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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act. 05.混迷の王都~Laclone~
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第10節

「ほら、来いよ。もう怖気づいたわけじゃあるまいよ…?」

ひっきりなしにガイナーに向けて仕掛けられるサーズの挑発は異常とも言うべきものといってもいい。

「くっ…」

これほどまでにあからさまに仕掛けられてしまうと、ガイナーでなくとも慎重になってしまいがちである。

だがこれはサーズに向かってくることを想定しているのではなく、時間稼ぎであったことがサーズの狙いの全てであった。

ここで時間を稼ぐことが出来れば、ハークの考えどおりにオークの軍勢が向かってくる。

もう一つの狙いはガイナーに刻みつけた傷である。

傷そのものは皮一枚を切りつけたに過ぎない些細なものだった。

だがその傷をつけた得物がサーズの右腕であったことが大きなものである。

サーズの思惑はそれほど時を置くことなく、実現することになろうとしていた。


『くっ…これは…!?

いったいどうなっちまったんだ…!?』

ガイナーは挑発を続けるサーズの姿が翳んでくることに自覚する。だがそれに気付いた時にはすでに手遅れとなってしまっていた。

「くくく…どうやら回ってきたようだな。」

ガイナーの様子が変わったことにサーズはしたり顔を見せながら、ほくそ笑みを浮かべている。

すでに足元もおぼつかない状態に陥っているガイナーはサーズの様子を見て自身の傷によって身体に毒性の何かが回ってしまっていることをようやく認識した。

「そうら、今度はこちらの番だな!!」

ガイナーのそんな状態を待っていたかのようにサーズはこれまでとは正反対に襲い掛かる。

「…!?」

迫りくる大剣を手にしたままの剣で辛うじて受け止める。

一合だけ剣を合わせただけだったが、ガイナーは迫りくるサーズに対して反撃を試みる。

だがそれは再びサーズとの距離を取るためのものに過ぎないものだった。

「てめぇ…卑怯な真似を…」

「ほぅ…まだここまで元気があったのかよ…」

ガイナーの反撃に思わず驚くも、サーズは慎重を期する様子を見せる。

そんな間にもガイナーの身体にサーズの毒は次第に回り始めている。すでにサーズをはっきりとした輪郭で捉えられずにいる上に立っているのがやっとの状態である。

その上呼吸が整えられずになりつつあった。

にもかかわらず、サーズが立っているであろう方をしっかりと睨み付けていた。

「ちっ…憎たらしい顔をしていやがるな…」

言葉とは裏腹にガイナーの表情にサーズは悦に浸るのか、表情を弛める。

ガイナーは辛うじて剣を手にしたままサーズに切っ先を向けているが、それも時間の問題である。

このままいたずらに時間を過ごしてしまうと、引き離しに成功した背後のオークの集団が追いついてくるということもガイナーも理解はしていた。してはいたものの、このまま手をこまねいているに過ぎないでいる。そのことにガイナーは憤りを覚える。

はっきりとはみえないが、サーズの不愉快な表情が目に浮かぶこともそのことに添えられた。

「お前だけは…お前だけは…絶対に、ゆるさん…!!」

「ゆるさねぇ!?

だったらどうしてくれるというんだ!!?」

今の状態のガイナーが何も出来ないことを知っているからこそサーズはさらに挑発を重ねる。

「くぅ…」


この状況を大きく変えることになるのは、ガイナーのすぐ後ろにいる存在からだった。

ガイナーの窮状を目にした少女は胸元で手を組みはじめ、膝をその場でつき、天に祈りを捧げるように静かに眼を閉じる。


“私はあなたの力になる…”


「…!!??」

ガイナーの心中に届くような声が響いてくるとそれほど間をおくことなく周囲に変化が生じ始める。

「!?これは…??」

「な、なんだ??

この凄まじいまでの魔力の流れは…!!?」

ガイナーのみならず、その周囲にいた者たち、イースラ、サーズまでもその魔力の波を感じ始めていた。

この世界において魔力というものは誰の中においても存在するものである。

個々においてその能力、魔力の量は違えども、その力を感じることは可能である。

これも魔力を有する個人のものの感じかたに差異はある。

その力の理を識り、精神面において強靭なものの持ち主こそが“魔法使い”と称される。

だが今、この周囲に流れる魔力は魔法使いが唱えるべき、文言や理といったものを一切無視したものだった。それは文字通り魔力そのものによる巨大な波であったといってもいい。

『まさかエティエルにこれほどの魔力が…??』

心中に響く声の主はエティエルのものであることに間違いはない。ガイナーはこのときエティエルの中に潜んでいたであろう今まで感じたことも無いような膨大なまでの魔力を感じた。自身の身体に起こる変化とともに。

その力の流れに敵意や怒りといったものは感じられることは無い。むしろガイナーたちにとっては慈愛に満ちたものとも呼べるようなあたたかみを帯びたものだった。ある一人を除いては…


「まさか、これほどの魔力を持っている奴がこんな近くにいたとはな…」

膨大な魔力を受けてわずかに揺らいだものの、サーズは動くことの無い目先の獲物を余所に魔力を放つ主に目を向ける。


その主は静かに眼を閉じ、天に祈りを捧げるような姿で佇んでいた。

「これほどの女、ライティンにしておくのは勿体無いがな…」

下卑た言葉を浮べながらサーズはエティエルの許にゆっくりと近付く。ガイナーの横を通り過ぎようとしたそのとき、意外な方向からの逆撃がサーズを襲う。


ガキィィン!!!!


