第01節
Act,04復讐の城砦 ~Castle~
サーノイドを倒す。
マールの集落の全滅をきっかけにガイナーの心境は大きく変化し始めていた。
力をただ貪欲に求めようとするガイナーの前に、サーノイドとの戦いが迫ってこようとしていた。
登場人物
ガイナー…17歳ライティン
メノアの少年。
メノアから預言者を求めてラクローンを目指すも途中でマールの集落の住人とエティエルに助けられる。
だがマールの集落の悲壮な最期を見たことによりフィレルたちと行動を共にするようになり、サーノイドと戦う決意をする。
フィレル…18歳ライティン
クリーヤ山地においてカスト達とともにサーノイドと戦う少女。
自作のボウガンを持って戦う。
なにかと一人先走る傾向があり、ややトラブルメーカーな一面もある。
ライサーク…22歳ライティン
別名「ブラッドアイ」とも呼ばれる、赤目の傭兵。
素手での戦闘を得意とし、誰も真似できない闘気を操ることも出来る。
フィレルに雇われて同行している。
エティエル・・・推定17歳ライティン
クリーヤの集落マールに住む少女。
生まれながらに言葉を持たず、その声を聞いたものは誰もいない。
マールが襲われた際、行方知れずとなってしまう。
カスト…45歳ライティン
フィレルたちやかつての仲間たちとともにサーノイドと戦う者達のリーダー。
ライサークとも面識がある。
かつてのラクローン騎士団長。
マウスト…21歳ライティン
カストとともにサーノイドと戦う戦士。
持ち前の身のこなしによって偵察や伝令活動を役割として持つ。
ホーマ…24歳ライティン
カストとともにサーノイドと戦う戦士。
騎士団のときからのカストを上司として慕い、カストと行動を共にする。
イースラ…20歳ライティン
カストとともにサーノイドと戦う女戦士。
戦闘経験はなく、非戦闘員の護衛にまわる。
クリーヤ山脈はテラン大陸の中央を分断するかのように立ち並ぶ巨大な山脈である。その姿は侵入する角度によってあらゆる姿に映し出されていた。西側に向かえば向かう程に標高は高くなってゆき、霊峰アーシアを最高峰とした雲すら突き刺すような槍のような山々が聳え立ち、そこには草木も生えることのない不毛な大地が続いていた。その逆に東側には比較的に標高の低く、多くの木々が生える森林を形成させた山々が連なっている。
同じようにクリーヤ山脈の東側にわずかに居住可能な地域が有し、そこには小さいながらも集落が存在していた。だが、それは今となっては過去形で語られてしまうことになったわけだが。
その村の住人が全滅してしまったマールの集落を離れて夜を凌ぎ、日が昇ると同時に北に向けて歩を進めた。
先頭を進むのは小麦色にやや日焼けをしたような肌色に短めの赤い髪をなびかせ、瞳はライティン特有の焦げ茶色を有している。
背丈から見ればやや小柄な雰囲気を漂わせてはいるが、その人物が女性であることを考えれば、納得はいく。
女性の名はフィレル。旅人の多くが身につける皮製のショルダー付の胸当てを身につけ、腰には短剣と折りたたまれた弩を矢筒とともに帯びている。
そのすぐ後ろを歩くのは、女性と同じほどの長さの黒髪に肩を晒した胸当てを身につけた屈強な体格の男性。その腕には通常よりも大きく造られた手甲をつけ、むき出しの肩口からは隆々とした筋肉を浮かばせている。だからといって常人よりも太いというわけでもない。
余分なものを削ぎ落とされ、常日頃から鍛錬を欠かさずに課しているのを雄弁に語っている。
だがその男性を印象付けるものはその鍛え抜かれた身体よりも、鋭い眼光を輝かせる真紅の瞳だろう。
男はライサークと呼ばれている。その瞳の色から別の通り名を「ブラッドアイ」とも呼ばれ、各所に存在するギルドに所属する傭兵を生業としていた。
二人からわずかに距離をとって一番後ろを歩くのは男性にしては長く、女性にしては短いとも思われる黒髪に同じ色の瞳を有した青年とも少年ともとれる男子の姿。
その手には鞘に収められた剣が握られていた。
だが剣は、通常のものよりも長く造られていたためか、今の鞘には収まりきれずに、先端を切り落として剥き出しの切っ先を晒していた。あるいはその鞘は剣に誂えられたものではなかったのだろうか。
少年の名はガイナー。テラン大陸からさらに南方に位置する辺境の島メノアから世界に起こる事態を究明するために旅を続けている。
しかし、ここに至ってガイナーの目的は横道に逸れようとしていた。
原因はマールの集落の全滅にあった。
瀕死の中、ガイナーを介抱してくれた村人を無残なまでに殺されたことに対してのサーノイドに対しての憎悪を募らせている。
