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FINAL MASTER  作者: 飛上
Act,04復讐の城砦 ~Castle~
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第13節

カストたち主力の戦闘部隊がサーノイドの軍勢に対して展開する湿原から山地のほうに場を移す位置。そこにはわずかな兵のみで護られたクリーヤに点在していた集落の生き残りともいうべき民衆がこれまでいた洞窟から避難して身を潜ませながら、ラクローン本国のほうへ向けて移動を続けている。

数の上では100人に満たない数ではあるが、民衆とはいえどもそのほとんどが老齢に近いもので、その中に女、子どもがわずかに混じっているといったものではあり、戦う力など到底あるはずもなかった。

「さぁ、急ぎましょう…」

老人や子どもが多数を占める集団であるがゆえに、成人男性が歩く速度と比べれば到底及ぶものでもなく、その進む速度は遅々としたものだった。

「私たちはもういい。ここに置いていってくれてかまわんよ。

すぐにみんなのもとにいっておあげなさい。」

すでに逃げることに疲れた老人の中には護衛の兵士にそう告げるものもあった。

「弱気にならないで、大丈夫よ、ここでがんばってみんなで生き延びれば、また静かに暮らせるようになるわ。

がんばりましょう。」

老人たちに諭す護衛の兵士の中には女性の姿もある。

髪はライティンに多い栗色で瞳もまたライティン特有のこげ茶色をしていた。

年齢的に二十歳を過ぎたあたりで、皮製の軽装の甲冑を身に纏っている。

女性の名はイースラ。カストの洞窟に所属していたものとは違い、点在する拠点の中の一人だった。

イースラももともとはクリーヤに存在していた集落に佇まいをもつ者のひとりだった。

イースラの住んでいた集落はすでにサーノイドの軍勢に襲われてすべて焼き尽くされてしまっていた。イースラはわずかに生き残った者達とともにカスト達の一団に保護された。

保護された村人はそのままラクローン本国へ逃げる者もいる。

だが、最終的にサーノイドの目標がラクローンへと向けられていることがわかっているだけに本国へと移るものはそれほど多いものではなかった。

この地域の気候はアファやメノアのような温暖なものというわけでもなく、根城にしていた洞窟を離れ、ラクローンにも向かわずに夜露を凌げない状況は人々にとって優しいものではないのも事実だった。

「イースラ。」

カストたちの拠点とする洞窟をあとにしてすでに半日が過ぎようとしていた。

本国への道のりの中、イースラたちが進んできた方角から近づいてくる気配を護衛の兵士の一人が察知した。

「誰かがこっちに向かってくる?」

「…!?

フィレルたちが追いついてきたのかしら…?」

「それにしては少しおかしい…」

イースラがそう考えることが妥当ではあったが、このとき奇妙な違和感を覚えていたこともある。

「ともかく、皆を隠れさせるんだ。」


戦うことの出来ない老人達を繁みの中に身を潜めさせてじっとこれまで歩いてきた道に注意を向ける。

事実いくつかの集団に分かれた足音と繁みを掻き分けるような木々の擦れあうような音が鳴り響く。

イースラたちは腰に帯びた剣を抜きはじめる。

これまでイースラは生き残ったものたちを守るために剣をとることを選んだ。

とはいえ同じ女性でもあるフィレルとは異なり、これまで戦闘経験を有しているわけではない。

もしここで戦闘に突入することになれば全滅は免れない。


やがて捜し歩いているかのような様子で迫り来るオークの集団を視界に捉える。

こちらの正確な位置を把握してはいないという様子にやや安堵するも依然危機的状況であることに変わりはない。

オークの集団に混じり、甲冑に身を包む兵士の姿も確認しはじめた。

「…サーノイド。」

素顔は兜で覆われていて見ることは出来ないものの、悪鬼とごとき形相をした存在であるといわれていることを思い出すのか、イースラの手に緊張の汗がにじみ始める。

「イースラ。」

「…え?」

小声とはいえ、ふと名を呼ばれたイースラは声のする兵士のほうに顔を向けるも、緊張の張り詰めた面持ちは隠せずにいる。

「俺達が、やつらに奇襲をかけておびき出す。

その間に皆を連れて逃げ出せ。」

「そんな、私だって。」

「駄目だ。ここで皆がやられてしまってはすべてが無駄になる。

なんとかして皆をラクローンまで連れて行ってくれ。」

「・・・・・・」

もはやイースラに、考える猶予は与えられることはない。兵士の提案にただ頷くほかはなかった。


離れた位置に潜む兵士に手振りで合図を打ち、不用意に近付くオークに向かって襲い掛かる。

「うおおぉぉっっ!!!!」

オークの不意を突くように一人が目の前に迫ったオークの甲冑越しに手にしていた槍を突き入れる。


ドシュッッ!!!!


