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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act,06尖塔の竜姫 ~Lime~
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第07節

それは先ほどまでは肉塊と呼称しても過分になるようなものでもないはずのものだった。

すでに周囲を腐臭で漂わせ、もはや生命活動をとめてからいく久しいものと誰もが思うはずであろう。

だがカミルたちの目の前に見せる巨大な四肢を有する巨大な生物は身体を腐臭でいっぱいにしていたことなど微塵も感じさせるものはなく、むしろその姿は体躯の至る部分において凛としたものを描きだされていた。

その姿は巨大なもので、四肢の一つをとってもカミルの体格に匹敵するほどのものだった。

「そ、そんなばかな!?

あれは確かに死んでいたはずでは…一体どうして…!?」

一度動きを止めた心臓が再び動き出すなどという自然の摂理に反したものを見た者は、誰しもが驚くべきものである。ましてや現に命の鼓動を止めていたことを目の前で確認していたアルティースは驚嘆の表情を隠せずにいた。

「そういうことか…」

「ヴァルカノン…?」

未だに驚きの表情をみせたままのアルティースたちを他所にヴァルカノンは冷静にこの事態の要因を語る。

「あれは確かに死んでいたのだろう。我々がここに踏み込むまではな…」

「!?

ではあれは、私たちが来たことによって甦ったとでも言うのですか?」

「簡単に言えばそういうことだ。」

「そんな力が…私も聞き及んではいなかったです…

いったいどうやって…??」

「ふん、そんなことは今更論じても仕方のないことだろうさ。

現にあれは動いているからな…」

「あれは僕たちを敵だと思っているのだろうか?」

「当然、そういうことだろうな…

我々は無断でここに入り込んできたのだからな…

おそらくだが、この地に踏み入れた時点でこの守護者は活動を行うように何らかの魔法を施されていたのだろうな…」

僅かに驚きを見せたものの、ヴァルカノンはドラゴンが動く様を見たとき、さもありなんと冷静にそれを見ては分析する。

「守護者…」

「なるほど、そういうからくりがありましたか…」

アルティースもここに来て漸く目の前の事態の概ねを把握したようにヴァルカノンの言葉に頷いた。


「グオオッッッ!!!!!!」

「っ!!??」

空間全体に響き渡らせるかのような巨大な咆哮を一つあげたことを皮切りに、目の前の巨竜は動きを見せ始めていた。

天に向かっての咆哮ののち、巨竜は三人に照準をあわせ、その巨体を動かして突進を始める。

「!?

危ない!!」

ドラゴンは建てられた柱を数本なぎ倒し、壁面を突き破らんがごとき勢いを持ってその巨体を壁に激突させていった。

「見かけによらず素早いな。」

「どうすれば…」

すさまじい衝撃音とともに粉塵を舞い上がらせながら、何事もなかったかのようにその巨体は再び三人に向け、左右に裂けた巨大な口を上下に広げたまま、一番近くにいたカミルに向けて喰らいつこうと頭部を突っ込ませる。

「くそっ…」

いくつもの鋭い牙の突撃ではあるもカミルは身一つでかわすことに成功する。

「大丈夫ですか?」

巨竜の壁面の激突によって生じた粉塵にお互いの姿は確認できなくなってしまっていた。

お互いを声で確認しあうも、その様子を捉えることが出来ずにいた。

「これくらいなら問題ないよ。

でも…」

カミルは未だに腰に帯びたままの剣を抜くことなくドラゴンと対峙している。

カミルとしてはこのドラゴンに対して敵意を持つことにためらいを生じさせていた。

先ほどまで眠りに就いていた巨竜に対して憐みを抱くというわけではない。

だが、カミルにはこのドラゴンに敵意を持つことが未だに出来ずにいた。

「ドラゴンよ、牙を収めてくれ。

僕たちがこの地に無断で踏み入れたことは謝罪する…

だから…」

「無駄だ、そのようなこと通じるものではないぞ。」

カミルの言葉で意図を悟ったのか、ヴァルカノンはカミルの行為に横槍を入れて諌める。

「しかし…」

ヴァルカノンの言うようにカミルの思いは目の前の巨竜にはとどくことはなく、すでに理性が失われているかのように再び二人に向けてむき出しの牙をさらけ出した巨大な顎が粉塵の霧の中から突如として襲い掛かってきていた。

「ふん…」

巨竜の突撃を回避しようとするヴァルカノンだったが、巨竜の振り上げようとした前足は確実にヴァルカノンを捕らえようとしていた。

「ちっ…」

だがドラゴンの振り上げた前足はヴァルカノンに向けて振り下ろされることなく、その位置で止められていた。

ヴァルカノンが身を翻そうとした瞬間、巨竜の振り上げた足先から閃光がほどはしり、床面からは空気が凍りつくように巨竜の脚に喰らいつき、氷の柱で動きを封じていた。

氷で覆われた前足を確認してからヴァルカノンはその場から飛び退き、姿勢を変える。

「ヴァルカノン、大丈夫ですか!?」

あわや、巨竜が動き出そうとした瞬間、やや離れた位置にいたアルティースが巨竜の動きに合わせ、脚に向けて氷の魔力を封じた魔石を投げ放っていた。

「すまんな、助かる。」

「今のうちです。

ドラゴンの脚が止まっている間にこの場を離れましょう。」

脚を止めさせたことに自信があったのか、アルティースはそう提案するもヴァルカノンから返ってきた言葉に愕然とする。

「無駄だ。やつはあれくらいで止まるようなものではない。

見てみろ。」

「!?