そして、その村人の一人でもあり、今は行方不明となってしまっている少女を探し出すということもまた目的のひとつでもあった。
「しかし、よかったわ。戦力となるのがもう一人増えて…」
遠くエルダーンまで出向いて、フィレル自身で雇ったのはライサークのみだった。
ガイナーとはマールの付近で魔物に襲われていたところに出会った。
フィレルはこの山地においてサーノイドに対してゲリラ活動を展開する一団の一員として、新たな戦力を確保するために傭兵を補充して再び戻ってきたところだった。
とはいうものの、新たに補充として加わったのはライサークただ一人だったことにフィレルはやや不満を残していたこともあった。
アファとラクローン両国においてサーノイドの脅威に晒されている今となっては、傭兵を用いて戦力を補充するということも発生しており、傭兵ギルドとしてはあらたな人材をどこよりも欲している状態である。
そんな中、傭兵の補充を要請したところで人員が不足していることは言うまでもなかった。
ライサークの実力をフィレルが過小評価しているという事実も現段階においては否めない。彼は「ブラッドアイ」とも呼ばれる傭兵の間において味方としてはこれほどの頼もしい者は無く、逆に敵として対峙してしまった時は、震え上がるほどの存在となるほどであった。
「…だがあいつは…」
「…ん、あいつが何?」
「…いや、何でもない。
それもまた力でもあることに変わりはない。」
含みのこめたライサークの発言に訝りながらもフィレルの仲間の待つ場所を目指していた。
アジトとも言うべき場所はそれからもう半日経ってからのことだった。
「洞窟…??」
「そうよ。この山々にはこういった洞窟がまだほかにたくさんあるんだから…!!
まさか奴らもすべての洞窟を把握しているわけもないしね。」
クリーヤの山々は数多くの洞窟が存在している。
その多くは山に住む動物や魔獣といった類のものの住処となっているが、いくつかの洞窟にはサーノイドと戦うためにライティン達が陣取って、ゲリラ活動を続けているという。
洞窟は深いものであれば地底の奥深くまで進むことが出来るような場所もあり、洞窟と洞窟が繋がりあっているということも珍しくもなかった。
フィレルたちが拠点として陣取っている洞窟も、クリーヤに点在する洞窟のひとつに過ぎなかった。
幅は小さいものの、地面が見えないほどの渓谷に架かる小さな吊り橋を渡った先に、洞窟の入り口が口を開けて待っていた。
「フィレル、フィレルじゃないか。」
フィレルを呼ぶ声は洞窟の入り口で見張りをしていたライサークよりもやや年齢が上に思われる男性だった。
髪はバンダナを頭全体に被っているが、先からこぼれた頭髪の色はやや赤みがかかった茶色に、やや濃い目の茶色をしている。見張りということもあってか、フィレルが身につけるものよりも軽装の片側だけを覆った甲冑にその手には弓が握られていた。
「ただいま、ホーマ。今戻ったわ。」
「随分と遅かったじゃないか…
一体どうしていたんだ?」
フィレルの戻りが予想していたよりも遅れてしまっていたのか、ホーマと呼ばれた男は表情を曇らせながらもフィレルの背後に立つ二人の存在に目を向けた。
「ごめんね、いろいろあってね。でもこれからこの二人が私たちと一緒に戦ってくれるわ。」
そういいながら、不自然なほどに自慢げな顔のまま、ホーマの視線の先と同方向に指を向ける。
「二人…か」
思ったよりも人数が少ないことにやや落胆するかのように力なくつぶやくものの、ガイナーのほうに目を向けて、そのままライサークのほうに目を向けたときにホーマと呼ばれた男は言葉を呑んだ。
「あ…赤い眼…
フィレル…まさか、こいつ…」
「…ん?何…??」
ホーマはライサークを見たときに唖然とした。だがフィレル自身はホーマの表情の変化に気付くことなく、言葉をつづける。
「それよりも…カストさんは??」
「え?…ああ…
カストさんはこの奥だ。今時分だと、自室にいるんじゃないかな。」
「わかったわ、それじゃ先にカストさんのところにいくね。」
そう言い残してフィレルたちはホーマの横を通り抜けて洞窟の中へと入っていった。
「おいおい…まさか、あいつを連れてくるとは…」
ホーマにはライサークが“ブラッドアイ”と呼ばれる傭兵であることは理解していた。
“ブラッドアイ”といえば、傭兵業に関わるものからすれば伝説に等しいほどの武勇伝が聞こえてくるほどの男である。
それほどの強力な助っ人がこの場所に現れてくれたことに対したことに飛び上がって喜ぶべきことであるはずだった。
しかし、それ以上に妙な不安が湧き上がってくるのを感じられずにはいられなかった。