第04節
ガイナーが部屋をあとにしてからもライサークたちはカストと今後の方針が論じてられていた。
「ともかく、敵の正確な位置と兵力の規模を知っておきたいところだな。」
「やつらが陣取っている場所はすでにわかってはいる。
やつらはこの山の向こうに建つ古城を橋頭堡としてラクローンを狙っている。」
「古城…か。」
「もともとは以前の大戦のときにライティンが篭城をした場所だったらしいのだが、ところどころ古びて崩れがちではあるものの、厄介なことにいまだに城としての機能は十分に残したままでいる。兵力としてはあの城だとおそらく3000はあるだろうか。」
「こちらは?」
「すべての拠点から集めてもどうにか500といったところか。
そしてラクローン本国からではどうにか1500といったところか…」
「本国からもそんなにあるわけじゃないのね…」
「それには贅沢いえぬ。だがその数で本国への侵攻を食い止めなければならない。」
「圧倒的に不利よね。」
「だが不利だからといって手をこまねいているわけにもいかない。それでラクローンが落ちてしまえば元の子も無くなってしまう。」
「そうだけど…」
数の上において劣勢にたたされている以上、闇雲に手出しは出来ない。行動には慎重を期っせられた。
ましてや決め手となるべき材料が全くない状況においては尚更である。
「…
城の規模というものも曖昧なものに過ぎないのだな…
やはり自分の目で確かめるべきか…」
「自分の目で…
って、まさか!!??」
「その城というものを直に見に行ってくる。」
ライサークの言葉は部屋にいるものを驚愕させるに十分なものを含んでいた。
「ちょ、ちょっとまって。そんないきなり。」
「別にお前が来ることはない。そこへは俺一人でいい。」
「ぅ…でも…」
フィレルとしてはライサークと行動を共にするつもりでいたために、ライサークの言葉には引っかかる面持ちを見せるが、敵の根城ともいう城砦に単独で行くということにはさすがに二の足を踏んでしまう。
ライサークは合意を得ようとカストの方に顔を向ける。
フィレルがなんと言おうと現段階において依頼者となるのはこの場の指揮を執るカストである。カストが是と言わぬ限りはライサークも動くつもりはなかった。
「危険ではあるぞ…」
「もとより、危険でないところなどあるとも思えないがな…」
カストの言葉はライサークの行動を是とするものと捉えられた。
サーノイドが動く気配を見せない限りはこちらとしても行動を起こすことが出来ない以上、危険なことと承知しながらも、今はなんとしても多くの情報を得ておきたいのはカスト自身あった。
「…3日で戻ってくる。
それまでに奴らが動かないことを祈っておいてくれ。」
そう言い残してライサークも部屋を後にした。
「はぁ…まさかあいつがあの“ブラッドアイ”だったなんて…」
未だに自分が連れてきた者が凄腕と噂される傭兵だったことに驚くばかりだった。
「…妙な縁でもあるがな…」
「…!?
どういうこと??」
「“ブラッドアイ”はもともとラクローンのギルドにいた傭兵だ。城の者達とも面識があるくらいにな。」
「あいつラクローンにいたんだ。
…ん?城の者って…!?
たしかカストさん、ラクローンの騎士団長だったって…でもあいつとは初対面だって言わなかった??」
「城にいたといっても直接会うことなどないさ。だがあいつは…」
「ん…??」
「いや、なんでもない。今更どうでもいいことだ。
ラクローンを去った私からすればな…」
「・・・・・」
フィレルはライサークの周りに妙な因縁が存在することを含む空気が流れていることは理解できたが、これ以上何も言葉を発しなくなったカストにそれを問い詰めることは出来なかった。
「ライサーク。」
エティエルを落ち着かせて部屋で休ませたガイナーは洞窟の外へとつづく通路で見知った後姿を見つけることが出来たために呼び止める形で声をかける。
ガイナーの声に赤眼の傭兵も応えるようにガイナーのほうに顔を向ける。
「…探していた者と再会できたようだな。」
「ああ…なんとかね…
それより…あれからどうなったんだ?」
エティエルに会うためにマウストとその場を離れていったガイナーにとってはあれからどんな話が進んでいたのかは少し気になるところだった。
「とくにない。カストの言うように事が運べばしばらくの間出番が回ってくることはないだろうからな。」
「そっか…
…それじゃ?」
ガイナーが聞こうと思っていたのはライサークの今後の行動だった。
洞窟の外へと爪先を向けていることがガイナーにとって疑問を生じさせていた。
当面の間動くことが出来ないのであればライサーク自身、何をしようというのだろうか?
「…ただの偵察だ。山向こうの城砦までな…」
「偵察!?」
「カストにはいろいろと聞いてはみたが、やはり自分の目で確かめておきたいこともある。それに…」
「それに?」
「いや…少し気になることもあるからな…」
「??…
城砦って…一人で行くのかよ!!?」
「問題ない。3日あれば戻ってくるつもりだ。
それに他の奴らがいては足手まといになるだけだ。一人のほうがまだ見つかりにくい。」
「そりゃぁ…」
ライサークの実力からすれば単独で行動するほうが効率はいいだろうということはガイナーも熟知している。
「それじゃ、外まで送るよ。」
「…好きにしろ。」
そう言い残してライサークはすぐさま踵を返し、これまでの道を進み始める。
ガイナーもそのすぐあとにつづいて歩き始めた。
ライサークの背中を見ながらふと思うことがある。
ライサーク自身、なぜ傭兵となったのか?戦い方をどうやって学んだのか?
今のガイナーにとってはとくに興味に駆られるものといってもいいかもしれない。
メノアで住んでいたときからこれまで多くの鍛錬を繰り返し、兄貴分でもあったケインから多くの戦い方の手ほどきを受けてはきたものの、所詮、低俗な魔物相手に対してのものにすぎなかった。ガイナーは今のままではサーノイドたちと戦っていくことは困難なものとなることは承知している。
今後も鍛錬は欠かすことはないだろう。だが、それ以上に何か得ることがない限り今以上の力量に達することはない。
今後はどうすればいいのだろうか。その答えをずっと探しつづけている。
もしかすればライサークといればなにかヒントでも掴めることが出来るのかもしれない。
わずかではあったが、そういった期待を生じていることも確かにあった。