そんな…」

アルティースが見たときにはすでにドラゴンは氷の呪縛から四肢を解き放ち、さらに怒りを込めるかのようにうなり声をあげている。

怒りに我を忘れたかのように巨竜は力任せに氷の呪縛を振り払い、覆われた氷塊は粉々に砕け散っていった。

「ちっ、やむを得んか…!」

十分な距離を取って巨竜の突撃をかわしたヴァルカノンは腰に帯びていた柄の部分が飛竜を模したサーベル状の片刃の剣に手をかける。

「ヴァルカノン!!」

「カミル、お前も剣を取れ!!

さもなくば、屍に変わるのはこちらのほうだ!!」

「くっ…」

ヴァルカノンの言葉にカミルは腰に帯びている剣を抜く。

ヴァルカノンが言うようにこのまま手をこまねいているだけではどうにもならないことはカミル自身、頭の中では承知してはいる。

「こいつは倒すほかはあるまい!!

むしろその方がこのドラゴンのためだ!!」

「・・・・・・」

「せっかく眠っていたものをもう一度呼び起こしてしまったのだ。これほど悪趣味なものはないな。」

「ヴァルカノン…」


「グオォォォッッ!!!!」

ヴァルカノンの言葉を理解したのか、あるいは自身を害そうとするものを本能で悟ったのか、これまで以上の敵意を帯びた咆哮をあげてヴァルカノンに向けて突進する。

「ふん!」

ドラゴンの突進を難なく身を翻して回避するヴァルカノンは手にしていた剣を前足に突きつける。


ガッ!!!


「む…!?」

だがヴァルカノンの突きたてようとした剣はドラゴンの分厚い鱗に阻まれて弾かれてしまっていた。

「…やはり一筋縄ではいかぬか…」

さもありなんと刃の先端がややこぼれてしまった剣をのぞきながらヴァルカノンは呟く。

剣を突き立てられようとしたドラゴンは目の前に立つ金髪の青年を踏み潰そうと前足を振り上げる。

「ヴァルカノン!!」

床面を揺さぶるほどの踏み付けを見せるも手ごたえを感じられずにいた巨竜は眼下に逃げ回っているであろう存在を探すかのように頭部を振りはじめる。

すでにヴァルカノンは、巨竜に向けて駆け出そうとしていた。

近づいてくる存在にようやく気付いた巨竜は再び踏み潰してしまおうと巨竜はもうひとつの前足を上げようとする。

「そうはいかん!!」

ある程度の巨竜の動きを詠んでいたヴァルカノンは振り上げる前足の軌道をかわし、ドラゴンの懐深くに潜り込むような形で飛び込み、上部に曝け出したままの巨竜の腹部に剣を突き上げる。


ガッ!!!


「っ!!!??」

これも鱗状で覆われた皮膚同様にヴァルカノンの剣は巨竜の中へと入り込むことを拒まれてしまっていた。

「まったく、でたらめな硬さをもっているな。」

ここまで剣を弾かれたことによりさすがのヴァルカノンも自虐の笑みを浮べるほかになかった。

だがただ手をこまねいているわけにもいかないこの状況において、ヴァルカノンの中にはすでに次の手が織り込まれてもいた。

「カミル、しばらくドラゴンを引き付けておけるか!?」

「!?

…何か手があるのか!?」

「…まぁそんなところだ。それからアルティース。

先ほどのものを今一度投げられるか!?」

「残念ながら先ほどのやつで魔石はありません…

ですが…」

「…アルティース?」

「私にお任せください。」

「だけど…」

「カミル、心配するな。アルティースに任せておけ。」

カミルにとってはアルティースの自信の根拠を推し量れぬままに散開する。

ヴァルカノンの言うように、今はアルティースに任せるほかはない。カミルもまた自身の役割に集中しなければならなかった。

「さあっ、いくぞ!!!」

すでに切っ先がこぼれてしまっている剣を未だに手にしながら、ヴァルカノンはドラゴンに向かって駆け出す。

「くっ…」

カミルもまた別の方向からドラゴンに向けて駆け出し始める。

カミルの役割は自身にドラゴンの注意を向けることである。

危険極まりないものではあるが、カミルの身のこなしをもってすればさほど難解なものではない。

さらにカミルにはドラゴンに対しての致命打を与え得る決め手を有しているわけではない。

この場においてはヴァルカノンの一計に託すことが最良の策であることも認めていた。

だが、多方面から近付いてこようとするものに対してドラゴンが迎撃しようと選んだのは金色の髪の青年のほうだった。


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