木の板になめした皮を貼り付けただけの甲冑は兵士の持つ槍を容易に刺し通しオークは苦悶の表情のままにその場にうずくまる。

一体のオークが絶命するのとタイミングを同じくして、残りの兵士達も一斉に攻めかかる。

「うおおおぉぉっっ!!!」

「こんなところでやられてたまるか!!!」

半狂乱とも言うべき勢いを見せる兵士達にオークの集団もわずかに怯む姿を見せるも、ある程度剣を交えた後に蜘蛛の子を散らすように離脱を図る兵士達を見てすぐに後を追うように踵を返す。


“みんな逃げのびて…”

物陰に隠れながら固唾を呑んで見守るイースラとしてはただじっとオークたちが四散して行った兵士達を追いかけていくことを待つほかなかった。

しかし、イースラの希望は逃げる機会を待たずして打ち砕かれてしまう。


「ギャッ!!!」

「あああっっ!!!!」

それほど離れた位置でもない場所で誰かの断末魔のような叫びが風に乗って伝ってくる。

姿は見えぬまでも、その声が先ほどまでイースラたちと行動をともにしていたものの誰かであることはイースラには容易に想像できるゆえにその声に自身が負った傷のように苦痛にゆがませてしまう。

「…っ!!??」

囮となって離れていった兵士に代わってイースラの視界に映ったのは、オークとは違う、黒い甲冑に身を包む兵士の姿。その手にした剣にはいまだに新しい鮮やかな色を残す赤い液体が滴り落ちていた。

「この一帯をくまなく探し出せ。

おそらくさっきの奴らを陽動にして逃げようとする奴らがいるはずだ!!」

「!!?」

イースラは兵士がオークに指示を出す声を聞いて愕然とする。

決死の思いで囮を引き受けていった兵士達の行動がこうもたやすく見破られてしまった。

こうなった以上、もはや自身も覚悟を決めるほかはない。

イースラの手にする剣の柄に力がこもる。

繁みに隠れながら、イースラは息を潜め続ける。

いずれは見つかるまでも、向こうが剣のとどく距離まで近付いてくるまでは。

“ティーラのご加護を…”

心の中でつぶやきながらイースラは近付くサーノイドの兵士に向かって一太刀でも報いようと剣先を向ける。

あと一歩近付いてきた時、一気に突出すると考えるものの、イースラの思惑とは裏腹にサーノイドの兵士は足を止める。

「…っ!!??」

すでに地面を蹴りつけていたイースラはとどまることが出来ぬままにサーノイドの兵士に向かって襲い掛かる。

「たあぁぁっっ!!!」

「!!?」


カランッ!!


タイミングがはずされてしまったこともあるが、戦闘未経験のイースラの剣ではサーノイドの甲冑には届くことは無く、無慈悲にもサーノイドの剣によって手の届かぬ位置まで弾き飛ばされてしまっていた。

「!?

あぁ…」

右手に剣を握る感触を失ったままイースラは絶望に近い眼差しでサーノイドの兵士を見る。

「女か…運がなかったな…」


ザシュッ!!!!


イースラに切りつけられた剣はイースラの身に着けていた皮製の胸当てをたやすく切り裂き、その内にあるイースラの胸元を赤く染め上げた。

「ぁ…」

声にならない声で自身の血飛沫とともにイースラはサーノイドの兵士を見ていた。

イースラは無意識にわずかに身体を反らしたためか、傷は致命傷に至ったものではなく、サーノイドの兵士は今度は止めを刺そうと剣を振りあげる姿だった。

今度こそ、その剣は自身の心臓に到達するだろう。もはや身体を動かす力の失ったかのように眼を閉じる。


ガッ!!!!


「なっ…!?」

サーノイドの兵士は返り討ちにした女兵士止めを刺そうと剣を振り上げたその瞬間だった。

背後から飛び込んできた何かに自身の剣が弾かれる。

「くっ…なんだ!?」

兵士に向かって飛び込んできたもの、それは剣を収めるための鞘だった。

とはいえ、形状はどちらにも穴が空いたままのいわば筒状のものだった。

投げつけた本人を見定めるべく兵士は剣が手から離れたまま背後に身体を返す。


ドシュッ!!!!


そのわずかな間でサーノイドの兵士の時間は強制的に停止した。

甲冑の隙間を縫って突き入れられた刃は兵士の咽笛を的確に貫かれ、刃をくらいこんだまま地面に倒れこんでいった。

「…ぇ??」

未だに生きていることが確かめられるかのような痛みを抱えながらイースラは頭を上げて何が起こったのか覗き込む。

サーノイドの兵士に代わって立っていたのは、黒髪の少年の姿だった。

「き…君は…??」

わずかに姿を確認するもそれ以上イースラは意識を保つことは出来ないまま力なく崩れ去った。

「…!?」

黒髪の少年はイースラが意識を失ったことを見るも新たに近付いてくる影を確認すると兵士の咽笛に刺さったままの剣を抜き戦闘体制をとる。

「来いっ!!!」

剣をどちらからも対応できるようにまっすぐに構えて黒髪の少年、ガイナーは怒気をはらんだような掛け声をあげる。

このときガイナー自身気付いてはいないかもしれない。

ガイナーの手にした剣に青白い光がうっすらと浮かび上がっていた。



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