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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT,01 辺境の禁忌~Taboo~
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第04節

夕べに待ち合わせにしていた場所にはすでにサリアの姿があった。

彼女は昨日と同じのセーラー状の服に同色の帽子、腰にはポーチを身につけている。手には銀製のロッドをもっていた。

「あ、えらいね。ちゃんと起きてきたんだ」

ロッドを軽く振ってガイナーに声をかける。

「あったりまえだ!俺は来るといったら来るんだよ!」

二人はいつもの雰囲気のままの挨拶をかわし、そのまま村の外へと歩き出す。


村は魔物が近づいてこないように小さいながらも堀と木の柵で囲んだ形にしている。

よって村を出るには橋を架けた正面の出入り口だけである。出入り口には自衛団の若者が交代で見張りについている。

「やあ、ガイナー随分早いじゃないか」

「ドライスか、ああ、いまから西の洞窟に向かうんだ」

ドライスと呼ばれる青年は少し怪訝な表情を見せながら

「サリアも行くのか?」

「ジェノア様に言われているから」

「長老にか!?」

ドライスはしばらく考え込んではいたが

「わかった。とにかく、気をつけていけよ、夕べの報告だとどうもこのごろゴブリンやコボルドどもが村の近くまで近づいてきていたらしいからな」

「ゴブリンが!?」

「ああ、だから洞窟まで行くのなら気をつけていけよ」

「わかった。気をつけるよ」

そのままガイナーたちは村をあとにした。


村が見えなくなった辺りで陽は完全に昇り、世界全体を明るく照らす。空は見事なまでに晴れ渡り、常春の気候であるメノア島ではいつも草木のにおいがたちこめる。

「ん~いい天気」

これまで屋内での魔法学の修練で身体が固まってしまったせいであろうか…

サリアは腕を天高くあげ身体全体で伸びをはじめる。

「だな。これが雨だったら悲惨もいいところだからな」

「そうねぇ…」

「・・・・・」

あまりにもの緊張感のなさからかガイナーからサリアに疑問を投げかけてみる。

「おい、サリア。どこかピクニックに行くのと勘違いとかしてないか?」

「バカね、そんなわけないでしょ。でもせっかくこんなにいい天気なんだから、少しはこの空気を味わっておきたいじゃない?」

「ったく、遊びに行くわけじゃないんだからな・・」

「や~ねぇ、そんなことわかってるわよ」

冗談交じりの会話をかわしながらも二人は道なりに洞窟へ向かっている。幸いにも洞窟の近くまでは道が残されているので、洞窟に着くまでに道に迷うようなことはまずない。

しばらくの間はサリアはガイナーをさしおいて一人でずんずんと歩いていっていたが、しばらく行くと山道に差し掛かる。さすがにここから先はサリアを先行させるわけにはいかなかった。

「サリア、ここからは俺の後ろにいるんだ」

「え~なになに、俺について来いとかってやつ!?」

未だに冗談混じりなサリアの様子に少し怪訝さを持ちながらも今後の行動を説明する。

「んなもんじゃねぇよ!

ここからは山道だからだよ!」

平地の辺りでは魔物がいたとしても対処にあわてることはなかったが、突然視界を失いかねない山道では平地のようにはいかない。

山道は木々が生い茂り、岩や背の伸びた草に魔物の姿が見えづらくなる。ガイナーは周囲の警戒を絶やすことなくやや慎重気味に歩を進めていった。


だが中腹に差し掛かろうとしていたときである。サリアの先を歩き始めたガイナーがふと立ち止まると肩にかついでいたザックを地べたにおろし、剣の柄に手をかけた。

「!?」

サリアもただならぬ状態であることを悟った

「きやがったか・・」

二人の左右の木々がざわつく。

2体、いや3体か・・

近づいてきては止まり、それを繰り返しながらだんだんと二人に近づいてくる気配がある。

この付近で生息する二足歩行で動き、犬の頭をもつ獣人コボルドである。

コボルドは臆病な性格からか、一体で行動するときは人前に姿を見せることはない。

だが、2体、3体と群れてくると、獲物を追い詰めるようにじりじりと近づきながら襲ってくる。

さほど知能があるわけではないのだが、コボルドはゴブリン同様に尖らせた石を刃物代わりに石槍を使って襲うことがある。

ガイナーは鞘から剣を抜き、体制を整えた。

「サリア、少し下がっていろ!」

幸い、まだ囲まれた状態ではない、後ろにはまだ逃げ場がある。いずれにせよ剣を振る行為をする以上ガイナーのそばを離れずにいることのほうがかえって危険なのである。以前にガイナーとケインの剣の稽古を見たことのあるサリアはその意図を汲み取り、ガイナーがおろしたザックを手に取り、周囲に目を向けながら後ずさる。

サリアが後方にさがったのを確認して、ガイナーは意識を集中させた。

まずどちらから向かってくるのか?

それによって行動が大きく変わってくる。剣を中心に構えたまま未だ姿の見えない足音に神経を注ぐ。

一歩、また一歩と近づいてくる足音、やがて、全ての足音が同時に止まったその一瞬である、木の陰、岩の陰から3本の石を尖らせた槍がガイナーめがけて迫ってきた、ガイナーはそれを見越していたのだろう、最初にとった行動は後ろへのステップであった。

槍の先にあるはずであった獲物を確実にしとめたと思ったコボルドたちは一瞬の不意をつかれる。その隙をガイナーは逃さなかった。

「だあぁぁっっっ!!」

かけ声と共にガイナーは飛び退いたのとは逆に一気に踏み込み、三方から突っ込んできたコボルドたちの右端にいたコボルドめがけて剣を振り下ろす。

ドガッ!!

