からかうのが半分
私達が引っ越してきたのは一ヶ月前。
最初は2DKでは狭いのでは、と思ったがそれはあるカラクリによって解決した。
実はこの部屋は隣の部屋と繋がっている。
隣の部屋というのは玄関が別にある隣の部屋のこと。
つまり2DK同士の部屋の壁が取っ払われて可動式壁に変化しているのだ。
この部屋はわざわざ改造したのではなく、前の住人が改造したのをこれ幸いと流用させてもらっているのだ。
ちなみに前の住人は隣同士で両親と娘夫婦が暮らしていたらしい。
この二つの部屋によっちゃんと私がそれぞれ住んでいるのではない。
私とよっちゃんととまくんの3人で住んでいるのだ。
とまくんはよっちゃんの彼氏だ。
そう。
あの噂の7年付き合っている印刷会社の彼だ。
最初は3人で住むと聞いてぎょっとしたが、一ヶ月経った今では3人でいないと物足りなくなっている。
右端の部屋は私の部屋だ。
ベッドやクローゼットがある。
その隣はリビング。
3人でごはんを食べたりテレビを見たりしている。
可動式壁を挟んで隣はよっちゃんととまくんの寝室。
ベッドや本棚が置いてある。
そして左端がよっちゃんの書斎兼とまくんの衣装部屋。
とまくんはオシャレな営業マンなのでとにかく衣服が多いのだ。
ごはんは基本的に私とよっちゃんで作る。
早く帰れた日や休日はとまくんとよっちゃんで作る。
朝ごはんとお弁当はよっちゃんが作る。
こう書くとよっちゃんがかなり料理をしているようだがよっちゃんは盛り付けたりサラダを作る係なのだ。
とまくんの料理はとても美味しいが野菜が不足ぎみなので私は常備菜を作るように心掛けるようになった。
常備菜はあればお弁当にも使えるしね。
「いただきます。」
部屋着に着替えたとまくんと3人で手を合わせて夕食を食べ始める。
リビングテーブルは正方形で、1人一辺陣取る形にしている。
今日のメニューはハンバーグにお味噌汁、大根サラダと小松菜のおひたしとごはん。
とまくんもよっちゃんも晩酌はしない。
太るから、だそうだ。
今でも十分細いのに、努力しているんだなあと感心した。
「今日ねー、まあちゃんのお迎え行ったよ。とまくんの言う通りだったよー。」
「とまくん何言ったの?私すごくびっくりしたんだよ。」
「愛美の迎えに行って会社の同僚に挨拶しておいた方がいいんじゃないかって提案したんだ。その方が円滑に愛美が退職しやすいだろ。愛美に言ったら怒ってダメだって言われるから驚かせようってな。」
「同僚の人達がねー、噂だと思ってたけど本当に結婚するんだねってびっくりしてたよー。」
私はぐっ、と言葉に詰まった。
確かに生き遅れさん、こと私が突然結婚する、なんて言って同僚達は半信半疑だったのだろう。
もしこのままよっちゃんが来なければ皆信じずにいたかもしれない。
「ていうのが半分。愛美をからかうのが半分。」
「とまくん。」
私のじとっと目を見るととまくんを見るととまくんはにこやかにごめんごめんと一ミリも謝意を込めずに言った。
「とまくん今週はゴルフ?」
「いや。どうした?」
「渚さんの結婚式のスーツ選んでもらおうと思って。」
「俺の着れば?」
「いいのー!やったー。」
「コーディネートしてやるよ。」
仲睦まじい2人を静かに見つめる。
とまくんとよっちゃんは体格が似ているのでお互いの服を貸し借りしている。
とまくんはよっちゃんより1つ年上だ。
黒髪にほんのりグレーの瞳をしている。
お祖母様が日系アメリカ人のクオーターで、10歳までアメリカで暮らしていたらしい。
そしてとまくんはよっちゃんに負けないくらいイケメンだ。
よっちゃんがほわほわしたお花畑の王子様だとしたら、とまくんは戦場を馬で駆ける騎士様ってかんじ。
私は2人と比べたらびっくりするくらい普通の人間である。
たまに3人で買い物に行くが2人の容姿が目立ちすぎて私まで注目されてしまう。
「愛美も渚の結婚式行くのか?」
「ううん、行かないよ。でもウエディングベアは作ろうと思ってる。」
「そっか。渚喜ぶよ。」
とまくんは笑うと目元がくしゃっとなって、柔らかくなる。
いつもキリッとしているからこそ笑うとほんの少しドキッとしてしまう。
これがバレたらよっちゃん怒るだろうなあ。
3人の部屋の紹介と、とまくんが誰なのかということを書きました。
とまくんとよっちゃんの謝り方「ごめんごめん」が似ているのは仕様です。
一緒にいると似るよね!ということで。
また謎の人物渚さんが出てきてしまいました。