる弥助。

 そんな弥助に急かされながら、何故か俺は包丁を握って調理場に立っている。


 信長から弥助を頂戴し、弥助は俺が拝領したこのそこそこ広い屋敷に住む事になった。

 そして時期を同じくして遠藤の屋敷も準備が整い、遠藤は出てってしまったのだ。


 俺は気付いた。

 遠藤が別居となった今、飯を作る人員がいねぇ、と。


 お市ちゃんは料理得意らしいが、生憎今日はウチに来ていない。

 ウチにいたら頼みもしたが……主君の妹君を料理作らせるためだけに呼びつける訳にもいかないだろう。


 と言う訳で、俺は生まれて初めて調理場に立つ事となった。


 まぁ幸い、細かな手法は知らないが米の炊き方くらいは知っている。

 野菜は洗って切れば良い、肉は切って焼けば良い。

 手の込んだモンは無理だが、最低限の物はどうにかなるだろう。


 とりあえず、明日、信長に相談して女中さんを手配してもらうとしてだ。


 今晩は俺がどうにかする。


「シッカシ、コノ、漫画ッテノ、面白イ、ナ」

「……漫画絵巻の理解者が増えるのは嬉しいけどよ。お前も何か手伝えよ」

「ハァ?」

「お前、俺と対等な仲間なんだろ? なら飯の支度くらい手伝ってくれても良いだろうに」

「……チッ、ワカッタ、ヨ」

「へ?」

「ンダヨ」

「あ、いや、別に……」


 ヤケに素直だな、おい。

 何となく言ってみただけで、多分「ヤダヨ、面倒、クセ」とか言って拒否ると思ってたのに。


「デ、何スリャ、良イ、ンダヨ?」

「そーだな。とりあえず、野菜を洗ってくれ」

「ワカッタ」


 弥助は野菜の入った桶を持って、水瓶の所へ向かっていった。


「……何か、不気味だな」

「何、カ、言ッタ、カ?」

「いや、別に」


 ……こいつもしかして……

 普通に素直な奴、なのか……?

 約束はちゃんと守ってくれてるし。


 ……まぁ、何だ。

 漫画絵巻の趣味は合う様だし、意外と協力的だし。

 割とこいつとの生活は上手く行くかも知れない。


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