ポーズ指定はありますか
「異動になったあ?」
「そう。ほんと参る。」
パタパタと念入りに白粉をはたいて鏡で自分の顔を隅々までチェックした。
アイラインを書き足して微調整し、リップを塗り直す。
「そっちはどうなの?最近。」
「実は彼氏との同棲が決まってねー、」
「え!」
鏡から目線を外して隣で同じくメイクを直す彼女の横顔をまじまじと見つめた。
今日もほれぼれとするまつげだ。
背中をたらりと冷や汗が伝う。
「まさか、やめる、の?」
「そんなわけないじゃん。」
私の杞憂をバッサリと切り捨てて彼女は私の方を向くとにっこりと微笑んだ。
「あんたの相方は私しかいないでしょ。」
うるりと潤む瞳を慌てて抑えた。
今泣いたら折角のメイクがやり直しになってしまう。
「さ、行くよ!」
背筋をピンと伸ばせばいつもの自分とは全く違う自分になれる。
私は大きく一歩を踏み出した。
★ ★ ★
「すいませーん、写真いいですか?」
「はい、もちろんです。」
きゃーと黄色い声援が弾けた。
私はキリッとした顔で声をかけてくれた少女達に応え、壁を探してきょろりと顔を動かす。
「アイさん!こっち空きますよ。」
「ありがとう、ミクさん。」
緑色のツインテールをふわりと揺らしながらぶんぶんと手を振る少女に礼を言いながら近づく。
「今日はお一人ですか?」
「ユキは今お花摘みです。」
「わあ!じゃあユキさんも来たら後で撮らせてくださいね!」
「はい。こっちもミクさん撮らせてくださいね。」
きゃいきゃいと膨らみそうな話を無理矢理萎ませてカメラを構えてキラキラと瞳を輝かせる少女達に声をかけた。
「お待たせしました。ポーズ指定はありますか?」
「いえ!お任せでお願いします。」
「はい。」
白壁を背景に立ち、背筋をピンと伸ばす。
足を肩幅に開き、左手は腰にあてる。
右手でネクタイをはずすように指をあてれば研究したポーズの完成。
アゴを少しあげて生意気そうな表情を作り指先まで美しくなるように気を使う。
わあ!と声をあげたのはカメラを構える少女達か、周りの人か。
少女達は正面、左右、下からと慣れた手つきで写真を撮り丁寧にお辞儀をした。
素早く場所を譲ろうと一歩踏み出した瞬間、肩をぽんと叩かれた。
「おまたせー。早速モテてるね。」
淡いピンク色のセミロングヘアの女性が声をかけてきた。
「きゃー!環ちゃん!」
慌てて口を抑えるも飛び出た言葉は戻ってこない。
恥ずかしそうな少女達に私はにこりと微笑みかけた。
「合わせで撮りますか?」
「いいですか!」
きゃー!と少女達は手と手を合わせて喜んでいた。
先ほどの場所に舞い戻り、2人で打ち合わせしていた通りのポーズをとる。
私は女性と相対して跪き、女性の左手を自分の左手の上に乗せる。
女性は右手を胸元で握りしめ、私の顔を見つめる。
もちろん指先にまで力を入れて。
さながら王子様がお姫様の手を握るかのように表情に喜びを滲ませる。
「すいません、こっちもいいですか。」
とめどなく声があがり気づけば私達は囲まれていた。
ぷるぷると震えそうな腕を根性で抑え込み表情を変えないように努めた。
処女作です。
更新速度は遅いですがよろしくお願いします。