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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act. 05.混迷の王都~Laclone~
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第12節

ガイナーたちがカストたちと合流を果たし、皆が再会できたことを喜んだ。だが反対に涙するものも同じように存在していたことは言うまでもなかった。

この戦闘においてカストについてきていた戦士、兵士達は戦闘前までの半数にまでその人数を減らしてしまっていた。

それでもここに集うのは、カストの直接指揮した部隊、洞窟から輜重を運搬した部隊、ガイナーとフィレルたち避難民となった山の民を連れた一団。そして王都や近隣の集落より駆けつけた傭兵、自衛団。すべてがラクローン王都の眼下に広がる平地にて集結が果たされた時、すでに1500人を超える大所帯となっていた。


だがカストたちには死んでいったもの者達を悼む余裕はなかった。

王都よりの使者と交わした約定によって、この場での逗留期限はあと4日しか残されてはいない。

それまでにカストにはこの集団の身の振り方を決定させねばならなかった。

カストの陣屋にはカスト本人のほかにホーマ、マウストの姿があり、その中にガイナー、フィレル、そしてエティエルも呼ばれ中に混じっていた。


「でも、納得いかないわね!!

どうして私たちが王都に入ることが出来ないわけなのよ!!??」

話を聞いたフィレルはホーマやマウストたちと同様にすでにいない使者に対しての憤りを見せる。カストから受けた説明にはカスト達の一党、正確にはカスト自身になるのだが、元々、王都において騎士としての地位を有していたカストは先年に起こった国王、皇太子暗殺の責を負いそれによって王都を半ば追放といった形となっていた。

その責がいまだに消えたわけではない以上、カストの元に集う者達は“カストの意を汲むもの”として王都に入ることを許されない。

「まったくそんな理不尽な話が通用するなんてどうかしてるわ!!

この国の国王様ってのは何考えているのよ!!?」

「…すべては私の不明にある。」

あくまで建前としてではあるが、カストとしてもそれに従う責は未だに残されている。

「でもそれってカストさんが悪いわけじゃ…」

別にカストを責めるつもりは無かっただけにカストにただ低頭な態度を見せられてしまうと逆にフィレルとしてもばつが悪い。

「おそらく、これは陛下の言葉ではないのかもしれない…」

「…どういうこと?」

「先王には皇太子のほかにもう一方ご兄弟がおられた。おそらく、今の王はそのお方だろう。」

「皇太子の兄弟…」

「だが、おそらくそれは形式上のものに過ぎないだろう…それに…」

「それに…?」

フィレルたちはこのあとから出てくる言葉を待つものの、カストからこれ以上の言葉は発せられることはなかった。フィレルたちもカストの顔をうかがうにこれ以上の言及をすることは出来ずにいた。