鈍い音を出しながらも、コボルドの左肩から右わき腹にかけて袈裟懸けに叩き切った。踏み込みが鋭かったことと、剣を鍛えなおしたばかりであるが故に、剣はコボルドの骨を砕き、切っ先はコボルドの血のりを伴い完全にコボルドの身体を振りぬいた。

初撃で袈裟懸けに叩き斬られたコボルドは何があったかもわからぬまま斬り口から大量の血を噴出しその場に崩れ落ちる。

袈裟斬りの勢いそのままの反動を生かし、左に回転をして勢いをつけた後。真ん中のコボルドめがけて剣を薙ぐ。剣は空を斬るかに思われたが、横に薙ぎこまれた剣はコボルドが持っていた石の槍をはじき落とした。すかさずにガイナーは柄の先端を左手で押さえ、剣は薙ぎから突きの一撃へと変わりそのままコボルドの咽元めがけて突き刺した。

ドシュッ!!

完全に咽笛をつぶされたコボルドは嗚咽にも似た呻き声をあげるが、ガイナーは突き刺さった剣を抜くために右足でコボルドを蹴り抜く。剣が抜かれた後、後頭部から頭をぶつけた状態で倒されたコボルドが咽笛からは出血と同時に気管からはヒューヒューという音が漏れでいた。

二体目も瞬時に咽笛を突かれ、出血と呼吸困難で手足をバタつかせて悶えるが、やがてその動きを停止させた。残るコボルドもなすがままにやられまいと槍を手元に戻し、ガイナーめがけて突き返す。

「くっ!」

体制を固めたままの状態であったため、回避にしばらく間をおいてしまったが。コボルドの槍をかわすと、コボルドに剣を向けて牽制する。コボルドの得物は石を尖らせたものを先端にくくりつけた槍状のものであったが、ガイナーの剣も通常のものよりも刃渡りが長いものを使用していた。ガイナーとコボルドの体の大きさを考えればたとえ剣と槍との戦いといっても互角に渡り合えた。

事実、すでに石槍を有するコボルドを既に二体仕留めているのだから。

コボルドは再び反撃に転じようとするが、もはや一対一の構図へと移行してしまっている以上、ガイナーよりもやや小柄な体躯のコボルドにとってはすでに形成は不利になっている。

しばらくの睨み合いの末、コボルドは後ずさり、やがてどこかへと走り去っていった。

ガイナーはコボルドが見えなくなるのを確認したのちに、構えの体制から体を解いた。しばらくの間絶命したであろうコボルド二体を見据えていたが、後ろに下がっていた幼馴染のことを思い出す。

「サリア大丈夫だったか??」

サリアはただ呆気に取られた様子であったが、しばらくしてその場にひざを折り土の上に腰を落とす。

「だ、大丈夫・・・」

瞬間の出来事に対処できないでいたのか、腰を落としたまま、そう端的に応えるしか出来ないでいた。

ガイナーは崩れたままのサリアの前で手を差し伸べると

「最初はみんな同じだよ、最初から平然としているほうがどうかしてるよ」

「ガイナーも最初は怖かった?」

「そりゃそうさ、だけどここで迷っていたらこっちがやられるからな・・」

「そ、そうよね・・」

ガイナーの手を取って立ち上がりスカートについた土を手で払いまではすれども、ひざの震えが未だに止まらないでいた。ガイナーもそれを理解したのだろう。

「もう少し先に進んだら少し休もう」

魔物との戦闘を始めて目の当たりにしたサリアは黙ったまま頷いただけだった。

しかし、ひざの震えはガイナーの左腕を見た途端に止まっていた、それどころかガイナーに走りよって、ガイナーの左腕を掴む。

「っ・・!?」

コボルドの槍を紙一重でよけたつもりでいたが、回避に手間取った隙にやりの先端を左腕に掠めていたのであった。

「ちぇ、避け損なっていたか・・・」

完全に避けたつもりであったのか、ガイナーは少し悔しそうな態度をつくってみせた。戦っている間は痛みも気にならないでいたのだが、傷を確認すると途端に左腕にじんわり熱が出ているかのような感覚がおそってきた。

「大変、すぐに手当てしないと!」

サリアの態度はもはや大事のような状態になってしまっていたのである。

「ああ、これくらいなんともないさ!」

実際傷口は左腕を皮一枚で掠っただけなので剣を振るにはまったく支障はない

それでもサリアは一度ガイナーを睨みつけたかのような表情をみせたあと、眼を閉じてガイナーの腕を掴んだまま右手を傷口にかざす。

「・・・・・」

サリアの口から呪文のような言葉を小声ながらも流れると、右手に淡い光が集まりだす。やがてその光は左腕の傷口に注がれてゆく、それは“レスア”と呼ばれるサリアが習得した治癒魔法の一種である。サリアがゆっくりと眼を開けると左腕の傷は完全にふさがった状態にまで回復していた。

「へぇ・・」

魔法を目の当たりにしたのは初めてだったので、ガイナー感嘆の声を漏らす。左腕をしばらく眺めながらも拳を開いては閉じる動きをしてみせた。

「すごいな、サリア・・・」

正直な感想を述べようとサリアに向き直ったときに見たものは、怒りと心配が混ざり合ったような表情であった。

もしかすればうっすらと涙も浮べていたのかもしれない。

「もぅ・・・無茶ばっかりしてちゃ駄目なんだからね・・」

それは悪戯が過ぎる弟に対して姉が叱咤するかのようなものであっただろう。

「ごめん、気をつける」

ガイナーもサリアの心配しているのがわかっていたので、素直な態度をみせた。



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