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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act. 05.混迷の王都~Laclone~
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第08節

クリーヤの山間部の中にはひっそりと存在する城郭が存在する。

すでに風化すらしていそうな城壁にはその隙間からは雑草が生え渡り、煉瓦色の壁はところどころにくすんだ緑色が付着している。

誰も手入れすることのない中庭から内部へと続く回廊をぬけ、荒みきった城郭の最奥部の一室において一対一の戦闘が繰り広げられていた。

一方は平均的な身長を有した青年、黒髪に鋭い眼光を放つ赤い瞳を有している。

体格もどちらかといえば細身といえるものではあるが、その肩口から露にされている腕を見るからに常人のものとは違う鍛錬の仕方によって生み出された肉体が映し出されていた。

もう一方は頭部以外を甲冑に身を包んだ青年よりも頭一つ以上は体躯の大きな存在。

こちらに関しては人としては形容するには少々難が生じる。兜を外し露にされた頭部からは人のものとは異なり、牛や羊にも似た角が生じていることからむしろ獣の頭部に近いものという呼び方のほうが的を射ている。

両者はこの部屋で顔をあわせてからずっと戦闘を繰り広げていた。

お互いの手数は似たような数字ではある。

だが、青年の場合は打撃を与える回数は多くとも決定打に至るわけではなく、逆に甲冑を身につけた獣というべきそれは当たることが適えばその一撃で決定打を与えるになるわけだが、未だ青年を捉えるに至っていなかった。

青年ライサークはひたすら甲冑の獣ドミニークが手にする巨大な戦斧を回避し、その隙をついて拳を時には蹴りを繰り出す。


「グオォォォッッ!!!!」

理性を失い、獣さながらに咆哮を轟かせながらドミニークは戦斧をライサークめがけて振りおろす。

薙ぎこまれる剣戟はライサーク周囲に風圧として襲い掛かる。

また時には部屋の柱を粉砕させていった。

「ちっ、ワンパターンではあるが、当たれば終わりか。」

ライサークはただひたすら身一つで回避しつづける他なかった。

「…ちょこまかと!!」

執拗に攻め立てるドミニークは戦斧の柄を両の手で掴みなおし、それを一気に振り下ろす。


ドゴオォォッッ!!


振り落とされた斧はスピードを一気に倍加するもライサークを捕らえることは適わなかった。

目標から外れ地面に打ちつけられた斧は空気を切り裂くようなうなり声とともに石畳が敷かれた地面を抉り取っていった。

勢いはあるものの斧は石畳深くに突き刺さっていた。その隙をライサークは逃すことなく、身体に当たる石飛礫をものともせずに一気にドミニークの懐深くに潜りこもうと身を低くしながら距離をつめる。

「ぐぅ…おのれ…」

「遅いな!!」

ドミニークが斧を石畳から抜き取るより早く懐に入り込んだライサークは甲冑で覆われたドミニークの腹部に向けて拳を突き入れる。

ライサークの腕力を持ってすれば常人であれば軽く身を浮かせて飛ばされるところだったことだろう。

だが甲冑で覆われた巨体にはそれが適わずにもはやライサークの拳すら赤子になでられたかのようなものに過ぎなかった。

「!?

手ごたえなしか…」

「…ライ…サーク!!!」

手にしていた斧から手を離し、呻く様な声を出しながらも空いた手で目の前にまとわりつく小物を叩き落そうと甲冑を纏う巨体は腕を振り回す。

その行動を予期していたのか、腕が回るより先にライサークはその場より飛び退く。

その動きに対応してドミニークも戦斧を石畳もろとも持ち上げて追撃を開始する。

「くっ!?」

再び右に、左に振り下ろされる戦斧を紙一重で回避しながらもその剣戟の風圧を身体にピリピリと感じ取りながら後退する。

ある程度距離を取っていったん体勢を整えようと図るも今のままでは容易なものではなかった。

「ちっ…」

派手に動けば先ほどの体当たりを受けた肋骨へのダメージが蓄積されていくのが痛覚で認識できていた。

このまま戦斧を回避し続けていても、いずれ体力を消耗させられた末に致命打を受けてしまうのはこちらが先になってしまうだろう。

ライサークは戦闘を長引かせることが出来ないのは自身の方だと悟る。

「グオォォッッ!!!!」

一際巨大な咆哮をあげて薙ぎこまれた斧に対して身を低くしてやり過ごす。

「これならどうだ!!」

身をかがめた瞬間、拳に闘気を瞬間的に込め、足元の石畳めがけて打ち込む。

「!!?

ぬぉ!?」

ライサークの手によって闘気を注ぎ込まれて足元の石畳はめくれ上がり、瞬間的に巨大な火柱が噴きあがる。

「!?

…姑息な真似を…」

噴きあがる火柱に動じることはなかったドミニークではあったが、このわずかな間にライサークを見失っていた。

「どこに隠れた!!?

