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13.5,お市、成長中

 清洲城、お市の私室。

 角の生えた馬や翼を持ったトカゲなど、南蛮のモノノ怪を模した愛らしい人形が並ぶその部屋で、お市は静かに長政イチオシの漫画絵巻を読んでいた。


「市姫様……浅井様が出陣される様ですが、よろしいのですか?」


 お市の周囲の世話をする20代中盤程の女性、女中のおさちが静かに告げる。


「よろしいとは、何がですか?」

「市姫様は、あの方を慕っておられる。片時も離れたくないと申していたではありませんか」

「そうですね……」


 お市はお幸に対して、余裕ある微笑を見せる。


「だからこそ、私は黙して待つのです」

「黙して待つ……」

「私が戦場などと言う危険な場所はまで行きたいとダダをこねれば、長政様は困ってしまうに決まってる」


 本当はついて行きたい。どこまでもついて行きたい。

 長政の勇姿を間近で見たいし、助力の限りを尽くしたい。


 でも、それはお市の我侭。長政の望む所ではない。

 お市としても、長政の望まぬ事など望む気は無い。


「だから私は待つのです。疲れ帰って来た長政様を優しく包容し、その武勇を聞かせてもらう。それで満足するとします」


 ちょっと前に、長政の勧めで読んだ少女向けの漫画絵巻に書いてあった。

『良妻』とは、愛する夫の傍らに付き纏うだけでなく、時には夫の帰りを黙して待ち、夫の帰る場所……故郷の様な重大な拠り所となる者だと。


「長政様の(将来的な)良き妻として……今は己の欲と戦う時」

「市姫様……いつの間にか、そんな我慢を覚えて大人に……」

「母上が言ってました、恋は人を急成長させると。私は今、大人の女に急成長中なのです!」

「偉い、偉いですよ市姫様!」

「……でも正直、もう挫けそう……長政様……うぅ……」

「えぇ早いっ!? 市姫様! お気を確かに!」

「うぅぅ……お市、負けない……」 


 できるだけ早く帰ってきてくれ。

 お市を慰めながら、お幸は全力で長政の武運を祈る。


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