第05節
かつての戦争の際に多くの戦士が立て籠もる洞窟があった。
山の岩肌にくり抜かれた空洞は自然の手によって生み出されたものもあるが、そのほとんどは人工的に造り上げられたものではあった。
人工的に掘られたことで多くの部屋が構成され、その広さは山そのものを城として活用するに至っていた。
その洞窟は幾重にもの通路と部屋で構成されていた。
慣れたものではない限りはまず迷い込むことにもなるだろう。
すでにこの地に戦士たちが立てこもっていたのは過去のものであり、とどまっていた数百人にも及ぶライティン達はすでにこの場を離れ、山を下りた湿原でサーノイドの軍勢と対峙していた。
この地形を利用してこの洞窟に入り込んできたオークの軍勢を迎撃すべくわずかに残った人数で戦闘を繰り広げていた。
「フィレル、来たぞ。」
「…もう少し引きつけて。」
狭い通路においてオークの侵入を待ち構え、フィレルたちはそのまま袋小路へと誘い込むような手筈を整えていた。
オークの一団が進み来る通路に火を灯したままにしておき、自らは暗闇の中においてじっと待ち構えたままでいる。
フィレルは袋小路へと入らせたオークの集団の背後を予め用意しておいた爆薬で一網打尽にしてしまおうという作戦を立てていた。
「そろそろ、オークたちが行き止まりだと気付くはずね…」
頃合を見てフィレルは手にしていた火種を壁に沿って伸ばしておいた導火線に火をつける。
「これで…」
すぐさまにフィレルたちは通路の角を曲がり、隠れていた部屋で耳を塞ぐ。
フィレルによって点けられた導火線の炎はそのまま壁に伝っていき、壁に埋め込んでいた爆薬に至ったとき、炎は突如として膨れ上がり、同時に轟音が響き渡った。
巨大な炎はそのままその付近に仕掛けられていた爆薬にも引火し、爆発は複数に及んだ。その衝撃は洞窟全体を小刻みに揺らし、天井からは細かい礫がぱらぱらと降り注いでいった。
砂煙が収まったとき、先ほどまでオークが通り抜けていた通路はすでになく、一瞬にして瓦礫によって何対かのオークとともに塞がれてしまっていた。
「よしっ、やったな。」
通路を塞ぐことに成功した戦士は思わず拳に力を込める。
「まだよ。すぐに次の集団がやってくるわ。」
この時点においてフィレルの思考は冷静なものだった。
フィレルの言うとおり、本来の入り口からはオークの集団が再び洞窟への侵入を果たしその何体、何十体もの足音が響き渡っていた。
「みんな、次の仕掛のある場所までさがるわよ。」
フィレルは次の仕掛けに誘い込むべく、残りの戦士とともにその場をあとにする。
その後もフィレルは直接の攻撃は避け、洞窟内に仕掛けておいた爆薬と、手にしていたボウガンで間接的に攻撃を仕掛け続ける。
だがすでに二度オークの一団を撃退させたフィレルたちではあったが、数の上で圧倒的に不利な上、すでに洞窟の半分以上をオークに制圧されつつあった。
「さすがにここまでが限界ね…」
「もう火薬もこれが最後だ。」
「残っているのは出口を塞ぐためのものだけだな。」
ここまで何倍もの数のオークと戦って無傷でいられたのもこの地形と用意しておいた爆薬があってこそのものだった。
「よしっ、とっとと出口を塞いでしまってやつらを完全に足止めしてしまおうぜ。
そしてすぐにでもカストさんのほうに加勢に向かおう。」
「そうね…カストさんのほうも気になるけど…」
顎に手を添えながら、フィレルはここから飛び出していった少年とそれを追っていった青髪の少女のことを考える。
「無事だといいんだけど…」
フィレルはここでこのようなことを考えていても詮無いことは十分理解している。
理解しているからこそ、自分の役割をきっちりとこなすこともまたフィレルがフィレルであったことであるといえる。
「ともかく、あと一度やつらをかく乱させて出口を塞いでしまうわ。それで…」
やや間を置いてから、口を開く。
「私たちはガイナーたちを追いかけるわ。」
フィレルの言葉に戦士たちは少し間をおいたものの、フィレルの指揮で行動していた戦士たちは皆その言葉に頷いた。