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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act. 05.混迷の王都~Laclone~
58/153

第09節

“魔神将”と名乗る男が今まさに二人の男女の命を奪おうと右腕を刃物のように変化させて突き刺ささる…はずであった。


ザシュッ!!!!


「何ぃ!!!!??」

突如として襲い掛かった閃光は一瞬にして男の右腕を切り離していった。

「うぐぁ!!?」

男の神経を刺激する痛覚を受けて男はその場から飛び退く。

遺された右腕は別の生物が蠢いているかのようにその場で暴れ狂い、時が経つにつれその動きを停止させ、やがて氷が溶け出していくように消滅していった。

「くっ…何が起こりやがった…!!?」

今ひとつ状況を飲み込めずにいたのはイースラ達だけではなかった。

先ほどまで立っていた位置に存在する黒髪の少年の姿があったことで漸く認識する。

「てめぇか…!?」

「ガ、ガイナー…」

目を開けたイースラは目の前に立つ少年の姿を見たとき、安堵の息をこぼす。

「ハーク、ガイナーが、ガイナーが戻ってきてくれたわ!!」

イースラはハークに呼びかけるように声を張り上げる。意識を閉ざしてしまいそうなハークであったが、その声に応えるように瞳を開け、ガイナーの姿を映す。

「ガイナー…」

「ごめん、遅れてしまって…もっと早く気づくべきだった…」


ガイナー自身、殿に立っていた位置から全力で駆けつけてきた。

だが、追っ手を迎え撃っている間に先頭からの距離を伸ばしてしまっていたことがここまでの時間を要した要因である。


ある程度追っ手を叩いた後先頭集団に追いつくべく駆け出したとき、ガイナーの意識の中に呼びかけてくる声が響いていた。

“早く、前から誰かが皆を襲おうとしているわ…!!”

「…!?」

声の主はガイナーの近くにいた少女が発する心の声ともいうものだった。

他の者たちからすれば少女の声は誰も聞くことが出来ない。だがガイナーだけはその心の声ともいうものを感じ取ることが出来る。

「前からもサーノイドが…」

誰もがサーノイドが前から襲ってくるということを頭の中から抜け落ちてしまっていた。

我々は今、王都に向かって進んでいるのだから、その進む道を阻んでいることなどあるはずがない。

そんな固定観念が今の状況を作り出してしまっていた。

「くそっ…!」

エティエルの声を受けてガイナーは先頭に追いつくべく足を速める。

その後を少女も続いていった。


「ハーク、イースラ、大丈夫か!?」

剣を構えたままにガイナーは背後にうずくまる二人に呼びかける。

「私は、大丈夫。でも…」

イースラが言葉を濁していることと足元に溜まる赤い液体を見て状況を理解した。

「くっ…よくも…」

その背後にもあった無残な姿に変わり果ててしまった戦士たちの姿を見てさらに怒りをあらわにする。

「それはこっちのセリフだ!!よくも俺様の腕を…」

切断された右腕に手を添えながら男はガイナーを見据えて再び鋸状の剣を持ち直す。

男がガイナーに向かってこようと体勢を整えた時にはガイナーはすでに動き出していた。

「っ!?

