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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act. 05.混迷の王都~Laclone~
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第07節

断崖と山肌に挟まれた細い道、あと少し進むことが出来たのであればラクローンへの道が開かれるときだった。進む先からは自らを“魔神将”と称する男によってじわじわと迫られつつある。

わずかな間に護衛の戦士のことごとくが倒され、戦えるもので残っているのはハークだけになってしまっていた。

男を前に剣を向けるハークの手元は誰が見ても震えていた。

ハークはカストが率いる一団に所属してはいるものの、実戦経験は有しているわけではなく、あくまで護身用として剣は見につけているに過ぎなかった。当然ながら剣の技量は倒れていった仲間たちと比べてしまうと見劣る部分が多々ある。ハークがカスト達の勢力に合力していたのも学問を修め医術の心得がある故である。その身につけた医術を持って傷ついたものたちを少しでも救うことを課していた。

それゆえにハークはただ剣を男に向け守勢を崩さないように距離を取る。

“自らの命に代えてでも”などという崇高な考えを持ちあわせているわけではない。先頭に立って男と対峙したところで目の前の男を倒すことはおろか一撃でも与えることが出来るなどとも考えるはずもなかった。

今はただ、わずかな間でも時を稼ぎ、ガイナーたちが来ることを待ち続けるほかなかったのである。

目前に迫る男にハークの思惑を悟られたわけではないが、男はハークに向かってまっすぐに向かってきていた。


「お前達はなぜ俺達を目の仇にする?

我々が一体何をした!?」

「あ?」

ハークの問いかけに男は不意を衝かれたような面持ちを見せる。

それは別にハークのみが有する疑問ではない。ライティンの多くに存在するものだった。

ライティンに限ることなく、生命を脅かされるものたちからすればいわれのないことで自らを敵視されてしまうということは当然ながら納得がいかないものである。

何を今更…とも思える表情から発せられた言葉は明らかにハークを蔑むものだった。

「てめぇらがそんなことを聞いてどうするっていうんだ!?

おまえらはここで死ぬって言うのによ。」

「くッ…」

男の蔑んだ言動に感情の昂ぶるのが自覚できる。

だが、この場は逆上することなく自らを律しようとする意識が勝っていたことで冷静さを保ち耐え忍ぶことが出来た。

その様子に“魔神将”と自称する男は興冷めしたかの様子で思いのままを吐露する。

「けっ…なんとも面白みの無い野郎だ。」

半ばため息がちにつぶやいた刹那、男は地面を蹴った。

「なっ…!!!?」

突然の男の動きにハークはその姿を見失ってしまっていた。

ハークが男の姿を目で確認できたのは、側面からの強い衝撃を受け10数歩離れた位置まで弾き飛ばされてしまった後のことだった。

「かはっ…!!!」

強い衝撃とともに地面に叩きつけられたハークはその場でうずくまる。

「うぐぐ…」

「おいおい…まさかそれでもう終わっちまったなんて言わねぇだろうな…!?」

ハークの側面に一気に回りこんで蹴りつけただけの男は呆れたように問いかけながら、両腕を広げて無防備を晒す。

「くっ…」

ハークはその言葉と男の余裕の態度に反応して身体を起こす。

「…そうでないとな。」

薄ら笑いを浮べて男は鋸のような剣を前に出す。

先ほどの男の動きと比べると剣の軌道はハークの目にも捉えることが出来たのか、手にした剣を前にして受け止めた。

間髪を入れぬまま男の剣はその大剣に匹敵するほどの長い剣を片手で振り回し、斬りかかる。

ハークはその剣の軌道を目で追いながらも再三、剣で受けにかかる。

幸いにしてか、大剣は刀身が長い分、軌道を見失うことがなく、多少の誤差があろうとも剣で受け止めることが出来る。

「そらそらっ!!

まだまだ足掻いてみせな!!」

「くぅ…」

だが大剣を受け止める腕にかかる負担は次第に増していく。

男の剣を振るう速度は一撃ごとにその勢いを増してきていた。

「くそっ…」

この時点で男はただ単純にハークを嬲りものにしようとしていることがハークには十二分に理解できる。

男の最大の武器は本来であれば蛇のごとき動かすことの出来る右腕であるはずだ。

その腕をハークに対して使おうとすることなく大剣を片手で振るい、ただハークに対して無防備を晒したり、単純な攻撃のみで向かってくるのは、男がハークを舐めてかかっていること、そして、弱い獲物を弄って楽しむという享楽者としての一面が存在しているからであろう。

それでも時間を稼ぐという意味合いにおいては好都合だったことに変わりはない。

いつまで持ちこたえられることなのかはわからないが、今のところは男が言うように足掻いてみせる。

「うおぉっ…!!」

何合目かの男の大剣をはじいたとき、男に向かって斬りつけようと剣の柄に力を込めて大振りを試みる。

「ちっ…」

剣が男に届こうとした瞬間、男はすばやく身をかわし再びハークの視界から姿を消す。

剣を空振りさせバランスを崩したハークに向かって大剣がうなりをあげた。


ドガッ!!!