「なっ…!!???

貴様、どうやって動けるように…!!??」

動けるとは思ってもいなかったサーズは手にしていた大剣を振り上げられたガイナーの剣によって刃の部分を叩き折られていた。

ガイナーの剣のそれよりも刀身のあったサーズの大剣は刃の部分のそのほとんどが失われ、残されたのは手にしていた柄の部分のみといった状態にまで陥る。

「お前だけは、ゆるさないと言った筈だ!!!」

勢いに身を任せたままガイナーはそのまま振り上げたままの剣をサーズに向けて斬りおとす。

「ちぃ…!!」

サーズは身一つで剣戟を回避し、すでに剣の意味を成さないものをガイナーに向けて擲つ。放たれたものをガイナーは手にしていた剣で弾き返す。

「なめるな!!

ガキが!!!」

剣だったものを弾き返す間に、間合いから離れたサーズは右腕の先端を巨大な爪状の刃物に変えてガイナー目掛けて伸ばす。

サーズの本来の武器は折られた大剣などではなく、あらゆる形状に変化する黒い右腕である。

ガイナーといえどもまともに食らえば、これまで餌食となった戦士たちと同様の結果をもたらすことになるだろう。その右腕による圧倒的な力ゆえにそうサーズは確信して疑わなかった。

だがサーズの思惑を大きく裏切る結果になったことにサーズは愕然とする。


ザシュッ!!!!


ガイナーの剣は迫りくる巨大な爪を出会ったときと同じように斬りおとす。

再び主から切り離された腕は地面に叩き落されてしばらくの間その場で蠢いていたが、やがてその動きを停止させ、氷のように融けて消失した。

「!!!??

その剣は…!!?」

サーズが驚愕したのは斬りおとされた腕よりもガイナーが手にしていた剣の刃先に向けられる。

ガイナーの剣自体は刃先が通常のものよりも長いだけのさして代わり映えのしない凡庸なものではある。だがサーズの見たものはその刃の部分に青白く淡く光っていることだった。

「貴様みたいなやつになんで…?」

これまでの態度とは真逆で、サーズの動揺はこれまで以上にないものとなっていた。

「サーズ!!!」

サーズの態度や剣の状態の是非などに関することなくガイナーはサーズを追い込むためにさらに斬りかかる。

「ちぃ…!!」

サーズも斬りおとされた右腕を一瞬にして再生させてその勢いのままにガイナーに伸ばす。

サーズの黒い右腕は本来ならガイナーの胴体を貫く位置にあった。

「うおおおおぉぉッッッ!!!!!」

だがガイナーの突撃は顔面を地面に擦ってしまいそうな位置まで身を低く保ちながら駆け抜け、怒声を含んだ掛け声のままにサーズに向けて剣を振り上げる。


ズシャァッッ!!!!


「ぐぁっ…!!?」

ガイナーの一撃はサーズの胸元に左脇腹から右肩にかけて巨大な赤い線を刻み付けた。

サーズが後方に飛び退いたために傷ほどに出血は些細なものであったが、サーズに植え込まれた動揺は傷以上に大きなものとなっていたが、ガイナーの攻撃はそこで留まらなかった。

ガイナーはサーズを斬りぬいた身体をそのまま左足を軸にしてサーズに背を向け、遠心力を用いて加速をつけ、再びサーズの胴体に向けて袈裟斬りに剣を振りぬいた。


ザシュッッ!!!


「ぐっ…!!」

サーズの胸元には新たに剣の抜けたあとが深く刻まれていった。

サーズはガイナーの剣の勢いのままに弾き飛ばされた。

その背後にはラクローンの湿原を一望できるほどの景色が広がる。断崖が待っていた。

「!!!?

…しまっ――」

すでに足を地面から離してしまっていたサーズは重力に逆らうことが出来ずにそのまま身体を堕としていく。

「ちくしょぉぉっっ!!!!」

黒い右腕を断崖絶壁に伸ばして身を支えようとするもサーズの落下の勢いを止めることは出来ぬまま断末魔の如き声とともに断崖の下に消えていった。


「はぁ…はぁ…」

サーズを弾き飛ばしたのち、ガイナーは両肩を上下させながら呼吸を整えようとする。

このとき、宙ぶらりんの状態で漂っていたような疲労感という名の錘が両肩にずっしりと圧し掛かるような感じを覚え始めていた。

ガイナーからすれば、まるで息を整えるほどに身体が重くなってゆくような感じである。

「くぅ…」

未だに安全を得たというわけではないということをガイナーは熟知している。

ガイナーが駆けてきたその背後、サーノイドとオークの軍勢の追っ手が差迫って来ている。

これを完全に撃退することでようやくラクローンへの安全な道が開けることとなる。

だがそれでも問題がひとつある。

この場にはハークとイースラがまだ立つことが出来ないでいる。

二人を見捨てるわけにはいかず、この場にて追っ手を迎え撃つ必要があった。

ガイナーは重い足を動かしながら、再びもと来た道を見据えながら剣を構えようとする。

だがそんなガイナーの行動を意外な形で裏切ろうとしていた。


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