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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act. 05.混迷の王都~Laclone~
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第06節

ガイナーとエティエル、そして100人からなるカスト達が立てこもっていた避難民たちはサーノイド達が率いるオークの軍勢の追撃を振り払いながらも、森の中を抜ける山道から切り立った断崖へと景色を変えながらただひたすらにラクローンを目指していた。

ガイナーと数人の戦士たちは、避難民を先行させて自らにしんがりをつとめながら執拗に迫りくるオークの軍勢と幾度も戦闘を繰り返していた。

だが、逃げながらの戦闘はガイナーたちにも負担は決して軽いものではない。

だが進んでいく地形を利用ながらオークたちを迎撃していった。

「行かせるかよ!!」

剣の柄に両手を添えてオークに向かって斬りかかっていく。

一見、無防備な状態を晒すことにはなるも、道幅が狭まった地形を選んで戦うガイナーには不要なものだった。オークたちはガイナーに対し一勢に攻めかかることが出来ずにいた。

そんな地形を利用してガイナーは自らの剣によってオークを薙ぎ倒しにかかる。

オークが反撃に転じてきた時には別の方向からの援護がガイナーに加勢する。

「ガイナー、下がってくれ!!」

その言葉を耳にしてガイナーはその場から短い歩数で一気にさがると、それまでガイナーがいた場所にはいくつもの矢が飛来し、オークに襲い掛かる。

不意をつかれたオークは成すがままに弓矢の餌食となってその場に倒れていった。

ガイナーが斬りかかってオークの足を止め、その隙を狙って後方に控える戦士が弓を射掛ける。

逆に、弓で足を止めた隙にガイナーが斬りかかる。

この絶妙な相互間でのやりとりが功を奏し、森を抜けてからの戦闘はこのようにしてオークやサーノイドの進撃を阻み続けて避難民との距離を稼ぎ続けていた。


「よしっ、ここまで離せば十分だ。みんなと合流するぞ。」

執拗に襲いくるオークのすべてを撃退させてガイナーたちは先頭集団に追いつくためにこの場をあとにする。

だがこの時点において、先頭と大幅に距離が離れてしまったことが命運の分かれ目に変わってしまうことであったことなど、知る由もなかった。

ここにいる誰もが先頭集団が直接狙われているということなど、誰一人考えてはいなかったからである。


ガイナーたちが奮戦している中、足取りは遅いながらも避難民達は必死でラクローンを目指す。そんな先頭集団の中には先ほどの戦闘で負傷したイースラを抱きかかえたまま行軍を続けるハークもいた。

ハークは元々、ラクローン王都の出ではあったが、王都において学問を修め、わずかではあるが医術を学んでいた。

そんな時、サーノイドとの戦いが起こり、自分が持っていた医術をもって戦士たちの助けになるのではないかと思い立って戦いの中に身を投じ、カスト達と行動をともにするようになった。イースラと出会ったのもそのときが初めてではあった。


通常の道であるのであれば、荷車などを使用してそこにイースラを乗せて運ぶことも出来たであろうが、すでに正規の道からは外れてしまっているために、当然のことながら道は舗装されているわけでもなく、何より、荷車を使用が出来るようなものではなかった。

ハークの腕の中で小さく呻くような仕草のイースラを気遣う。

「傷が痛むか?」

「ううん、大丈夫…

今は痛いなんて言っていられないわ。」

イースラが斬られた部分は幸いにも内臓にまで達したものではなく、布で縛り上げて傷を塞ぐような応急処置でなんとか済ますことは出来た。

だが、普通の人間なら痛覚でどうにかなってしまいそうなものであることに変わりはない。

「そうか、後もう少しだ。そうすればみんな助かる。」

「ごめんなさい、ハーク。私、足手まといになって…

こんなことなら…」

イースラからすれば、自身が負傷してしまったことによって他の者に負担をかけてしまうことが何よりも絶えられないことだった。

「そんなことはないさ。

生きていれば…生きていればなんとでもなるんだから。」

ハークはイースラの次の言葉を遮るようにしたために言葉を荒げながら言い放つ。

イースラも自らの言葉が失言であったことに気づき、ただハークの言葉に頷くのみだった。


「見ろ、ラクローンが見えてきた!!」

未だに山道ゆえに遠くの景色が見渡すことが出来るような位置ゆえに遠くの景色の中に目指すべき王都を見ることが出来たとき、避難民の意気が上がってゆく。「みんな、あと少しだ!!」と今一度鼓舞しようと誰かが叫んだそのとき、彼らを絶望に追い落とそうとするものの声が響いた。