「がはっ…!!!」

大剣はハークの身につけた胸当てを凹ませるほどの衝撃を乗せてハークの身体に刻み込む。その衝撃でハークの身体は再び弾かれたように飛ばされた。

通常の剣であれば胸当てはバッサリと斬り裂かれ、ハークは致命傷を被っていたことであろう。だが、鋸の様な状態の刃こぼれのある剣であったためにハークは傷を負うことを免れた。だが出血はないまでも大剣を身体に受けた衝撃は凄まじいもので、ハークの着衣の下には痛烈な打ち身に似た痣が生じさせるには十分なものだった。

「くぅ…」

それでもハークは再び身体を起こす。身体に刻まれた深い痣と身体から滲んでくるような熱を帯びた痛覚はハークの鎖骨から肋骨にかけて砕かれたものであると自己診断出来た。それでも発せられる痛みに意識を保てなくなりそうになりながらもハークが男の前に立ちはだかるのはただ今の自己に課せられた使命感ゆえであろう。

“早く皆ここから離れてくれ…”

心の奥で悲痛に叫ぶハークの心境も空しく、すでに死を覚悟した者達はその場でうずくまっていた。

その中にハークが何よりもこの危機から回避させたいと思っていた女性の姿があることが一層ハークに重くのしかかった。

「ハーク!!もういいわ。これ以上は…」

これまで抱きかかえられたままでいたイースラはハークの姿にいたたまれずその場で膝をつく。

ハークの思惑を知りながらも、イースラにはこの場を離れることは出来ずにいた。

イースラの叫びもむなしく、ハークは再び男の前に立ちはだかろうとする。

「お前だけは…お前だけは、ここから通さんっ!!」

だが、ハークの必死の覚悟を呆れ返った仕草で男はため息を吐く。

「馬鹿かてめぇは…

ここから戻ってもどうせ死ぬことに変わりはねぇんだそ。」

事実、このまま元来た道を戻ろうとも追撃するサーノイドの率いるオークの軍団に襲われる他は無い。

「それでも――!!!?」

言葉を返そうとした矢先、ハークの脚に激痛が走る。

立ち上がろうと膝を立てたとき、これまで繰り出すことのなかった男の右腕が槍のようにハークめがけて伸びてゆき、その太腿を貫いた。

「――っ!!!!!?」

これまで味わったことのないような痛みが全身に駆け巡る。

男が腕を脚から抜いた時ハークの咽の奥から言葉にならない絶叫が響き渡りそれと同時に動脈を貫かれた傷口からは一気に赤い液体が噴出し始める。

「ハーク!!!!!?」

「ぅぐぐ…」

先ほどの大剣でのダメージも吹き飛んでしまいそうなまでの激痛に身体が耐え切れずに手にしていた剣をその場に落とし、傷口を押さえながらその場に倒れこみ、あまりもの痛みに意識を失いそうになる。

無意識の動作からなのか、傷口を塞ごうと手で押さえる動きを見せながらでもなお血液が指の隙間から体外に出て行くことをとめることが出来ずにいた。

それほど時を置くことなくハークの身体の周囲に赤い水溜りを生じさせ、土色の衣服を黒く染め上げていった。

「あぐあああぁぁっっ…!!!!!」

程なくしてハークの口からより大きな絶叫が発せられる。

ハークは痺れるような感覚とともに傷の痛みが身体中に巡ってくるのを感じ取っていった。

それはハークの素足は着衣によって見えないが、その中も自らの血液で真っ赤に染まる中、傷口付近は噴出す液体の色とは正反対で青く変わり果てさせたものが要因となっていた。

ハークの足を貫いた男の右腕にはハークが推察したとおり、強烈な毒性を帯びたものが付着させていたゆえであることをこのとき自らの身体で確信させた。


「くくく…

そうだよ、俺はこいつが聞きたかったんだよ。」

ハークの絶叫に男は悦に浸ったのか、倒れる姿を前に高らかに笑いながら、しばらくの間その様子を耳障りになるような笑い声を出しながらそのまま眺めていた。

「お願い…もうやめて…」

離れた位置で膝を突いたままでいたイースラは自らの傷も顧みずにハークの前まで駆け寄り目の前に立つ男に懇願するように叫ぶ。

「よせ…イースラ、早く、逃げるんだ…」

全身に脂汗が染み出し、激痛で気が狂いそうになりながらもハークは近寄ってくるイースラに離れるように諭そうとする。だがその言葉もむなしく、イースラは頑なにこの場にとどまり、男に向けて叫び続けていた。


イースラの懇願の前に男はその場でしばらく動きを止め、手にしていた剣を肩に乗せる。

「くくく…なんとも泣かせるような光景だ。」

感心したような言葉を並べてはいるが、その態度からは明らかに違う表情を見せていた

「俺だって無慈悲なわけじゃねぇ…

そうだなぁ…どちらもこれ以上悲しまねぇように…二人まとめて仲良くあの世に送ってやるよ。」

そういいながら右手を握っては開くを繰り返す。

「イー…スラ…」

「ごめんねハーク…私…」

男の回答は二人には容易に理解できていた。

この場で二人の命運が尽きてしまうことはこの男が現れた時点で決まってしまっていたのだということを…

わずかな残された時間をイースラはハークに寄り添うように背中から抱きつく。

「じゃぁな!!!」

軽い口調で言い放つ別れの言葉とともに二人に向かって鋭い刃物のように変化した右腕が蛇が鎌首をもたげるように伸ばされて得物に喰らいつくように襲い掛かってゆく。

イースラはこのとき目を塞ぎこの世との別れを覚悟する…


ザシュッ!!!!


鋭い刃物が肉を切り裂いたような音を立ててどれほどの時間がたったのか、ハークとイースラは未だに受けた傷の痛みがあることを感じ取って未だに現世に留まっていることを不思議に思いながらも感じ取る。

「どうなっているの…??」

目の前に立っていたはずの男の位置に立っていたのは別の人影だった。

それはイースラとハークの知る人物だった。


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