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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act. 05.混迷の王都~Laclone~
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第11節

「奴らが来る!!」

その言葉にガイナーは手にする剣の柄に力を入れる。

これまで多くのオークとサーノイドの兵士を撃退してきた。もうそれほど数は残ってはいないはずである。これを撃退することが出来れば、すでに指揮官を失った彼らは退散するに違いない。

だがガイナーの前に現れたのはガイナーの見知った顔だったことがガイナーのみならず、皆が安堵の息をこぼしていた。

「みんな、無事だった!?」

カストがアジトとする洞窟から急遽ガイナーたちを追うようにして現れたフィレルと数名の戦士たちはガイナーの姿を見て声をかける。

「フィレル…追っ手は…!?」

ガイナーはフィレルがやってきた道中にサーノイドの追っ手の存在を確かめようとするが、フィレルからの回答はガイナーにとっては意外なものだった。

「そんなの誰もいなかったわよ。

あったのはあいつらの死体がゴロゴロで、さすがに結構ここに来るまで気味が悪かったわよ。」

「誰もいなかった…?」

この言葉にガイナーは奇妙な違和感を覚えた。

確かに追っ手はガイナーたちによって何度も撃退はしたものの、その総てを討ち果たしたというわけではなかった。カストの洞窟からここまでの道を考えるとしても追っ手が別の道を進むとも考えにくかった。

「あいつら、引き上げて行ったのだろうか??」

「わからないけど…もしかすれば、カストさんの方に向かったのかもしれないわね。」

「カストさんの…あるいはそうかもしれないな…」

ここで結論を出したところで、結局のところ憶測の域を超えることは無い。

それよりも、ガイナーにとってはここにいる皆とラクローンに向かうことがまず第一であった。

だが、ガイナーたちをこの場にとどめてしまう事態はまだ終わってはいなかった。


「エティエル…??」

フィレルの援軍によって皆が僅かばかりとはいえ元気を取り戻したかのような雰囲気の中、エティエルの表情は沈んだままだった。

エティエルの背後には先ほどまで戦い続けていた戦士の姿、ガイナーのよく知る人物の姿がそこにあった。

冷たい地の上に横たわったままで。

「ハークは…?」

ガイナーのその問いにエティエルは首を振るのみで答える。それだけでガイナーには理解できた。


あのとき、エティエルが放った凄まじいまでの魔力、おそらく治癒魔法“レスア”にも相当するかのようなものによってガイナーをはじめ、その周囲にいた者たちの傷はたちどころに癒されていった。

ハークの傷もその傍らにいたイースラの傷においてもそれは例外ではなかった。

だが、ハークはそれ以上に血を失いすぎていた。

傷は塞がることは出来たとしても、それ以上にハークの体力には限界がある。

傷だけは癒えたハークはすでに肌の色は青白く、体温も通常よりも冷たいものとなってしまっていた。

たとえどんな名医であろうとも、高位の魔法使いであろうとも、こればかりはどうすることも出来ないものだった。

「ハーク…私…」

冷たくなりつつある手を暖めるかのようにしっかりと握り締めながらその傍らにいた女性は縋る思いでその場にうずくまっていた。

「…君が無事で…よかった…よ。」

自らの命を賭してただ守りたいと願うハークとしてそれを成すことが出来た。

もはやそれほど時が残されてはいないはずのハークは残された力を振りしぼって出した言葉はただ目の前の女性の無事を喜ぶものだった。

そしてそれがハークの最後の言葉となった。

「ハーク!!!」

ガイナーたちはハークの許に駆けつけた時、ハークはすでに自らの時間を止めてしまっていた。

その様相は自身で為すべきことを成したといったものだったろう。その顔は穏やかなものだった。たとえそれが非業の死であったとしても。

だが逆にときの流れを止めることの出来ないガイナー達には悔根の念をのしかからせるに十分なものだった。とくに傍らに寄り添うイースラにとっては。

「くっ…」

思わずガイナーの手にしていた剣の柄に力が入る。

「ハーク…私が…」

もしあの時、ハークの言うとおりにこの場を離れていればどうなっていただろうか?

結果としてそれがハークにサーズを相手にガイナーが来るまで踏ん張りきることが出来たことであったものではあったが、当人にとっては後悔の種に過ぎない。

イースラはこれ以上動くことが無く、ただ呆然と見続けながら、その手に伝わってくる熱を失ってゆくのを感じていた。それは確実にハークの死を受け入れねばならないものでもあった。


すでに陽も傾きはじめ、イースラの悲痛な姿が周囲に影を落とす中、イースラたちと共にラクローンへ向かって歩いてきた一人の老人がガイナーに向かって声をかけてきた。

「この人たちの弔いは、どうか私たちに任せてはもらえないだろうか?」

「え?…けど」

不意に投げかけられた言葉にガイナーは戸惑いを見せる。

「ここで倒れてしまった方だけでも、せめて弔ってあげたいのじゃ。」

「ああ…お願いするよ。」

わずかに間をあけてガイナーは静かに応えた。

この場にはハークのみならず、何人もの戦士たちの亡骸が遺されたままでいる。

これまではサーノイドの追っ手の為に倒れたものたちをそのまま残してしまわなければならなかったが、追っ手がなくなった今となっては、せめてこの場で倒れたものたちの弔いだけでもしてあげたいとは誰もが思っていた。


戦士たちが手にしていた剣を地面に突き刺しただけの簡素な墓標を前に皆、その場で膝をつき、死者への哀悼の意を示す。

ガイナーもまた剣を天に向けて胸元にあてて、眼を閉じる。

ガイナーのこの仕草は、この世界で剣を持つものたちにとっての儀礼の一つでもあった。

「みんな、あと少しよ!!

