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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT,02 樹海の遺産~Legacy~
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第06節

「くそっ、どこだ弱点は!!?」

ガイナーは半ば自棄になりそうな口調で自問自答する。

人馬の攻撃は単調で回避は今のところ容易ではあるものの、その一撃がかすりでもすればそれだけで致命傷を負いかねないほどだ。

「なにかもう一つ、決め手があればいいんだけどね…」

カミルも回避の中で思考を巡らせてはいたが、これといった良い策が浮かんでこなかった。


「お二人とも、下がってください!!」

「「!!!??」」

意外なところからの意外な声に二人は少し驚きの色を見せ、その少女のほうに目をやった。

すでに少女は詠唱を終了させた状態で立っていた。

その両の掌には魔力を帯びた光球が今にも弾け飛ばんと放電を起こしながら浮かんでいた。

ガイナーたちはリーザの言うままに各々人馬から距離を置いた。

人馬からはリーザの位置は死角になっていた。二人が離れたことに人馬が足を止めたところをリーザは見逃さなかった。

「ライトニング!!!」


ドゥ―――――――ン!!!!!!!!


リーザの掌から強烈なまでの光の筋が放たれて、人馬めがけて突進した。


バシィィィッッッッ!!!!!!


光の筋は人馬の頭部に直撃を浴びせた。

人馬は一瞬なにをされたのかはわからずに四肢をよろつかせた。

「効いたのか!?」

人馬の周囲には一瞬ながらも光の筋による発火が生じたために、わずかではあるが煙に包まれた。

やがて煙が晴れると3人は人馬に対峙するが、人馬の姿に愕然とした。

「…!?

そんな…」

「これも効かないのか…」

リーザの攻撃ですら無情にも人馬には有功打を与えることが出来ず、ただ人馬の頭部の兜をわずかに焦がしたのみだった。

「くっ…」

リーザは再度、詠唱を試みる…

しかし人馬ももう一度受けるまいと、今度はリーザに向かって突進を始めた。

「!!!!」

「駄目だ!!

リーザ、そこから離れて!!」

「!!?」

カミルの声に我に返ったリーザは人馬の突進をすんでの所で回避した。

「リーザ、大丈夫か?」

「私は平気です、でも…」

剣での攻撃は歯が立たず、その上、魔法攻撃もほぼ無傷とあってはお手上げ状態に等しかった。

それでもこの場をしのぐためにはこの人馬を倒す他なかった。

戦う相手が3人になったからなのか、人馬は自身に傷をつけることが叶わぬ相手とはいえ、そのまま手を出すわけでもなく、膠着状態に陥った。


「もう打つ手無しかよ…」

このまま手をこまねいていたところでどうにもならないことは承知しているものの、完全にお手上げ状態となっていた。

しかしそんな事態の中、ガイナーの視界に別の動く影が見え始めた。

「なんだ…?」

今度はガイナーたちがやってきた方向からゆっくりとではあるが、人の姿が近付いている。

「え?…まさか…」

自分達とは違う人影を確認したガイナーは一瞬、リーザの父親からこの森ではぐれてしまった自分の幼馴染を想像した。

しかしその声の主はガイナーの想像するものとはまったく別物の声色だった。


「ようやく見つけたぜ!!」

その声の主は人馬に向かって声を発していた。

人馬もまた、その声の主に向き直る。

やってきたのは外見からすれば30代に達するくらいであろうか。

ガイナーより頭一つ分も高く、肩口から外套を羽織っていたために全体像ははっきりとはわからないものの、むき出しの部分からはその体格に見合う以上のくっきりと浮かび上がるほどの筋肉質な体躯を備えた屈強そうな男であった。

男は赤銅色の肌に、それには対照的な薄水色の髪の毛を長くも短くもない程度まで伸ばしている。瞳の色は濃い紫色に不敵に輝いていた。

「誰だ一体…??」

そんな疑問をよそに人馬は今やってきた男に向かって突進を始める。

「駄目だ!!