「残念だが、てめぇらの人生はここで終わりだよ!!」


ここにいる誰もがこの声を聞き、どよめきがおこる。

冗談にしてはこれほどまでに悪質な類のその台詞は皆の表情を強張らせるには十分すぎた。

「だ、誰だ!!?」

声のするほうに目を向けるも誰かが立っているというわけでもない。皆が周囲を見渡して姿を探す。

「くくく…ちょろちょろと逃げ回りやがって…」

「!!??」

誰もが目を疑いたくなったことだろう。

声の主の姿を捉えたのは彼らが進むべき道に立ちはだかるように存在していたのだから。


姿から見るにずば抜けて背丈があるようなものでもなく、むしろ平均的な成人男性のそれに近い。身体には軽装ながらに肩から胸にかけて黒い胸当てを纏い、右側の肩当てからは腕を覆い隠すようにマントが垂らされ、逆にむき出しにした左側には刃渡りの大きい曲刀を手にしている。曲刀の刃は赤黒く、刃こぼれも激しい。刀剣というよりもそれはまるで鋸というべき代物のようなものだった。

黒髪は長すぎるというほどのものではないのにせよ、表情がよく見ることが出来ないほどに前髪が無造作に伸ばされている。それだけに不気味な雰囲気がより加味される。

「何だ!?お前は!!?」

不安が募ってゆく中、怖じることなく戦士の一人が剣を抜く。

残りの人々もその姿に固唾を呑んで見守るほかはなかったが、とても楽観できる状態ではないということだけは理解できていた。

その戦士の様相をみるなり、目の前の男は鼻で笑うかのような仕草を見せな柄戦士の前に一歩を踏み出して近付きはじめる。

「俺はてめーらをぶっ殺すためにわざわざこんなところまで足を運んでやったんだからな。」

「な、何ぃ!?」

男の言葉に剣を向ける戦士は握りを強めて身構える。

そんな戦士の構えなどを無視するかの様子で男はさらに距離を縮めてくる。

「こんな風にな!!」

戦士の間合いに入ろうとしたその直前、男の右腕を覆ったままのマントが一気に翻る。

そこから何かが飛び出したかのような凄まじい衝撃が戦士を襲った。

「!!?」

一瞬、戦士の目の前に起こる風圧に眼を閉じてしまう。しばらくして何事もない様子に釈然としない顔を見せるが周囲からの悲鳴に戦士は自身の背後に顔を向ける。

「なっ…!!!???」

戦士の背後には避難民の一人が立っていた。

だがその人は首から上を何処かへ失ってしまっていた。首からは多くの赤い液体を撒き散らすように吹きだして糸の切れた人形のようにその場に崩れ去る。

「お、お前…な、何をした!!!?」

再び男に向き直って詰問する戦士であったが、明らかに表情は強張ったままだった。

「ほぉ、いい顔つきになってるぜ…」

明らかな侮蔑をはらんだ言葉に戦士は逆上する。

「ば、化け物か…!?」

目の前に立っていた戦士からすればなにが起こったのかよくわからなかったことかもしれないが、離れた位置でそれを見ていたハークたちにとってはまた違う風に見えていた。

マントから飛び出したものはあまりにもの速度で放たれたもので詳細は不明ではあるが、黒い腕が一気に伸びていき、それがそのまま村人の頭部を食いちぎっていったのだ。

その証として、男の足元には絶命した村人の血らしきものがマントの中から滴り落ちているようだった。

「ハーク…?」

ハークの腕の中にあったイースラもハークの鼓動がはっきりと伝えられている。

目の前の男は明らかにここにいる皆を残らず根絶やしにすることも可能である…と。

「なんとかしないと…」

「いい表情だな…さて、次は誰にするかな…」

このわずかな間に、目の前に立つ男はこの場にいるすべての者に恐怖を植えつけるに十分なものを見せた。

再び男は一歩一歩とにじり寄るように近付いてくる。さらにマントに覆われた右腕が吹きこんでくる風になびいていることが恐怖を上乗せさせるようだった。


「くそぅ!!そう簡単にやられてたまるか!!」

3人の恐怖心に駈られた戦士たちが逆上のままに男に向かって斬りかかる。

「ま、待て!!」

咄嗟にハークが制止しようと叫ぶも一足遅かった。

戦士たちが男を斬りつけようとするその直前、再びマントが翻る。