速い…!!」

ガイナーの動きに男は一瞬驚愕を覚えるも、鋸状の大剣でガイナーの斬撃を受け止める。

初撃から間をおくことなく第二撃、第三撃を繰り出す。

その一撃、その一撃は男が受けてきたどんな攻撃よりも重いものだった。

「…こいつ…ただの雇われ兵士ではないな…」

ガイナーの攻撃によってハークとイースラたちとの距離をさらに引き離す。

「ちっ…」

サーズ自身、ガイナーの攻撃を大剣で防ぐことが手一杯になりつつあった。


「エティエル、二人を…!!」

すでにガイナーに追いついていたエティエルはガイナーの声に頷き、イースラの前に駆け寄る。

「私は大丈夫…ハークを…」

「…!?」

ハークの様子を伺ったとき、エティエルが目にしたのは鋭い刃物で貫かれた太腿の傷から噴き出る大量の血液だった。

すでに噴き出た量は相当のものに達してしまっていた。

だがそれよりも傷口が変色してしまっていることのほうがエティエルには気になっていた。

ともあれ、止血を施すために傷口に触れようとしたときだった。

「…よ…せ…触るん…じゃない…」

「ハーク…!?」

「こいつは…毒…でやら…れたものだ…触れたら…君も、どうなるか…わからない…」

「…!!?」

ハークの言葉にエティエルはハークに触れようとした手を止めた。

口を動かすこともままならない現状でハークはそばにいる二人に向けて言葉を綴ろうとしていた。


「毒…だって…!?」

この単語に表情を変えたのはエティエルだけではなかった。

男を引き離すことに成功したガイナーも同様だった。

“毒”という言葉を脳裏に巡らせた時、自分を助けてくれた集落のことを思い出す。そしてそこから一人の人物の名前を反映させた。

「まさか、お前が…サーズか…!?」

「…サーズ…!?」

イースラもこの名前を聞き、驚愕する。

クリーヤの古城においてラクローンを攻撃するサーノイド側の指揮官の名前であったことはイースラも聞かされていた。

「!!??…

ほぉ…こいつは驚きだ。

…俺を知っているやつがいたか…」

男の名がサーズであるということを隠すわけではなく、肯定をもって返す。男は自らを“魔神将”と名乗っていた。あの古城に陣取るサーノイドの指揮官が単身で現れた。

「そうか…お前がサーズか…」

なぜこんな場所に存在するのだろうかという部分は皆が疑問に持ってはいることではある。

だがそんな思惑など他所に、目の前の男がサーズとわかったときのガイナーの心境はただならぬものになろうとしていた。

「あぁ…!!?」

再びサーズを見据えたとき、ガイナーは持ち前の脚力をもって一気にサーズに向けて踏み出す。

「…っ!!!??」

袈裟懸けに振り下ろされた長剣は単調な軌道ではあったが、その鋭さはこれまでの比ではなかった。

サーズは手にしていた剣で受けることも無く、身一つで剣を避ける動作をするも仕掛けたガイナーの攻撃はそこで止まることは無い。

袈裟懸けから剣は斬り返して右薙ぎに、その勢いに乗じて身を右回りに翻して逆袈裟へと剣の軌道を変化させてゆく。

「ちっ…!」

突然の猛攻に回避する以外に術の無いサーズではあるが、そのことごとくをかわしつづけた。

「なんだ…!?

てめぇ…は!!!?」

ガイナーは剣を振るいながらもサーズの問いに問いで返す。

「マールを知っているだろう!!?

なぜあの村を狙った。

あそこには戦えるものたちはいなかった!!」

「マールだと…!?」

その名称に覚えがあったサーズは不意に口角を吊り上げる。

少なくともガイナーにはそう見えた。

「そうかよ、てめぇ、あの面白くもねぇ村の生き残りか…」

「面白くも無い!?」

「何の抵抗も見せてこないつまらねぇ場所だったな…」

「貴様!!!」

もはや、ガイナーの感情の沸点を限界までに振り切ってしまっていた。

理性はどこかに吹き飛んでしまい、身体は感情のままにサーズに向かって剣を振るう。


ガッ!!!


ガイナーに向けての挑発めいた発言をまともに与えたサーズは怒気をむき出しにして向かってくるガイナーの剣を手にしていた大剣で受け止める。

「くっ、なめんじゃねぇ!!!」

サーズはガイナーの剣を弾こうと一気に剣を振り上げる。

ガイナーはこの隙を見逃すことはなく、一気に袈裟懸けに斬り払おうとサーズに向かって踏み込む。


ズシャッ!!


大振りが大振りを呼び、お互い隙を見せ合うも、斬りつけられたのはガイナーのほうだった。

「っ!!!??」

ガイナーの胸元にかすり傷ほどではあるが、四本の線が刻まれていた。

まるで巨大な爪で引っかけられたかのようなものに映る。

「…!??」

「そ、そんな…」

「…どうなっているんだ…!?」

イースラとガイナーはサーズのほうを見て目を疑った。

「ちっ…浅かったか…」

本来であればガイナーは男に対して剣を振りぬくことによって、傷を生じるのは男の方であるはずだが、結果は真逆のものである。

斬りこんだのはガイナーだった。しかし、大剣を大振りさせてしまった男のどこにガイナーを斬る手段はあったのか?

「くくく…お前が不思議に思っているのはこいつのことじゃないのか…?」

「なっ…!!?」

サーズがガイナーの前に見せたのは鋭い爪を模った黒い右腕を前に出す。

サーズの右腕はハークたちと男の前に割り込むように飛び込み、その勢いそのままに男の刃物のように伸びた右腕を斬りおとした…はずだった。

だが現実に鋭い爪を伸ばした右腕が存在する。

まるでその右腕だけが別の生き物のように蠢く。

「まぁ驚くのも無理はないだろうな…」


明らかな笑みをこらえているかのような含みを見せながらもすでにサーズはガイナーの剣をすり抜けて、距離を置いていた。

「くそっ…」

薄皮一枚で止まったものの、ガイナーの胸元に刻まれた四本の線からはうっすらと赤い色が滲み出していた。

「ほら、どうしたよ。これでおしまいってわけじゃないんだろ!?」

あからさまな挑発を仕掛けてくるサーズの態度には逆に冷静な思考が戻ってくる。

「どうする…??」

ガイナーは剣を向けたまま、サーズの出方を探ろうと身構える。


この時点で、ある程度距離を取ったことがこのときはガイナーにとってどんどん不利な状況に追い込まれているということを、ガイナーはまだ気付いてはいなかった。

それに気付いた時にはガイナーの身体に異変が生じた時である。


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