第12節
どこまでもつづく深い闇夜の空の中を漂うかのように真円の月が映し出され、その光は煌々と照らし出されていた。
月が照らす大地は草一本も生えることのない不毛な荒野が拡がり、むき出しの岩肌は槍ぶすまを思わせるような岩山がいくつも聳えたち、その尖端を天に向かって伸ばしていた。
山間に目を向けると、一際大きな岩山の切り立った岩肌の中を人工的に削りだして造りだされた建造物らしきものが建てられているのが月明かりの中浮かんで見えていた。
山の頂上を削りだされて出来た城は、華麗な装飾といったものとは全くの無縁で、地肌をさらした武骨なイメージが色濃く残っている。
そんな城であっても、外壁にはテラスと呼べるような場所も存在する。そこには城の主とも呼ぶべき人影が天を仰いで立ち、その真円の月を凝視するかのようだった。
その人物の背丈は比較的高いほうで、全体的な身体の輪郭は漆黒のマントで覆い尽くされていたためはっきりとはわからないものの、肩幅から推察すればがっちりとした体格だともいえなくもない。
腰まで無作為に垂らされた銀色の髪は月明かりに照らされることによって神々しく輝いても見えた。
城の主とも呼ばれる者は、わずかに流れた空気によって銀髪がなびいたことからか、不意に気配を察したのか、ふと人の名らしきものを口にする。
「ダッドか…」
「こちらにおいででしたか…」
銀髪の人物に気取られた後に城の中から騎士風の漆黒の甲冑を身に着けた男がテラスに姿を現していた。
漆黒の衣という部分においては共通しているものの、銀髪の人物とは正反対に甲冑と同様の漆黒の髪は首許を隠すほどまで垂らしている。
漆黒の騎士は銀髪の人物の前まで足を運び、その場で傅く。そのことでこの二人の間に完全な主従の間柄があるということを見て取ることが出来る。
「…
首尾は…?」
前置きもなく、主は顔を漆黒の騎士にさえ向けることなく回答を求める。
「今しがた伝達がありました。ドミニーク様がようやくクリーヤに着陣した模様です。
これでラクローンへの攻撃は予定通りに進むことと思われます」
「アファは?」
「すでに出陣の用意は出来ております。指揮はヴァーレルとメスフィルでよろしいかと…」
「…任せる」
「はっ。」
お互い顔を向き合うこともなく、要点のみを交わすだけの淡々とした会話は銀髪の人物の御意の許、区切りをつけ、ダッドと呼ばれた男はその場を離れようとしていた。
「ダッド」
「はっ…!?」
「もうすぐだ、もうすぐライティンを滅ぼすことが出来る…」
「・・・・・」
ダッドはそのことに言葉を発することなく、一礼ののちにその場を離れた。
「見ているがいい、ライティンども…
俺はお前達を許すことはない…」
再びその場に独りとなった主はこれまでと同じ立ち位置のまま月に向かって吼えるように叫ぶ。
「絶対にだ!!!!」
主の憎悪の含む咆哮は闇の中へと掻き消えていった。