逃げるんだ!!」

ガイナーの言葉も無視して男はどっしりと構える姿勢を見せる。

「へっ、今度は突っ込んできやがったか・・」

口元をわずかに緩ませながらも男は人馬の剣戟を正面から見据えるように腰を落とし、手にしていた槍状の獲物を前に出す。

人馬の剣戟が空気を切り裂くような唸り声を上げて男の頭上に振り下ろされた。

「・・・・っ!!」

普通に考えれば真っ向から竹割りにされた姿を想像するものであったが、それとは異なり、考えていたこととはまったく違う事が目の前で展開された。


「ほんとかよ…」

ガイナーからすればにわかに信じられないものを見たような気分だった。

男は人馬の剣戟を手にしていた得物でしっかりと受け止めていたのである。

足元の石畳にわずかに亀裂は生じたものの、体制をくずすことなくその場に立っていた。

「へっ・・・この馬鹿力が・・・」

自分のしていることを棚上げにしながらも、男は受け止めている体制から今度は反撃に転じようとしていた。

「おおりゃぁぁっっ!!!!」

丸太のような腕を震わせながらも徐々に腕が上がっていき、完全に人馬の剣戟を跳ね除けてしまった。

すかさず男はそのままの勢いを持ったまま人馬に槍をふるう。

その勢いはすさまじく、人馬は両の手の剣で受け止めながらもその位置から吹っ飛ぶような状態になった。


「すげぇ…」

ガイナーより頭一つ大きい姿をしているとはいえ、人馬から考えればそれよりも小さい身体をしているはずであるのに自身よりも大きな人馬を吹っ飛ばした。

「嬢ちゃんたち、大丈夫だったか??」

男はリーザのほうに向かって歩み寄って様子をうかがった。

「え、ええ…あ、ありがとうございます。

ええと…」

あまりにもの出来事にリーザもすぐに気持ちを整理できないでいた。

「俺の名はヴァリサイヤー。嬢ちゃんの親父さんに雇われた者さ」

「お父様に??」

ここにきてガイナーはラウスがケインともう一人はぐれた者がいるということを思い出した。

「あんたが…」


「よぉ、兄ちゃんたち、怪我はないかい?」

「え?ああ、俺達は大丈夫だけど…ラウス様は…」

「む・・・・??」

ガイナーの言葉にヴァリサイヤーと名乗った男は首を傾げたが、その答えはリーザから発せられた。

「ええと、ヴァリサイヤーさん」

「ああ、俺のことはヴァイスでいいぜ」

「では、ヴァイスさん、父はもう…」

リーザはこれ以上言葉が出せないでいた。

その時点でヴァイスと名乗る男には状況は把握できたらしい。

「ちっ、なんてこった…」

ヴァイスはラウスの元に駆け寄った。

「旦那…」

「そなたか…無事だったのだな…」

「すまねぇ、俺の不始末だ…」

「いや…気に…病むことはない、やむを得ぬことだ…

だが、今はこの状況を…」

これ以上言葉を発するのも限界になったラウスはそのまま言葉を止めてしまった。


「…

承知しやした。あとは任せてくだせぇ。」

事態が事態とはいえ、雇い主からはぐれてしまったせいで雇い主を死に追いやるほどの傷を負わせてしまったことに自責の念は隠せないでいた。


ガシャガシ…


金属が磨り減るような鈍い音を立て、ヴァイスが吹っ飛ばした人馬はようやく体制を立て直し、ガイナーたちの前に再び対峙しようとしていた。

「まずはあいつをぶっ倒してからあとのことを考えることにしますぜ…」

そういってヴァイスはラウスの元からリーザに近付いて耳打ちする。

「・・・・・・」

「え…!?」

リーザは一瞬何を言っているのかと考えたが、その言葉を理解した後にヴァイスに顔を向けると。

「頼んだぜ、嬢ちゃん」

そのままヴァイスは人馬に威嚇するかのように槍状の自身の得物を振り回す。

「ちょっとまてよ。こいつには剣も魔法も効かなかったんだぞ!!」

ガイナーからすればこれまでの戦闘でまったく歯が立たなかった相手であったことを忠告はしてみるが、当のヴァイスは意にも介さぬような態度を見せながらも

「なら、少し見ていな」

そのまま正面から人馬に向かって突っ込んでいった。

人馬も向かってくる相手に剣を振り上げて迎撃しようとする。

「うおおぉぉぉっっりゃぁぁぁっっっ!!!!!!」

ヴァイスは自身の得物を勢いそのままに人馬に薙ぎつけた。


ガキィィッッッ!!!!


案の定、人馬の両の剣に阻まれるが、ヴァイスの攻撃はそのまま反転して逆さに薙ぎつける。


バシィィッッッ!!!!!!!!


今度は片方の剣だけで受けようとした人馬はその勢いに押されて一度体制を崩した。

その隙をヴァイスは見逃さなかった。

「オラァァッッ!¡!!」

再び前へ踏み込みながら右から一気に斬り上げた。


ズシャッッ!!


人馬は剣で受ける間もないまま、ヴァイスの攻撃を直撃させた。

その攻撃で人馬の甲冑の胸の部分にわずかではあるが斬撃のあとを残した。

「すげぇ…いったいどうなって…!?」

人馬同様、単調ででたらめな大雑把な攻撃ではあるものの、これまでガイナーたちが何度攻撃しても傷一つ負うことがなかった人馬をヴァイスは数度の攻撃で人馬にダメージを与えた。それだけで驚愕に値した。

だが人馬もみすみすやられまいと再び体制を立てなおして反撃に転ずる。

「こいやぁっ!!!」

勢いそのままにヴァイスはその場で人馬の攻撃を受け止めようと得物を構える。


ガキィッッ!‼


先ほどと同様に人馬の剣を得物で受け止めた。

「くおぉっっ!!」

ヴァイスが受け止めた状態での鍔迫り合いといった形になる。

この状態を待っていたかのようにヴァイスはリーザに呼びかける。

「今だ!!!嬢ちゃん!!!」

「は、はいっ!!!」

ヴァイスの一喝に一瞬戸惑いはしたものの、予め唱えていた呪文によりリーザの掌には魔力の塊が集まっていた。

リーザは再び人馬に向けて掌をかざす。

「ライトニング!!!」


ジャァ―――――――-ッッ!!!!!


