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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act,06尖塔の竜姫 ~Lime~
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第10節

ヴァルカノンの言う通り終着点とも言うべき位置へとたどり着くのにそれほど時を要することはなかった。

ドラゴンが立ちはだかっていた場所からの先への道は道幅がやや狭まりながらもずっと長い階段がつづいている。この先に待つものが何であるのかということに三人は各々の思いはあるもそれらを口にすることはなく、ただひたすらに黙してその階段を上っていった。

どこまでも続くかに見えた長い階段の終わりが見え始めたとき、その先は塔への入り口で感じたものに似た、これまでとは大きく異なる場所へと誘われていくようだった。

「っ!?

ここは…?

もしかして僕たちは外に出たのだろうか??」

これまでの薄暗い通路とは違い、周囲を眩いばかりの強い光によって三人を出迎えることに皆が目を細めてしまっていた。

「いえ、そういうわけではないようですが…」

いまだに目が慣れぬカミルは目を細めたままの状態で周囲を見渡すも、昼間の太陽が照り続けるかの如き明るさをもつ場所を前にいまだ状況をつかめずにいた。

「どうやらこの明るさはあれが原因なのだろうな。」

「…!?」

ヴァルカノンの声のするほうに目を向けるも未だに光の壁がカミルの視界を奪ったままでいる。青い瞳をじっと細め続けてヴァルカノンの指す方を凝視しつづける。漸く目が慣れ始め、カミルの視界は周囲を見渡せるほどに開けていくと、映し出される周囲の景色は環状に造られた巨大な一室を目の当たりにする。

壁面はこれまでと同じ石造りで出来たものではあるも、いくつかの彫刻がところどころにあしらわれている。天井は透明なもので出来ているのか、骨組みを見るにドーム状で蓋われたものであることを見て取ることが出来る。高さにおいてもこれまでよりもずっと高い位置にあり、何よりも周囲を見渡す限りにおいてはこの先へと進む通路らしきものは見当たらず、おそらくここが終着点であると思われる。

そしてヴァルカノンが指す方向にあったものはひとつの巨大な竜を模った水晶だった。

水晶の竜は部屋の中心に位置する台座の上に鎮座し、外界の光を溜め込んではそれを一気に解き放つかのごとく強い輝きを放ち続けているようだった。

「これはすごい…

これが光を放っていたのですね…?」

アルティースは水晶の輝きを絶賛しながら息を呑む。同時にこの水晶から発せられている魔力にいち早く感づいていた。

そしてそれは、おそらく塔の外部で自身が感じ取っていた魔力の根源がここにあるということも。

「一体これはどういったものなんだろう…?」

「なるほど。これは竜の王たるものを祀る…ということか。」

「竜の王??」

「この水晶が何よりの証となるだろう。

この透明な水晶こそ、竜の王たる白き竜を意味するものだからな。」

「おそらくこれがヴァリアスの至宝というものなのでしょうか?

この水晶から発せられる魔力は凄まじいものを感じられます。」

アルティースほどに魔力を感じられるわけではないが、カミルとて水晶から発せられるものが光だけではないことは感じ取ってはいる。しかし、これがどういったものであり、何を意味するものであるのかはこの場において答えを見出せずにいた。

「まだなんとも言えるものではないのだがな…。」

「白き竜…」

この言葉にカミルの記憶の奥底へと駆け巡らせる。

たしかにその言葉をどこかで聞いたような覚えがかすかに残る。

もしかすれば記憶違いと思わなくもないかもしれない。しかし、ここに来たことによりカミルの失われた記憶の扉をわずかにせよこじ開けようとする何かがやってきたこともまた事実であった。

“また出逢える日はきっとある。どうかその時まで…”

「…っ!!?」

カミルの記憶の奥底に聞いたことのある言葉とともにうっすらと人影が映し出されてゆく。

特徴までは明確なまでに見えているわけではない。しかし、カミルの記憶に眠る人影は明らかにカミルに向けて顔を向けていた。

記憶を手繰り寄せるかのように、カミルはおもむろに水晶に向けて手を伸ばしてみようとしていた。

「!?

カミル…、いったい何を…?」

何故そのように手を伸ばしてみようと考えてしまったのか、この時点でカミルの中に自覚めいたものがあるというわけではなかった。しかし、水晶に触れそうな距離に手が達したとき、目前の水晶はこれまでとは異なる様子を見せようとしていた。

「…っ!?」

カミルが水晶に触れようとしたその瞬間、水晶の竜は大きな乾いた音をたてながら、再び強烈な光を放ちカミルに向けて光を浴びせる。

「!!!!??」

「カミル!!?」

「これは…」

突然に起こった事態をどうにか把握しようにもアルティース、ヴァルカノンも視界を奪われてしまい、もはや目を開いたままでいることさえ適わない状態に陥ってしまう。

しかしアルティースは視界を奪われてしまおうとも、水晶の竜から発せられるこれまでに無いほどの強い魔力を光の中に感じ取っていた。

それとともに水晶の竜があった辺りからは大きな破裂音らしきものを耳にしていた。

「これは…なんという魔力でしょう…」

「この音は…

もしや…!?」

言いようの無い不安感を覚えながらもアルティースは閃光に包まれた世界に身を預けるほかは無く、ヴァルカノンと共に諦観する。

「カミル!?大丈夫ですか!!??