日が落ちる前に山を下りましょう。」

このときのフィレルの掛け声は皆にしっかりとした足取りを取り戻すことに十分なものだった。

ガイナーとエティエル、イースラそしてこの場に残るものたちは再びラクローンへと足を運び始めていった。


「皆、周囲の警戒を怠らぬようにな。」

ガイナーたちがサーズを倒して再び移動を再開したときには、カスト達の一軍はすでにオークの軍勢との戦闘は収まりを見せていた。

戦いに終局を見せるようになった要因はいくつか挙げられる。

本国から駆けつけた傭兵の一団と援軍はそれだけにとどまらず、近隣の集落からの自衛団の一部もまたカスト達のもとに駆けつけてきていた。

数の上においては小さなものではあったが、最終的にはカスト達がはじめから率いていた数字を上回るほどの援軍がこの地に馳せ参じてきていたことになっていた。

さらに大きな要因となったのは、オークの軍勢がやってきた方角から起こった巨大な爆発音である。

その爆発が、サーノイドとオークの橋頭堡としている古城からのものとわかるのには少し時間を要したものの、その爆発によってオークたちが士気を失い始めたのもまた事実であった。

初めにいた兵力の倍に相当する援軍に相手の士気の低下が重ることにより、カスト達の勝利は揺ぎ無いものとなった。

すでに日が傾き始めていた今、周囲に警戒の兵を残して、傷ついたものたちの治療、散り散りになった仲間たちとの合流を果たすため、カスト達は平地を選んで野営の準備を始めていた。

本来であれば、ラクローンの王都に入ることが傷ついた者たちの治療の面においても有意義ではあったのだが、この場で野営をせざるをえないことがカストに課せられてしまっていた。

それは王都よりやってきた使者から口にした言葉が発端であった。


「我々の王都への入城を許可できないとはどういうことだ!!?」

戦闘が収まった後、王都からの使者と称して現れたものがカストに伝えた言葉、「本国への救援に際し、感謝に耐えぬ、されどもカストゥール卿の一党の王都への入城を許可できるものではない。」というものだったことに、カストの傍らにいたホーマは声を荒げて目の前に立つ使者に憤りをぶつけようとしていた。

「ホーマ、控えろ。」

「…ですが!!」

ホーマの言い分は十分、承知してはいるが、今は王都より参じた使者すなわち王の言葉の前である。

カストはただ、ホーマの言動を制する。ホーマも使者の前でありカストの顔を潰すわけにもいかず、渋々ではあるがその意に従った。

カストの心中としてもホーマの憤りは我が意と等しくはあった。だが目の前に立つ王都よりの使者に対して無碍にするわけにもいかなかった。

「それではご使者よ、我々の入城は許可できないのは理解したが、ここまで本国を頼ってやってくる山の民達は受け入れてもらえると考えてよいのかな?」

「無論、難民といえどもわが国の民である。」

「そういうことであれば――」

「ただし、第3区以上とさせていただくことになりましょうが…」

「第3区だと!!!?」

使者の返答に再びホーマは声を荒げる。

ラクローン王都は城下においていくつかの区画に分類されている。

本城が存在する第1区、その区画は貴族や有力商人などが住まう区画とされている。

次いで商業区や居住区が存在する第2区、そして第3区とは城の外壁と第2区の外壁との間に存在する区画となる。そこに住まうのはこれまでの区画を追われて貧困に喘ぐ者や罪人たちがほとんどのいわばスラムといった具合の区画である。それゆえの王都の中では不衛生な面も存在する。

そして何より第3区を王都に住むものたちのほとんどにとっては王都の一部とみなされてはいなかった。

「ホーマ!」

この時点においてもカストはホーマを制した。

「王都よりの言というのであれば我々はそれに従うのみだ。」

たとえ辞したとはいえ、カストはラクローンの騎士を務めていた身である。

王都からの言葉とあればそれに従うことを是としていた。

たとえそれが理不尽なものであったとしても、山の民を王都の外に放っておくよりははるかにましである。カストはそう考えるほかなかった。

「カストゥール卿はよくご理解いただけるようだ。」

王都の使者と称する男はただ淡々と言葉を返す。

「だがご使者よ。」

「…何か?」

「我らは今しがた戦闘を終わらせたばかりで、傷ついたものたちの治療と仲間の合流を果たすためにこの場で野営を行っている。それゆえにあと5日、この場に留まることは許可願いたい。」

「…5日とは少し長すぎるのではないか?」

「それくらいの時間をいただかないことには、このままでは動くに動けませぬ。我々とて今後のことを協議せねばなりませんゆえ。」

使者からすればその言はひとつの脅しにも似た含みを垣間見たのかもしれない。

「…やむをえませんか…」

使者とはいえども王都よりの伝達を伝える以外の権限を有しているというわけではなかった。だがこの場は肯定を以って言葉としておかないことには彼らは使者に向けて激昂する恐れもあった。


「お役目ご苦労でございました。」

「それではお伝えしましたぞ。」

まるで逃げ帰るかのような振る舞いを見せながらも使者はカストの陣屋をあとに王都への帰路についていった。


「カスト様…」

「承知しているホーマ。

ともかく、あと5日ある。その間に…」

すでにアジトとしていた洞窟はすでになく、カスト達の拠点とするところはすでに存在していない。

こうなった以上、選択肢は限られている。

ひとつは、このまま部隊を解散させる。もうひとつは再びアジトとする洞窟を探し出す。

後者としてはこれ以上の戦闘を行うことが難しい今の状況においては選ぶべき道ではなかった。

「まずは皆との合流を果たしてからの話だ。」


カスト達の野営する位置に援軍として駆けつけたマウストたちとも合流を果たしたガイナーたちが辿り着いたのはそれから丸一日経ってのことだった。


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