ライサーク!!!」

時間的に言えばほんの数秒といったものに過ぎなかった。

「ここだ、ドミニーク!!」

ライサークはドミニークの左側面に移動し、少し離れた位置から両の掌にそれぞれ生み出していた闘気の球体を時間差をつけて投げ放つ。


ドォン!!


一撃目はドミニークの肩の部分に直撃するもそれによってその巨体に変化は見られなかった。さらに飛来する二撃目はドミニークの左腕の一振りで弾き飛ばされてしまう。

弾かれた気弾は離れた壁面に直撃し、そこに小さな爆発とともに小さな穴を開けた。

ライサークに向けて斧を振り上げようと踏み込むこの瞬間、ドミニークはライサークを視界から消してしまっていた。

ライサークはその刹那を狙ってドミニークの懐に再度潜り込み、腹部に拳を打ち込む。

それによる反応を見ることなくそのまま左脇へとすり抜け、背後に回りこむことに成功させた。

ドミニークの背後においてその背中に手のひらをかざす。

「はあぁぁっっ!!!!!」


ドゴォォン!!!


ライサークの気合を込めた掛け声に相まって響き渡る轟音とともに手のひらから発せられたのは闘気によって具現化させられた閃光を含んだ衝撃波だった。

その一撃はドミニークの背中を直撃させ、その巨躯を大きく弓なりに揺り動かした。

「ぐぉぅ…」

さすがに不意を疲れたことにさすがの巨体もバランスを崩し始める。

ドミニークのその姿をすでに想

定していてのことか、ライサークは頭上で手を組みふらつく相手の頭部めがけて振り下ろす。


ドゴォッ!!!


「うぐっ…」

鈍い音と小さな呻き声とともに後頭部に直撃させた拳を受けて甲冑の巨体は膝をつき周囲に塵を巻き上げながら前のめりに倒れこむ。

倒れこんだ時に小さな地響きが起こったことがその体躯の巨大さが理解できるものといえよう。


ライサークはそれ以上の追い討ちをかけることなく、すばやく後退し距離を取る。

ある程度距離をとった時点でライサークの中に妙な違和感が芽生え始めていた。

「・・・・・」

石畳の上に倒れこんでからドミニークは一向に動く様子を見せなくなっていた。

「…??

妙だな…

何があった…!?」

ライサーク自身、あの程度でドミニークが戦闘不能に陥るものとは考えにくいと思っている。それだけにドミニークの様子に大きな違和感が残る。

そんな様子の中に疑念を抱きながらもライサークは慎重な足取りでドミニークと距離を詰めていく。

10歩ほど進んだとき、地面に倒れこむ黒い甲冑に小さな動きがあった。

「…!?」

「クックックッ…」

黒い甲冑を小刻みに震わせながらライサークの耳に届いてきたのは低い声で響いてくるドミニークの笑い声だった。

「なにがおかしい…?」

戦闘態勢を崩さぬままライサークは問いかける。その声に反応したようにドミニークの黒い巨体がゆっくりと起き上がる。

これまでのライサークの攻撃など何事もなかったかのような様子を見せながらドミニークはライサークに身体を向けた。

「もう十分だな。」

「…何?」

ドミニークの言葉にライサークは理解できずにいるが、ドミニークはそのまま言葉を続ける。

「この辺りの魔力は吸い上げることが出来た。なにかと予定が狂わされたようだが、もう十分だろう。もうここには用はねぇ。」

「…?

魔力…??

吸い上げただと…!??」

一瞬、ドミニークが何を言っているのかわからずにいたライサークだったが、その言葉の意図を頭の中に整理させる前にドミニークの姿が霞へと変わってゆくように薄れはじめる。

「!!??

ドミニーク!!?」

「あばよ。ライサーク。てめぇだけでもここでさっさとくたばってしまいな!!」

捨て台詞のような含みもあったが、そう言い残してドミニークの姿はこの場から完全に消え去ってしまっていた。

ライサークはドミニークの気配を探ってみるもこの付近からは辿ることは出来なかった。

「くそっ…」

結局、決着をつけることが出来ずにいたことへの苛立ちからか、思わず舌打ちを繰り返すが、ふとあることを思い出し、我に返る。


「…!?

さっきあいつはなんと言っていた!!??」

ライサークはふとドミニークの残した言葉を振り返してみる。


“てめぇだけでもここでさっさとくたばってしまいな!!”


それを言った当事者はすでにこの場にいない。すなわちドミニーク以外の誰か、もしくは何かでライサークを害そうとしているということに結論が行き着く。

「…っ!!!

くそっ…そういうことか!!!」

その思惑に達した時、ライサークは足早にこの部屋を後にしようと元きた道へと踵を返す。


ほどなくして巨大な地鳴りとともにこの古城の各所から爆発が生じ、城全体を炎で包み込みはじめる。

「くっ…間に合わないか…」


やがてすさまじい轟音を鳴らしたすさまじい大爆発が各所で起こり、この数年来においてサーノイドの拠点とされてきた古城は一瞬にしてこの世界から姿を消した。


同時にそれはサーノイドの軍勢が橋頭堡を失ったことも意味していた。



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