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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT,01 辺境の禁忌~Taboo~
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第06節

ガイナーたちが洞窟に入っていってからすでに1時間くらいたったころである。

洞窟の入り口には3人のものとはまた違う人影が見える。

しばらく入り口を見据えた末に、その人影は洞窟の闇の中へと吸い込まれていった。


「…!!?」

サリアは近づくにつれ奇妙な悪寒が走っていくのを肌で感じ始めていた。

前後の二人には未だに何かを感じている様子はなかったので、おそらく魔力の類であろう。魔力の強いものは他の魔力をも感応する術を身体に自然と身についている。サリアの魔導師としての力の片鱗がその得体の知れない魔力を感じていた。

「ガイナー、急いだほうがいいかも・・」

「!?

ああ・・」

ガイナーも感じ始めたのだろうか?

それともサリアのただならぬ様子がそれを感じ取ったのだろうか?

3人の歩く速度が微妙に速くなる。そして終点であろう場所にたどり着いたとき3人はその周囲の様子に愕然とする。


「ど、どうなってるんだよこれ!!?」

「すごい魔力・・」

「僕にもわかるよ、これは一体・・」

終点であろう場所は入り口が狭まった状態で入る形となったので、個別のフロアといった感じがした。

フロアといってもその広さは先ほど歩いてきた道よりも広く奥行きもある。先ほどまで歩いていた場所と明らかに違う点は、この部屋全体の明るさだろう。部屋に入るまでは松明なしには歩くこともままならないものだったはずなのに、この部屋に入った時点で部屋全体が明るく部屋一面を見渡すことが出来る。別段部屋に灯りがあるわけではない。ただ部屋自体が発光しているという表現が正しいのかもしれない。何より部屋の床に怪しげな光を放つ円が存在する。

円の中にはライティンの言語にはない異様な文字と図形の文様が施されている。おそらくこの円から異常なまでの魔力を発しているのであろう。

「これが封印というものだろうね・・・」

「どうするんだよ?こんなもの・・」

「ガイナー、さがってて」

「え!?」

サリアはこの部屋の中央すなわち円の中心に進み立ち止まったところで杖を持ったほうの腕を振り上げる。

「ここからは私の役目だから、ガイナーたちはさがっていて」

同じことを二度続けて言ったところで、サリアはそっと眼を閉じ、瞑想する。おそらくジェノアがいっていた封印を施すといった儀式なのであろう。ガイナーとカミルもその様子を円の外側で固唾を呑んで見守るしかなかった。

「知性の神にして大いなる魔力の担い手レミュータよ、わが言葉に応えて災いを鎮めんがために封印の力を・・・」

サリアが儀式の祝詞を唱えている最中、この部屋に3人とは別の声がこぼれてきた。

「なるほど、レミュータによる封印とは・・」

「!!!?」

ガイナーは詠唱中のサリアの周囲を警戒していたのが幸いしたのだろう。その瞬間、サリアめがけて光の筋が飛んでくるのを見逃さなかった。

「サリア!!」

「きゃっ!」

サリアに飛びつくようにしてその場をはなれた為に、二人は抱き合った形で倒れこむ。だが、それが幸いしたのか、すんでのところで光はサリアのいたところに着弾し足元を抉るような小さなクレーター状に変わり果てていた。

「ほぅ、よくみていたな・・」

周囲の警戒をしていたカミルはその声のほうに視線を向ける。ガイナーもまた身体を起こしてカミルに続く。

「誰だ!!」

声が途切れるその前に、声の主は瞬く間に3人の前に姿を現す。

「!!?」

ここの魔力が勘を鈍らせていたのであろうか、3人の元に近付く影をガイナーとカミルは至近距離まで感じることなく近付かせてしまったのである。

それは茶色のローブに同色の外套を纏った魔導師の風貌の男のような姿であった。

髪の色は草色よりももう少しくすんだものだろうか。その髪を腰の辺りまでたらしている。奇妙なことに目許のあたりにはマスクが施されていた為、素顔は定かではない。しかしその口元の端がうっすらと傾きを見せている、はっきりとはわからないが、表情には不敵な笑みがこぼれているに違いない。

「邪魔をせんでもらいたいものだな。もうまもなくここの封印は自然消滅するのだ」

「なに・・?」

村の間でも一部にしか知らされていないことをこの男は知っている。さらに男は

「お前達はここに何が眠っているのか知ったうえで封印をほどこしているのか?

