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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act.08 動乱の指標~Route~
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第01節

Act.08 動乱の指標~Route~


王都において後ろ盾となるはずだったサレス伯爵の死によって途方にくれるガイナーたちであったが、ティリアの手引きによって「北の離宮」に足を踏み入れる。

そこで待っていたのは預言者ではなく、ラクローン国王だったことに驚愕するも、その刹那広間に立ち込めるどす黒い霧とともに巨大な甲冑姿の人型が姿を現す。

ライサークもまた一つの依頼を受けて動いていた。


同じ頃、ラクローン王都に新たな動きが生じることになる。


登場人物


ガイナー・・・17歳ライティン


メノアから旅をしてきた、剣技に長けた少年。


ティリアの助けもあって王城の最奥部ともいうべき「北の離宮」に足を踏み入れる。




エティエル・・・推定17歳ライティン


マールの少女


生まれながらに言葉を持たず、彼女の声を聞いたものはいない。


不思議な直感を持つ。


ガイナーと共に「北の離宮」に入る。




フィレル・・・18歳ライティン


カストとともにサーノイドに対してゲリラ活動を続けていた少女。


ボウガンなど、特殊な武器を巧みに操る器用さを持つ。


ガイナーとエティエルの手助けをするべくラクローン王都に入る。




ライサーク・・・22歳ライティン


”ブラッドアイ”と異名を持つ傭兵。


素手での戦闘を得意とし、誰も真似の出来ない闘気を操る戦闘法を有する。


ラクローン王都にて単独行動を行うも、王城の手前でティリアと相対することになる。




ラクローン王(ティスホーン・シンクレア・フォン・エールハルト・メルク・ラクローン)・・・20歳ライティン


前国王の末子にして皇女。


前国王、皇太子の死去により急遽即位せざるを得なくなった。


政務などの経験は少ないが、ガイナーたちを「北の離宮」に招き入れる。




ゴルドール候・・・58歳ライティン


ラクローンにおける有力貴族。


現在は経験浅い国王を補佐するという名目で政務の一切を摂り仕切る。


女王と共に「北の離宮」にてガイナーたちと対面する。




ネヴィリィス・・・年齢不詳


王都において暗躍する人物。


常に仮面をかけており、その素顔を見たものは命の危機に陥れられることになる。


以前メノアにて現れた男と同一人物?




ティリア・・・年齢不明


王都にて暗躍する密偵で外見は10代の少女の姿。


ガイナーたちの危機を救い出し、「北の離宮」へ導く反面、ライサークと対峙する。




ドミニーク・・・年齢不明 サーノイド


サーノイドにおいて高い地位を有するであろう存在。


全身に黒い甲冑を纏う巨漢。普段でも兜を取ることはなく、その顔を見るものは少ない。


自分の胴体ほどの刃を持つ巨大な戦斧を手にしている。




カミル・・・推定20歳 ファーレル


記憶をなくしたファーレルの青年。


単身トレイアへと向かうも、ガイナーと合流するためにラクローンに向かう。




アルティース・・・推定24歳 レミュータ


吟遊詩人として旅をするレミュータの青年。


レミュータならではの高い魔力を有する。


古代の史跡を求めて旅を続けている。




ライム・・・推定16歳 ヴァリアス


トレイアの塔の中において現れたヴァリアスの少女。


その姿は現在のヴァリアスとは異なり、尖った耳と小さな角を有している。




ヘクター・・・28歳 ライティン


トレイアの港町ソルビナを拠点として船を利用した商売を行う男。




ゼータ・・・25歳 ライティン


ヘクターの船に乗り込む船乗り。




ヴァイス(ヴァリサイヤー)・・・推定30歳 不明


フリーの傭兵。リーザたちをアファまで送り届けた後、西の砦で傭兵として腕を振るう。




デュナ・・・18歳 ファーレル


自称「風の悪魔」自らの腕を試すために旅する青年。


周囲に風を起こし、身軽さを武器とした戦法を得意とする。





「敗れただと!!?」

曇り空の漂う不穏な天候の中に一つの怒号が風の流れに乗って周囲に響かせる。

不毛な大地を眼下に見下ろす城内のテラスに敷き詰められた大理石の床に傅く戦士姿の男からの報告を受けてこの城の主であり、先ほどの怒号を発した本人たる銀髪の男はその身を小刻みに震わせながら、静かな怒りを蓄えつつあった。