たとえ国を追われたとはいえ、カストはラクローンの禄を食むものであった以上、国家における不利な発言は出来るものではなかったのだから。


「でも、それじゃ…みんなは…?」

ガイナーの懸念する部分はカストの思惑と一致する。

近隣の自衛団はこのまま自分達の集落に戻ればいいとして、問題は、カストとともに戦ってきた者たちである。

「そのあたりは近隣の集落に要請することにした。さすがに一箇所には不可能だろうが、なんとか散らばって受け入れてもらえれば…」

「そうですか…」

ガイナーとしてもこれ以上追求することもままならず、カストの案に肯定を示す。

「だが、君は違う。せめて何とかして王城にまで入れるようにしておきたい…」

「え…?」

思わぬところで自身の名が出てきたことにガイナーは思わず声を出してしまう。

「君はラウス様からの言葉を受けて預言者に会いに来たのであろう。」

「あ…」

これまでの戦闘の中、ガイナーは当初の目的を失念してしまっていたことは否定できなかった。

「我々のために君を巻き込んでしまって申し訳なかったが、今は君を王城に入れるようにしてあげるくらいしか出来ないからな。」

「カストさん…」


「だがどうやって王城に入れるようにするつもりだ…?」

「え…??」

その問いは陣屋の外から聞こえてきた。

ガイナーたちが声のする方に顔を向けると、その当事者が陣屋の幕をめくって立っていた。

その姿、赤い眼をした男を見たとき、その場にいた皆が声を出して驚きをあらわにした。

「ライサーク!!」

「あなた、無事だったの!!?」

「…勝手に殺されてしまったかのような言い草だが、ごらんの通り悪運強く生きている。

もっとも、危うくあの城と心中してしまうかとも思ったがな…」

そう言いながら身体に付着した埃を払うような素振りをみせて苦笑する。

そう言い放つライサークの身体のところどころには大小様々な痣や傷がくっきりと残ったままだった。

「だ、大丈夫なの!?」

「心配は要らない。ほとんどが吹き飛んできた瓦礫のものだ。見た目ほど大したものではない。」

フィレルの言葉を他所に陣屋の中の顔ぶれを赤眼の傭兵は一通り眺めると、中央に立つカストに声をかける。

「どうやら、思っていたよりもよくない結果になっているようだな。」

「…こうなってしまっては言葉がない。」

半ば猜疑心を有したままで臨んだカストだっただけにライサークの言葉に返す言葉がなかった。

「…過ぎたことを言っても仕方がない。

今は出来ることだけを考えよう。」

ライサークの言葉にカスト達も意見を等しくしたのか、皆黙して頷く。

「それでさっき言っていたことだけど…」

「ああ、王城に入るためにはって…」

フィレルとガイナーは待ちあぐねるかのようにカストに問いかけ始める。

「ひとつだけあるにはあるのだ。

それは…」

カストはガイナーたちに自らの提案を打ち明ける。

元々カストはラクローンにおいて騎士団長を務めたほどの地位にある存在だった。

たとえラクローンを追われた身となったとしても…

それゆえにカストの知己ともいうべきものがラクローンの貴族の中にも存在する。カストはその中の一人であるサレス伯というものの名を挙げた。

サレス伯と接触することが出来れば城に入ることが出来るかもしれない。

「でもそんなの向こうが信じてくれるかしら??」

一通りカストの案を耳にしたフィレルはそのままガイナーを見やる。

「とりあえずサレス宛に書簡をしたためて後ほどガイナー殿にお渡ししよう。

それに、こればっかりはあの者を信じるしかない。それが駄目ならば…」

しばらく黙ったままカストはガイナーに一人の人物の名をガイナーに告げる。

なぜラクローン王都がカストに呼応して動くことがなかったのか、その辺りの疑問は未だに残されたままである。だがその王都のものを信じるほかは今のカスト達にはない。

ガイナーもただ、静かに頷いた。


「我々はここで一時解散する。あとはこれ以上、奴らが襲ってこないことを祈るほかはないが…」

サーノイドの軍勢を完全に撃退させ、クリーヤの難民を本城に移すことが出来た時点で、ひとまずカスト達の軍団は役割を終えたことになる。

すでに人員も半分まで減らされた以上、もはやこれ以上の維持もすることはない。

「そういうことだったら、私もガイナーたちと一緒に王都に入ることにするわ。」

「フィレルが…?」

「別にガイナーが何をしようとしているのか知らないけど、エティエルを放ってはおけないもの。」

そう言いながらフィレルはエティエルの両肩に手を置く。

「ね。」

フィレルがエティエルのことを気に掛けてくれていることにエティエルも嬉しくなったのか、小さく笑みをこぼす。

「そりゃぁ、まぁ…」

実際ガイナーとしてもエティエルを一人にしてしまうことには懸念があった。

もしフィレルがいてくれるのであれば女同士ということもあって確かに心強いものはある。

「そうか、フィレルがそう望むのなら私としては止めるものではないが。」

「なら決まりね!」

「俺も王都に入ることにする。」

「へ?ライサークも?」

ライサークの言葉にはフィレルだけでなく、ガイナーも首を傾げる。

「どうにも王都の中で腑に落ちない部分が多々ある。その辺を見ておきたい。」

だがライサークはカストとの間に傭兵としての契約が交わされているままである。この時点においてはカストの裁可が必要となることを知っているからこそ、ライサークはカストに顔を向ける。

「どのみち我々は解散する。その時点で契約は終了だ。」

「…助かる。」


「ねぇねぇ、ライサークとラクローンって何か因縁でもあったりするのかしら?」

フィレルの問いは興味本位ではあったが、それはガイナーも意見を等しくするところだった。

カストの言った言葉、ラクローンの国王と皇太子の暗殺にライサーク自身疑いがかけられている。

もちろん疑うことと事実は大きく異なる。ガイナーもライサークが暗殺に手を染めるとは考えにくかった。

だが、ラクローンに一体何があるのか。少なくとも現時点でガイナーにはそれを究明させる材料を有してはいない。

「あとは行ってみればわかることさ。」

「!?」

ガイナーの思考を読み取ったかのようにライサークはガイナーたちに言葉を投げかける。

ガイナーたちはそれに頷くのみだった。


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