第13節
ガイナーがカスト達と合流して2日経ったとき、野営の為に建てられていたテントや陣屋がたたまれ、カスト達は王都の使者と交わした約定よりも2日前倒しでこの地からの移動を開始した。
「これまでご苦労であった。またいつか出逢えるときを女神ティーラに祈ろう。」
お互いがライティンにとっての主神格であるティーラの名を口々に出しながら、これまで戦い続けてきた戦士たちは安息の地を求めてそれぞれの場所へと去っていった。
「それじゃカストさん。」
「うむ、うまく王城に入って預言者に会えることを祈っているよ。」
「はい。」
カストはガイナーに王都にいるカストの知己でもあるサレス伯への紹介状を手渡し、そのまま近隣の集落に向けて歩を進めていった。
カストと別れを済ませてすぐにガイナーたちはもう一人の女性とも別れの言葉を交わす。
「イースラもカストさんについて行くんだ。」
「ええ、私に何が出来るかわからないけど、ハークの分までがんばってみるつもり。それに…」
「そっか…」
素っ気無い返事で受け応えるが、ガイナーにはイースラの思いは少なからず察していた。
イースラにとってはハークという存在があったからこそ王都への道というものがあったということもあった。だがすでにハークはこの世のどこにもいなくなってしまった。今のイースラにとって王都に入る意味はすでに失われてしまっていた。
「ありがとう、ガイナー。みんなも元気でいてね。」
「イースラも…」
カストを先頭にして付いて行く一行をガイナーたちはずっと見送り続け、その後姿に対してガイナーは静かに一礼する。
「ガイナー…」
それはガイナー自身の力不足による多くの者達の死を招いてしまったことへの自責の念とそれでもガイナーを助け続けてくれたもの達への感謝の念が混ざり合っていた。
その傍らにはアクアマリンの髪の少女はガイナーの腕を放すことなく静かに佇んでいた。
「…あまり自分を責めるなよ。」
「…ライサーク。」
ガイナーの思いを理解したのか、ライサークは一礼したままの姿勢のガイナーに静かに告げる。
「うん…」
ここにいる誰もがガイナーに対して感謝こそすれ、責めるようなことなど誰一人としてない。だが今のガイナーはそのことに甘んじられるほど割り切れるものではない。
それでも回りにいる者たちに心配かけることをよしとせず、ただ頷くだけだった。
「…
それじゃ、私たちも行きましょうか。」
「…そうだな。」
クリーヤの難民、ラクローンからの傭兵集団とともにガイナーとエティエル、フィレル、そしてライサークを加えた一行はこれまで固く閉ざされていたラクローンの門をくぐりぬけようとしていた。
多くの不安と疑念とが交錯するラクローンという国はガイナーにとってそれはまるで巨大な魔物が口を開けて待ち構えているかにも見えていた。
ラクローンの国土の一部を赤く染め上げていった一つの騒乱は多くのものにとって得るものもなく、ただ失うものの大きさに涙するだけの虚しさだけを残してひとまずの終わりを告げた。
だがこれがこの国の運命を左右させることとなる騒動の呼び水であることはこのとき誰も知る者はいない。
そしてこの後、ガイナーたちの目の前に真実が突きつけられるようになるのだが、そのためにはいま少しの時間の猶予が必要となることになる。