銀髪の主が受けた報告、数年前より行われてきていたラクローンへの侵攻に際し派兵させた軍勢の帰還の報によるものだった。


“ラクローンへ向けた部隊はそのことごとくがライティン達の軍団に駆逐された挙句、その将たる魔人将サーズは倒れ、司令官として向かわせたドミニークもまた城を失った。”


受けた報告に関してはにわかには信じがたいものが主のどこかにあったのかもしれない。

しかし、冷静に報告を受け止めて一考した後、それは一層主の怒りに油を注ぐ形でもあった。

我々よりもはるかに脆弱な存在であるはずのライティン達によって我らの侵攻を阻まれたのだから。

何よりも将たるものが単身において身を動かし、兵を率いることなく打ち倒されたという報告があったことが何よりも許し難いものへと変わってもいった。

「ドミニークめ…あれほど油断するなといっておいたものを…

サーズまでも目先の功に溺れて倒されてしまうとは何という失態か!!」

その怒りの矛先は足元の大理石の床に大きな亀裂を残す。城の主が怒り任せに足を床に打ち付けたときに生じたものであった。

その音に傅いたままの戦士は面を主に向け、更に言葉を並べ立てる。

「しかし、ドミニーク様は未だにかの地にて残られているご様子です。よもや何らかの策あってのものとは思いますが…」

「ほう…ではその策というものはあいつ自身から聞き及んでいるのであろうな…!?」

「そ、それは…」

主の問いへの回答を有するわけもなくただ言葉を濁すほかになかった。

「何より敗残兵を多数生み出したことは揺るぎのない事実だ!!

その責任は大きい。」

主の憤りに傅く戦士は再び面を伏せこれ以上は煽るまいと沈黙する。せざるを得なかった。

それほどに主の憤りの形相が凄まじいものだった。

「それで…?」

「それで…とは?」

「知れたこと、アファのほうはどうなっているのだ!?」

「は、ははっ、アファへの攻撃はレクサウス様の指揮の下において随時行われている模様。されど、アファの西側に築かれたままのあの砦を破るにはいま少し刻が必要なものか…

い、いえ、近日のうちにライティンどもを蹂躙させうること疑いなく…」

これ以上主の矜持を刺激させまいと、慌てて言葉の訂正を試みようとしたものではあったが、遅かった。

「手緩い!!ドミニークにせよレクサウスにせよ、いったいこれまで何をやってきていたのだ!!?」

主の逆鱗に触れたことによって放たれた一喝は戦士を絶句するに十分であり、姿勢をさらに傾かせる。

「これ以上のライティンどもの増長を許すな。

一刻も早くアファへの総攻撃をかけよとレクサウスに伝えよ!!!」

「は、ははぁっ!!!

ただちに。」

主の有無をも言わせぬ形相にこれ以上の発言をするべくもなく、ただ従順の意を示して戦士は身体の向きをそのままに後ずさり、ドアを抜けて踵を返して足早に走り去っていった。


「ライティンどもめ…よもや、ドミニークまでも退かせるとは…

まさか奴ら、あれの存在を…!?」

一人テラスに立ったままの主は誰に言うものでもなく呟く。

これまで主の思うとおりに物事は運ぶ形となっていた。

ライティンを打倒する。ただその一点においてである。しかし事態は主の思惑とは異なる方向に進み始めようとしていた。

ライティンを軽んじていた、別にそれほど慢心していたというつもりはなかった。だが心の隅にどこかそんな思考を巡らせてしまっていたのではないか?

そんな自問自答を巡らせてしまう不甲斐なさを鑑みて自身に腹を立ててしまう。

本来であるならば今すぐにでも自身で赴いて攻撃の指揮を執るつもりでもいた。しかし主たる立場というものがそれを妨げてしまっていることについても憤りをおぼえずにはいられなかった。

それだけに両の拳からは必死でこらえようとする戦慄があった。

そんな中、再び場内へと続く扉が開かれる音を耳にする。先ほどの戦士と入れ替わるかのように騎士風の身なりをした姿がテラスに立ち、主の背後で立ち止まる。

髪は城の主とは対照的に漆黒で身につけた甲冑やマントも全て同じ色で統一されている。それでもどこかに品を感じさせられるのはその者の有する落ち着きのある雰囲気がそうさせているのかもしれない。

「ダッドか…」

主に未だ威圧めいた雰囲気が言動には残されている様子を見てとるも、そのようなことは気にするべくもなく、ダッドと呼ばれた漆黒の騎士は主の呼びかけに会釈を交わして主の背後に立つ。

