気に入ったわ
「あなた、背が高いのね。」
それは私が何度と言われてきたコンプレックス。
自然と俯きかけた頬を片手でぐっと掴んで私に声をかけてきた少女は私の顔を見つめた。
「肌の肌理が細かくて化粧映えしそうな顔立ち。気に入ったわ。」
これが私とユキの出会いであった。
ユキとは高校が同じだった。
2年で同じクラスになり初めてまじまじとユキを見た時、噂通りお姫様のような人だと思った。
ユキは色が白く華やかな顔立ちをしているため、入学当初から噂になっていた。
曰く、お姫様のように綺麗な子が入ってきた。
曰く、お姫様のように何でもそつなくこなす。
曰く、お姫様のように誰にでも分け隔てなく優しい。
そんな噂のお姫様は本当にお姫様のようだった。
いつも人に囲まれて、にこにこと優しい笑顔を振りまいているユキを見るために教室に足繁く通う人は後を絶たない。
でも、どんなにたくさんの人に囲まれても、ユキの瞳はどこか寂しそうだった。
4月も終わり、クラスの人ともなんとか馴染み始めた週末前日。
図書委員の仕事を終えて帰ろうとした時、私は教室に忘れ物をしたことに気がついた。
特別棟から教室へ向かうにはかなり大回りをしなくてはならない。
だが大事な忘れ物を週末後に回すことはできない。
私はしぶしぶ教室へと向かった。
薄暗い教室を想像していたが、教室には電気がついていた。
誰がいるのだろう。
不良だったらイヤだな。
磨りガラス越しでは相手の顔は見えない。
私はおそるおそる扉を開けた。
「雪平さん?」
「あら、津宮さん。遅かったのね。」
私の席に座ってくつろぐユキの姿があった。
ユキは私が来ることが分かっていたかのように読んでいた本を閉じてカバンに仕舞った。
「どうして私の席に?」
「あなたを待っていたのよ。」
「どうして?」
ユキは立ち上がるとつかつかと私に歩み寄ってきた。
ユキは身長は低いものの、オーラというか存在感が大きいため私は思わず後ろに下がってしまった。
「ふーん。」
ユキはじろじろと値踏みするように私の全身を見た。
その様子はお姫様、と崇められているいつもの様子とは違っていて私は少し怖くなった。
「あなた、背が高いのね。」
ぐっ、と息が詰まるような音が自分の喉から聞こえた。
私は172センチもある。
女子にしてはすこし、いや、かなり高い。
俯きそうになった頬をユキの手がぐっと掴んだ。
頬にユキの細い指が食い込んで少し痛い。
唇はタコのようににゅっと尖った形になり声が出しづらい。
「にゃにするんでふか。」
「肌の肌理が細かくて化粧映えしそうな顔立ち。気に入ったわ。」
ユキは手を放すとにっこりとお姫様スマイルを浮かべた。
「明日、高山駅に12時ね。」
「え?」
「何か用事でもあるの?」
「いや、ないですけど。」
「じゃあ決まりね。」
ユキはそれだけ言うとカバンを手にさっさと帰ってしまった。
私はユキの後ろ姿を見つめ、頭の中で先ほど言われた言葉を何度も繰り返していた。
★ ★ ★
高山駅は高校から3駅離れた住宅街であった。
電車の窓に映る自分の姿を見ておかしな所がないか確認した。
Tシャツにジャケット、チェックのパンツにスニーカー。
高校生らしい服だと我ながら思う。
改札を抜けるとユキはすでに待っていた。
桜色の膝丈ワンピースに白いボレロ、チョコレート色のショートブーツにキャメルのバッグ。
お城からこっそりと町に抜け出してきたお姫様のようだった。
「津宮さん、こんにちは。」
ユキは私に気づくとにっこりと笑って近づいてきた。
「早速だけど、ついて来てもらえる?」
疑問形なのに有無を言わせない凄みを感じた。
私はおとなしくユキの後ろを歩く。
程なくしてマンションの前に辿り着いた。
ユキは淀みなくエントランスに入っていく。
「あの、私手土産とか何も持っていないんですけど。」
「気にしないで。」
ユキは素っ気なく返事をするとすたすたとエレベーターへと向かう。
私は慌てて着いて行った。