カミル!!??」

このときアルティースの声がカミルに届いたのかは定かではない。すでにカミルの周囲の世界は全てが白い光の中にあった。


突然浴びせられた強烈な光は未だに瞼さえも通り越して突き刺してくる。受けながらもカミルはおそるおそる目を開けようとする。差し込んでくる光はあまりにも強く、目の筋肉が強張ってくるようで少々痛みを覚えてくる。辛うじて青い瞳を露にして景色を覗き込もうとしても、世界のすべては光に包まれているかのようで先ほどまであった水晶の竜はおろか二人の位置、周囲の景色さえ確認出来ないでいる。

眩暈にも似たあるいは身体がふわふわと浮かんでいるかのような感覚にとらわれているかのようにも思われた。

依然眩しさは拭えず、しっかりと地に脚がついているのかさえおぼつかない状態ともいえるものではある。とはいえ、それがカミルにとっては不快な気分にさせるというものではなかった。

どういった状況にあるのかを周囲を目で追いながら模索する中、カミルは微かではあるが音が届くのを感じ取っていた。それは物音の類というものとはやや異なる。どちらかといえば誰かの話し声のようなものが響いてくるかのようだった。

「この声は…??」

全てが白い世界の中にいるカミルはじっと聴覚を研ぎ澄ませる。

カミルはアルティースとヴァルカノンがすぐ近くにいるものだと考えていた。しかし二人の声とはまた違う。そこから聞こえてくる小さな声は女性らしい色を響き渡らせてカミルに届いてきていた。


『行ってしまうのね…』


「女性の声?いったいどうして…??」

これまでずっとカミルの近くにいた人物はアルティースとヴァルカノンであって、二人とも女性にも見間違うほどの端正なものではあるが、それらは男性であることは疑いようが無い。本来であれば、カミルの耳に届く声というものは男性の声色であるはずである。

しかし、この現状においてこの女性の声の主が一体誰に対してのものであるのかは今のカミルに知ることは出来ない。

不思議な声に訝るも、カミルにはこの声を聞くと不意にどこか懐かしさを漂わせてもいる。

そんなカミルの記憶の奥底に眠り続けているものは一つの言葉を浮かび上がらせていた。


“また出逢える日はきっとある。どうかその時まで…”


そんな約束をしたことがずっと遠くの記憶の片隅にあった。

それがいつ、どこで、誰と交わしたものだったのか、肝心のその辺りには靄がかかっているように不透明で何もわからなかった。

彼の記憶の中には、その約束だけが残滓のように小さく残されているだけにすぎない。

しかし、水晶の竜を見たときも同じ言葉を浮かび上がらせていた。

何故、今になってこんなことが脳裏に浮かんできているのだろうか…??

カミルは光に包まれたその一瞬の間に飛び込んでくる小さな破片にも満たないほどの記憶を垣間見ながらも水中に浮かぶ泡のように浮かび上がっては水面で弾けるように記憶が呼び起こされてはかき消されているようだった。


『心配は要らない。きっと帰ってくるさ…。』


「…??」

聞こえてくるのは一人ではない。

傍らにはもう一人の影がこれもまたうっすらとではあるものの気配だけは存在する。


『こいつも…きっとな。』

『・・・・・』


「あの人は…??」

カミルにはうっすらと浮かぶその人物に微かではあるものの見たことがあるような気がして成らなかった。

霧掛かった世界が徐々に晴れ渡ってゆくようにカミルの見る世界に景色が表れてゆく。

そこにいた人物、一人は男性、もう一人は女性の姿だった。

男性は水色の長い髪を背中が隠れるほどに無造作に垂らし、細身でありながらも屈強な体躯とは言わないまでもしっかりと鍛え上げられた身体を有している。瞳は蒼くそれこそがその男性がファーレルであるという確たるものである。もう一人は海の色にも似た青い髪を男性よりも長く伸ばし、首もとのすぐ後ろで束ねている。瞳の色はやや青みを帯びた鮮やかな紫の輝きをもつ。その人物が女性と瞬時に判断できたのは身体の線をはっきりと浮かび上がらせるかの如き装束を纏っていたものであったことに他ならない。

それよりも特徴的だったのはその女性の耳の形状である。他に類を見ないほどの先端を尖らせた異形の姿。それがどのような種族であったのかは今のカミルに判別することは出来ないが、明らかにこの二人は全く異なる種族であることは間違いない。

『どうか無事で帰ってきて…、

――――――』

「…!!??」

カミルはその女性が口にした言葉を聞いて目を見開かせてしまう。だがカミルが見た世界はそれが総てだった。それから世界の全てが霧掛かったかのように周囲は白く靄が立ち込める。まるでカミルの記憶の曖昧さを嘲笑うかのように。


カラン!!!


