それなんていうゲーム?
私は落ち着こうとティーカップを握ったがカタカタと震えるばかりで全く落ち着けないので飲み物を飲んで落ち着く、ということを諦めた。
「えー、と。」
よっちゃんは相変わらずにこにこと人当たりの良い笑顔を浮かべている。
私は意を決して口を開いた。
「えーと、男の人と付き合ってるの?」
「うん。」
「好きになったのがたまたま男の人だったってこと?」
「ううんー、僕、男の人が好きなの。」
私は意識がぶっ飛ぶかと思った。
たまたま久しぶりに再開した幼馴染がイケメンになっていて、私に結婚を申し込んできて、でも同性の恋人がいるなんて、それなんていうゲーム?
「よっちゃんは女の子になりたいの?」
「ううん。違うよー。」
「えーと、じゃあ、」
「うーん。まあちゃんはさ、カレー好き?」
「カレー?好きだけど。」
突然のよっちゃんの質問に私は素直に頷いた。
さらに言えば二日目のカレーが好きだ。
「僕も好きー。でもさ、世の中にはカレーが好きじゃないって人もいるでしょ?」
「うん。いるね。」
高校の時の同級生にカレーはどうしても排泄物なアレに見えてしまってダメだという人がいた。
「それと同じだよ。僕はたまたま男の人が好きなの。」
どこがどう同じなのかはさっぱりわからなかったが、なるほど、と納得してしまった。
「それで、なんで結婚になるの?」
「お見合いさせられそーだから。」
「なんで私なの?」
「まあちゃんが適任だから。」
「適任?」
「うん。まあちゃん、今日の服自分で作ったんでしょー?」
驚いた。
ワイシャツやジャケットは既製品を応用したのだが、あんな一瞬で衣装の細部に施した刺繍を見られていたとは思わなかった。
「僕のお店さー、委託販売式なんだけど最近専属の作家さんが結婚しちゃってねー。」
「委託?」
「えっとね、僕のお店で扱ってる雑貨は僕が作ったり会社から買ったりしてるんじゃなくて、個人で小物を作ってる人に作品を売る場所を提供して、場所代を貰ってるの。」
「へー。フリーマーケットみたいなもの?」
「うーん、ちょっと違うけど概ねそんなかんじかなー。それでね、さっき言った作家さんはオーダーで洋服を作ったりアレンジしたりしてくれる人なの。まあちゃんと結婚したらその人の引き継ぎしてくれるかなあと思って。人事異動になったんでしょ?」
「なんでそれを知ってるの?」
「ユキさんに教えてもらったの。」
いつの間にユキと話したのかー、とかいろいろ言いたいことはあったが私はよっちゃんの言い方に引っかかりを感じた。
「会社、やめるの?」
「うん。寿退社してもらうよー。」