第14節
それぞれに生活がある限り、当然の営みであるかのように、昼間の王都はこのような状況においても喧騒に包まれ、王城へとつづく一際大きな通りは行きかう人によって混雑しているような状態だった。
そんな通りをひたすらまっすぐに駆け抜ける者がいる。
黒い髪に軽装の装備だけに身を包んだ。細身ながらも鍛え上げられた肉体を有する男性。
それ以上に顔を見れば目を引く鋭い赤い眼光はただ大通りの先にある巨大な建造物を目指していた。
やがて人通りは王城に近付くにつれまばらになって赤い瞳の傭兵ライサークの前に阻むものは何一つ無い状況にありながらも、不意にライサークは足を止める。
「…俺が王都に入ったときから俺に付き纏っているようだが、何が目的だ!?」
視界には誰もいない中でライサークは視線を向ける。
ライサークの視線の先には巨大な貴族の邸宅の外壁を越えて立っていた巨木の上、やや黄色い葉を付け始めた枝の上に小柄な人影が見え隠れしていた。
ライサークに声を掛けられることを察していたのか、その人影は枝の上から飛び出しライサークの王城への行く手を阻むような形で対峙する。
その姿は黒衣に身を包み顔のほとんどを同様の色の布で覆い隠し目だけを晒している。
髪はライサークと同じ黒髪に後ろの中心で結わえていた。
「私の気配を読み取っていたとは流石というところか…」
「…
わざと俺に察知させようと気配を出しておいてよく言うものだ。」
「そこまで見抜いていたとは…」
ライサークが耳にした声はまだどこか幼さの残る少女のような声だったことに違和感を覚えるもそれによって表情を変えることはなかった。
「私の名はティリア。」
「ティリア…」
その名を聞いた時、ライサークの眉が僅かに動く。それ以上にライサークの中に大きな違和感があった。
「それで…?」
「・・・・・」
「この俺に何の用があって現れた?」
たとえ目の前に立つ者が少女の姿をしていたとしてもライサークの身体は警戒心を緩めることはなく、一層闘気をむき出しにさせる。
「やはり、あなたは思っている以上の人のようだ。」
ティリアとて少女とはいえども密偵として王都において動き、実戦も経験もあり、目の前の赤い瞳の傭兵ライサークの闘気を肌で感じ取る。
“行く手を阻むものは誰であろうと容赦はしない。”といった意味合いを含んでいるのか、ライサークの気配はむしろ殺気とも言うべきものに近いものでもあった。
「ここから先へは行かせないと行ったら…!?」
ゆっくりと腰に帯びたままの短剣を抜いて間合いを取る。
王都への通りの僅かな区画の中、二人の間の空気は張り詰めたものへと変わりつつあった。