「!!!??」

その鳴り響いた金属音がカミルの世界を一変させた。

これまで光に包まれたかのような世界はまるで夢の中の出来事であったかのように、辺りは静寂に包まれていた。

白い靄の掛かったような景色からこれまでいた石造りの一室。足下にはいつの間にか手から零れ落ちた折れた大剣が無造作に転がっている。

「…

さっきまでのは一体…??

あのとき、あの女性が言ったのは…」

カミルは今しがた聞いた言葉を反芻するかのようにその言葉をつぶやこうとした。

「カミル!!!??」

「…!!!?」

アルティースの不意に呼ぶ声にカミルは声の主に顔を向ける。

「カミル、どうかしたのですか?」

「え…?ああ…、うん大丈夫だよ。」

「…?」

未だに夢覚めやらぬともいうべきか、なんとも覇気の失われたかのような返答にアルティースも怪訝に思うも、頷くほかは無く、本題に入ろうとすることにする。

「それより、あれを見てください。」

「…あれ?」

未だに幻を見ていたかのような面持ちのカミルはアルティースの指差すほうに顔を向けなおす。そこにはこれまで存在していたはずのものが忽然と姿を消していた。

「水晶が…!??」

そこにはもはや水晶の竜の彫像など最初から存在していなかったかのように閑散としたものを映し出していた。

カミルはいずこかへと消えた水晶の行方を追おうとするも、その姿はあるはずもなく、全ては徒労に終わる。

「いえ、消えたというより、砕け散ったというほうがいいかもしれませんね。」

アルティースが指差す方向にカミルは視線を合わせると、そこには先ほどまで形成していたと思われるものの名残があった。

水晶の破片は文字通り粉々になるまでに砕け散り、もはやどのような形状をしていたのかさえも今の状態では識別できないほどであった。

「…もしかして僕が触れようとしてしまったからなのだろうか?」

カミルは光に包まれる前のことを思い返す。

あの時、なぜか水晶に触れようと試みていた。それが為にこの水晶は砕けてしまったと思わざるを得ないカミルの中にはやや自責の念を持ち始める。

「いえ、そういうものではないと思いますが…、しかし、何かが起きるということなのでしょうか…?」

アルティースは粉々になった水晶の破片を見渡しながらも、何かが起きるであろうことは予感めいてはいたが、それ以上に確信を持てずにいる自身に苛立ちも生じている。

何よりも未だに消えることなく周囲に漂う魔力が感られることがアルティースの中に大きくのしかかっている。

あるいはレミュータであるアルティースであればこそ、この事変が何を表しているのかに結論付かせる事が出来たのかもしれない。

「これは…、何らかの封印ではあるまいか…」

「え?」

ヴァルカノンのふと漏らした言葉に二人は顔を見合わせる。

「一体ここに何を…?」

「この場所というよりも…この塔全てがそういったものである…のかもしれん。」

「…!?」

そんなやり取りの中、砕け散って破片と化した水晶が再び光を帯び始めていることを背中越しに感じ取る。

「また水晶が!?」

「!?

やはりこの魔力は…」

またしても起こる予測し得ない事態に三人はまた成り行きを見守るほかは無く、固唾を呑んでその様子を見据える。

破片はその光を元の場所へと戻ってゆくかのごとくに徐々に一箇所に集めてゆく。全ての破片が揃った時、その光は一瞬だけまさに蝋燭の炎が燃え尽きる瞬間に強く燃え盛るかのように先ほどと同じような強烈な光を放っては、それから光を帯びることはなくなっていった。その水晶とともに。

「一体何が…」

「あ、あれを見てください。」

水晶に変わって現れたものは三人を驚愕させるに十分なものだった。

水晶の破片が生み出した光は人の形状に姿を変えてゆき、光が失われるとともにその全貌をカミルたちに見せた。

光が収まり、破片の散らばっていた床に現れたのは、床に横たわる人の姿をしていた。

その容姿は象牙を思わせる白い肌に長く伸びた草原を思わせる鮮やかな緑の髪をもつ少女。

着衣はやや綻びを生じてはいるが、毛織で作られたものを纏っているも、やや露になった部分からは女性らしい曲線が多々見られる。

「お、女の子…!?」

「一体、どうなって…」

カミルたちは目の前に現れた少女の姿に戸惑いを覚えずにはいられない。

何よりも驚かせたのはその少女の耳はカミルたちとは大きく異なり、先端が長く尖っていた。


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