「どうやらラクローンは落ちなかったらしい。サーズも討たれたという。」

「…伺っております。」

「魔人将達はどうしている?」

「…

ヴァーレル、メスフィル両名はアファに派遣しておりますが、未だにこれと言った報は受けておりません。残りの者は未だここには戻ってくるに至っておりません。」

「ふん、好きなように動いてくれるものだ。」

「…ですが、それをお認めになられたのは貴方であれば。」

「ちっ…わかっている。」

魔人将、サーノイドにおいてとりわけ何らかの能力に秀でた者達の総称であり、その者達は王によって選定される。

漆黒の騎士ダッドもまた魔人将の一人として名を連ねている者でもある。

彼らにおいては王の命にのみ従うこと。それのみを絶対的なものとし、それ以外のあらゆる行動を独自の判断で行うことを王の名において赦されている者のことでもあった。

今の王の下には7人が魔人将としての地位にある。

しかし、魔人将の一人であったサーズはラクローンにおいて討たれたという報を聞き及んだことで、事実魔人将は6人となっていた。

先ほどの報告を受けて魔人将たるものの独断を咎める思いであった自身であっただけに自ら独自の行動を認めていたことに自虐めいた思いが募ってくる。それゆえにさらに憤りが増すばかりであることも自覚できてしまっていた。

「よろしかったのですか?

このまま弟御であるお二人にお任せしておいても。お二人に万が一のことがあれば…」

「ふん、弟など…

あいつらはあいつらで自己の欲望のままに動いているような奴らだ。

暴れたいというのであればそうさせてやるがよいし、それでしくじったといえどもどういったことでもない。」

「…

そういうことであれば…」

ダッドは主の言と自己の思惑を等しいものであるということを示すかのように恭しく手を胸にあてて頭を下げる。

「だが…」

「は?」

「随分とやっかいなことになってくれているようだ。」

ダッドと呼ばれた漆黒の騎士はただじっとその場を動くことなく、主の言葉を黙して立っていた。

「…アファへ出向いてくれるか?」

「…主命と在らば。」

ダッドはその場で一礼し主の御意に従う意思を示す。

元々ダッドは王の傍にあって補佐する立場にある。しかし王たるものの命とあらばどのような物であったとしても叛くことはゆるされなかった。

「ラクローンに向けた軍勢が壊滅した以上、しばらくはラクローンへの派兵は一時断念する。現存の兵力はアファに戦力を集中させる。

ダッドは一軍を率いてレクサウスと合流し、アファの砦を撃破しろ。」

「では現地においてレクサウス様の指揮下に就くということでよろしいので?」

たとえ魔人将であったとしても王の弟君とあれば立場においては下に位置するものとなる。

ダッドの指摘を見て主は更に命令を付随する。

「レクサウスのやつがどう言おうと知ったことではない。ダッド、すべてはお前の裁量に委ねる。もしレクサウスが意に従わぬとあれば我が命として伝えよ。それでも沿わぬというのであれば…」

「御意。我が主、リューヴァイン様。

ご期待に沿えるよう微力を尽くさせていただきます。」

再び恭しくダッドは礼をする。ダッドの姿勢にリューヴァインと呼ばれた主も小さく頷いて再び曇天の空を見上げた。


「そういえば…」

「…何だ?」

「いえ、弟御といえば…先王の王弟殿下にはお子がおられたはず。確か一時期この城において過ごすことがあったとも聞き及んでおりますが。

今はどうしているものかと…。」

ダッドの言葉にリューヴァインもその存在を思い出したのか、ふとその者の姿を浮かべる。

幼少時まではこの城にあった先王の弟、リューヴァインからすれば叔父の子いわば従兄弟となるべき者でもあった。今にしてみれば同じ血を分けた二人の弟がいながらもその者に気を掛けることの方が多かったのではなかろうか…とも思えてくる。

しかし、時をそれほど置くことなく王弟である叔父に連れられ城を出て行ってしまった。

現在も生きているというのであればおそらく成人していることだろう。

もし今もなおその者が主となったリューヴァインの許にいたのであれば、今の状況をどう思うであろうか…とも。

「もはや此処におらぬ者のことを考えても致仕方ない。まずはこの場にあるもので今後を考えることにしようではないか。」

その中を通り過ぎて城内へとマントを翻しながらリューヴァインと呼ばれた城の主は入ってゆく。

「御意。」

ダッドもまた主の後を追うように城の中へと入っていった。


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