もし知らぬというのならそれは愚の極みだぞ!」

「な…ん…だと!?」

封印が解けかかっているということはジェノアからは聞かされていたが、ここの封印が何なのかということは聞かされてはいなかった。

ガイナーはサリアを起こしながらもその男から視線をそらすことなくにらみつける。この男はここの封印の存在だけでなく、その封印がまもなく消滅すること、さらにはその封印の意味をも知っている。

封印のことを知らねばここまで露骨な言葉は出してこない。逆に男のほうはガイナーたちの態度によって封印を理解していないことを察したのだろう。

「ふむ、知らぬというなら、それでよい。早々に立ち去れば少しは生きながらえるやもしれんぞ・・」

「な、何だと!」

ガイナーは剣の柄に手をそえるが、サリアがそれを制する。

「だめガイナー、この人の魔力普通じゃない」

「くっ・・」

ガイナーもそれは肌で感じている。しかしこのまま手をこまねいていただけでは封印が解けてしまうのではないか。もし封印が解けてしまうようなことがあれば・・・

何が起こるかわからないが、それでもとんでもないことが起きることは間違いない、そういう空気が流れている。

「面白いまねをするな、そこまで命を縮めることもないだろうに・・」

ガイナーは剣を抜いて構えに入る。じっくりと間合いを詰めようとするが、剣を掴む手が妙に汗ばみ、足も微妙に震えているかもしれない。この男の気配がただならぬものであろう。サリアが言うように男の魔力が強力すぎるのか、構えはすれども動くに動けない。

「・・・なんだ来ないのか。少しは恐怖というものを心得ているようだな」

男は外套から手を出し床に掌を向ける。

「ならば、そこでみているがいい。ここの封印が解ける様をな」

突如として円の内側が光に包まれる。突然襲った閃光に3人は視界を奪われる。

「くっ・・なにを・・した・・」

「ここまでくれば我が手で十分解除が可能だ。もはや封印など意味をなさん!!」

「くそっ、そうはいくか!!!」

ガイナーは男に向かって斬りかかろうとした。だが、男に近付く前に見えない壁に阻まれ、逆にカミルのいる方へ弾き飛ばされてしまった。

「くっ・・なに・・が・・!?」

「迂闊に近寄っちゃだめだ」

「なにを!!」

カミルの制止も聞かずに今一度斬りかかる。しかし結果は同じである。再びガイナーは弾き飛ばされる。

「だめよ、この人の周りに障壁が出来ている。近寄っちゃだめ」

「賢明だな、お嬢さん」

男は再び手を床に戻すが、ガイナーも引き下がるわけにはいかない。

「カミル」

カミルもまた剣を構えるが。二対一の状況でも男は表情を崩さない。やがてため息交じりの吐息をこぼすとあきれたような口ぶりで逆の手をガイナーに向けると

「やはり愚か者か・・

だったら封印解除を待たずに消えろ!!」

言葉切れるまでに手から光弾が放たれる。先ほどサリアに向かって跳んできたものと同様のものである。

バシィ!!!