「魔神将たる俺がこんな任務に就いているんだ。せいぜいてめぇらは俺に恐怖に歪んだ顔と悲鳴でも披露しやがれ!!」

その瞬間、戦士たちはその場から弾き飛ばされていった。


「がはっ…!!!」

「ぐぇっ!!!」

一人は運良く、剣によって男の攻撃を弾くことができたが、一人は後方の岩に激突した。もう一人はハークの足元まで飛ばされていった。

「おいっ…大丈夫か…!!!??」

ハークの目の前まで飛ばされた戦士は苦悶の声とともに地べたにのたうち回るがやがてその身体は動くことをやめた。

戦士の胸元は強力な力で抉られたような傷が深く刻まれていた。

その傷痕は紫色に変色してしまっていることにハークは目を疑う。

その傷には明らかに毒性のものを含むものであることが医術の心得のあるハークであればこそ見ることが出来た。

「気をつけろ!!奴の腕には毒が塗られてある!!」

「!!?」

「毒だと…!?」

ハークの言葉は皆が平静でいられないものだった。そしてさらに異様なものをこの場にいるものはみることになる。

目の前に立つ男に3人で斬りかかったとき、そのうちの誰かが男の右腕を覆うマントを切り裂くことに成功していた。

「こ、これは!?」

その露わになる右腕部は常人のものとは明らかに異なっているものだった。

男の右腕からは男のやや色白な肌とは相対的にどす黒く、まるで腕だけが別の生き物を思わせる。

「見やがったな…」

右腕が露にされたことで男はマントを翻してその腕をあからさまに晒し、その先端に付着させたままの赤い液体をひと舐めする。

その口角を上げて口を開く姿を見たものはこの先の命運を物語るように身震いを感じてしまっていた。


「くそぅ!!」

初撃をかわすことが出来た戦士はそのまま男にもう一度斬りかかる。

「フン…」

嘲笑うような笑みを浮べながら男はその黒い右腕を振り上げる。

その刹那、黒い腕は大きく形を変えた。

「っ!!!??」

黒い右腕の掌は斬りかかってくる戦士に向けられると突如として肥大し、長く伸びる刃に等しい鋭い爪は戦士の胴体を一振で肉片に変わり果てるほどに切り裂いた。

戦士は何が起こったのかわからぬまま、言葉にならぬ断末魔をあげながら意識をこの世界から切り離してしまい、あとに残ったのは赤く染め上げた水溜りに浮かぶ無残に切り刻まれた肉片のみだった。

「な、なんてこと…」

この惨状を目の当たりにした者達はすでに悲鳴を上げる行為すら出来ぬほどになってしまっていた。

誰もがこの場で荼毘に伏してしまうということも頭の中で浮かばせてしまうものだ。

ただ、男に近付かぬようにじりじりと元来た道へと退がりはじめる者もあったが、大半の者が足をすくませその場に蹲ってしまう。

「くっくっくっ…なんだ…もう悲鳴すらないのかよ。」


「歩けるか?イースラ?」

「ハーク…?」

ずっと両腕で抱きかかえたままのイースラを下ろし、ハークは意を決したかのように腰に帯びていた剣を抜く。

「今のうちにもと来た道を引き返すんだ。そうすれば…」

「でもハーク、それじゃ…」

「少しでもあいつを足止めさせておかないと。」

「ハーク!!」

イースラの声に応えることなく背を向けてハークは男と対峙する。

わずかな間に護衛に就いていた戦士は皆倒れてしまった。戦えるもので残っているのは手負いのイースラを除けばハークのみが残された状態だった。

「ほぅ…次はお前が死にたいのか…」

「みんな、早くここから離れるんだ!!」

ハークの号令に呼応してわずかなものではあるが、もと来た道を引き返し始める。

その中にイースラの姿はなく、その場にとどまることを選んでいた。


「おいおい、随分といきがってくれるが…震えているぜ。」

この場を引き受けたハークではあったが、手にした剣先に確かな震えを生じさせていることはハーク自身、自覚はある。

ハークの思惑はただ一つ、わずかな間でも時を稼ぎ、後方で追っ手と戦う黒髪の少年が追いついてくることを待つほかはなかった。

「いい声で鳴いてくれよ。」


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