あわや直撃かとも思われたが、剣を前に出して直撃を防ぐ、しかし、その衝撃そのままにガイナーは先ほど同様に弾き飛ばされてしまう。

「かはっ!!」

壁に打ち付けられたガイナーは一瞬呼吸が止まるが、すぐに肺に空気を膨らませる。

「よく防いだな。思ったよりやるようだな」

「ちくしょう・・」

よろめきながらも体勢を立て直しながらも四度目の接近を試みるそのときだった。


「さがっていろ!!!」


「!?」

離れたところからの聞きなれない声が発された直後である。男が放った光弾に似たものが今度は男に向かって飛んできた。

「何!!?」

男は向かってくる光弾をそのままの手で払おうとする。

「ちっ…」

払われた光弾は無人の床に激突し再びクレーター状を形成した。

「おのれ、誰だ!!」

光弾が飛んできたほうに顔を向けたその刹那、男の背後にすでに廻っている影があった。影はそのまま足元から疾風のような一撃を加える。

「ぐっ!」

さすがに接近させすぎたのだろう。男はその場を離れざるを得なくなっていた。

ガイナーは突如現れた男のことを見たことがあった。そう、つい昨日のことだ。村の酒場でテナに男のこと聞いた。

「ブラッドアイ・・・」

不意にその男が呼ばれる異名を口にしたのを耳にしたのだろう。その男はガイナーに顔を向け、本題を切り出す。

「俺をそう呼ぶものもいる。俺はライサーク、ジェノアという老人から依頼を受けた。お前達二人を助けてやってくれと」

「じいさんが・・・」

「なぜ俺にこんな依頼をしてきたのかとも思ったが・・

なるほど、合点がいった、随分と深刻な状況だな。」

ライサークの視線は仮面の男に向ける。

「まさかこの私に気配を見せずに近づけるものがいるとは・・・」

仮面の男にしても意外なことであった。男自身が気配を見せずに動くことが出来る以上、その上手をいくものがあらわれたのだから。

「ここで何をするつもりかは知らんが、このまま俺と戦うか?」

ライサークは仮面の男に挑発する。逆上させたところに隙を見せることもあるからだ。だが仮面の男は冷静そのもので4人から離れた場所に立つ

「くくく・・思わぬ邪魔が入ったが、これから起こることになんら影響はない」

仮面の男はそのまま右腕を振り上げ、そのまま魔力をこめたまま振り薙ぐように魔力を放った。魔力はそのまま衝撃波となって具現化され、仮面の男を中心に拡がってゆく、ライサークとカミルはすぐさまその衝撃波を跳んでかわす。だがガイナーはサリアをかばった形をとっていたために、剣を前に出して正面から受け止めることになってしまった。

「ガイナー!!」

衝撃波の直撃はガイナーを石ころのようにはじき飛ばす、そのためにサリアとの距離が離されたことを仮面の男は見逃さなかった。一瞬のうちにサリアの視界いっぱいに近付くと、サリアの目の前でその仮面をはずした。

「あ・・」

サリアがみたものは均整の取れた顔立ちの男の顔だったが、それよりもその男の瞳に目を向けてしまった。怪しげに輝く金色に瞳に天地を裂いたかのように縦に伸びた瞳孔。その瞳はまさに全てのものを忌み嫌い憎み続ける眼に映ったことだろう。

だが、その瞳を見てしまったサリアはそのまま何も抵抗することなくその場に立ち尽くしてしまっていた。

「ちっ」

ライサークはすぐに仮面の男の背後に飛びかかる。今度はそれを読んでいたのだろう、すぐに身を翻してサリアの前から距離をとる。

「くそっ・・」

身を立て直したガイナーはサリアの前に駆け寄る。

「サリア、大丈夫か!?」

だがサリアは心ここにあらずといったような状態で上の空といった風である。

むしろ瞳に光を失っていた。

「くくく・・」

すでに男はその顔を再び仮面で隠し離れたところでその様子を見て口元を歪ませている。

「てめぇ、サリアに何をした!!?」

「その女には役目を全うしてもらうのさ、ただし、封印を施すのではなく、封印を解き放つようにな」

「なにぃ!!?」

サリアはそのままロッドを振り上げそのまま自身の魔力を床の円に向ける。よく聞き取れないが詠唱をとなえる。

「よせ!サリア、一体どうしたんだ」

「瞳術か」

ライサークはその力を瞳術と見抜いた。

瞳術、自身の瞳に強力なまでの魔力を込めてその瞳を見つめたものに強力な暗示をあたえることによって相手の自由を奪ったり、精神の破壊、ひいては死に至らしめることすら可能な力である。瞳に魔力を集めることなどこの世界においては諸刃の剣に等しいほどのリスクを伴うため今となっては誰もこの力を手にするものなどいなかったほどだった。

「ほぅ、よく知っていたな。もはやこの力を知るものなど誰もおらぬと思っていたのだが」

「よせ、サリア!!

目を覚ませ!!」

瞳術によってサリアの意識が奪われてしまっているため、ガイナーの声は無情にもとどくことはなかった。力によって自らの意思とは無関係にサリアは封印を解くことをはじめているのだ。すでに仮面の男によって魔力を注がれていたのだろう。儀式終焉を迎えるのにそれほど時間がかからなかった。


魔法円はその光を今以上に怪しく輝かせ、やがてだんだんと近付いてくる地鳴りとともに床、部屋全体を大きく揺らし始めたのである。

「くっ」

もはや立っていられないほどの揺れが生じたため、ライサークと仮面の男以外は片膝を床につける。


揺れが収まったのか、部屋は突如として静寂につつまれた。何事もなかったかのように・・

ただ、魔法円が光を失っていたことを除いては・・

揺れが収まったと同時にサリアは糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。あわててガイナーはサリアのもとに駆け寄る。

「サリア、サリア!」

ガイナーの呼びかけにサリアは応えたのだろうか?朦朧としながらも眼を開ける。

「ガイナー、私・・」

サリアに意識があることにガイナーは胸をなでおろした。しかし、部屋の静寂はガイナーに一息すら与えぬままに破られた。



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