リーザの手から解き放たれた雷の蛇はうなりを上げたままヴァイスの首元をぬけて、ヴァイスが残した斬撃の痕めがけて喰らいつこうとしていた。

だが雷の蛇は人馬の甲冑の傷あとをわずかにそれて胸元の無傷の部分に直撃した。

リーザの一瞬の戸惑いが人馬に回避の隙を与えてしまっていた。

しかし、本来の目標には届かないものの、人馬は雷の直撃に四肢をよろめかせていた。

「ちっ…甘かったか…」

期待通りの展開でなかった様子に舌打ちをするも、それでもヴァイスはそのままよろめく人馬に再度攻撃を加える。


ガキィッッッッ!!!!


隙を見せていた人馬はヴァイスの攻撃に左腕の剣を地面に落とす。

だがもう片方でヴァイスを薙ごうと右の剣を振る。

ヴァイスは紙一重で身を屈ませて回避するが人馬はそのまま逆袈裟に体制を変えて振ろうとしていた。

「危ない!!!!」

ようやく状況を見極めたかのようにガイナーとカミルも人馬に向かってゆく。


ドガッッッ!!!!


二人で人馬の攻撃を剣で受け止める。

「おっさん!!!」

ガイナーはヴァイスに退避をうながす。

その一瞬を逃さぬように人馬は剣を振りぬいて二人を木の葉のように吹き飛ばす。

「くっ…!!

こいつ…」

ガイナーは持っていた水筒を人馬に投げつけた。

水筒は人馬の腕にはじかれ、茂みの奥へと飛んでいった。だがそのときに水筒の中身は人馬の目の前で飛沫となって飛び散り、そのまま液体は人馬に降りかかる形となった。

「そりゃぁぁっっ!!!!」

いち早く体制をなおしたガイナーは今一度踏み込み、闇雲に剣を人馬にたたきつけた。

何合目かの剣戟で一瞬火花を走らせたとき、人馬に降りかかっていた液体は瞬く間に炎と変わり、その瞬間、炎は人馬を包みこんだ。


人馬は一瞬に拡がった炎に一時狼狽し、炎を振り払おうと腕を振るわせるが、その間隙をヴァイスは再び突くことに成功した。

「よくやったぜ!!少年!!!」

人馬の籠手の部分に打撃を加えもう一つの人馬の剣を落とした。

この攻撃で人馬は無手の状態になった。

「カミル!!

背中の剣でこいつの胸元をぶっ刺せ!!!

お前さんのその剣なら!!!」

「!!?」

瞬時に理解したカミルは、ヴァイスの叫びに呼応して人馬に向かって突っ込む体制のまま背中の大剣を抜く。


ジョスッッッ!!!


大剣はこれまでカミルが攻撃を繰り返したものとは違い、胸元の傷口に深々と刺さっていった。

ヴァイスは知る由もなかったが、カミルの大剣は先端が折れた状態である。それを知りつつもカミルはその大剣で先ほどヴァイスが傷つけた甲冑の胸元めがけて突き刺した。

「!!!?」

人馬は自らに刺し込まれた剣に一瞬行動がとまったものの、両の腕で剣の持ち主を振り払い、剣を抜こうと試みる。

「嬢ちゃん、あの剣にぶち込め!!!!」

ヴァイスは再びリーザに魔法を放つことを呼びかけた。

「は、はいっ!!!!」

リーザはそのまま詠唱をはじめた。

だが、痛覚というものが存在しないかのように人馬は大剣を抜こうとしていたが、ヴァイスはさせまいと再び攻撃を繰り返す。

「おらおらぁっっ!!」

人馬は片方の腕で防ぎつつあるが、ヴァイスの間断ない攻撃はやがて両の腕での対応に追い込まれる。

そうしている間にリーザは詠唱を完了させた。

「ヴァイスさん!!カミルさん!!

下がってください!!!」

リーザの声にヴァイスはすぐにバックステップで後ろに退く。

カミルもまた剣を離し、人馬から同様に退いた。

二人が退いたことにより、リーザと人馬の間には何の障害物も存在しない状態をつくりあげた。


「アルライトニング!!!!」

一度両の手を天高く振り上げた後に、勢いをつけて人馬に掌をかざした。


ズシャァァ―――――――――――ッッッッ!!!!!!!


これまでとは違い、複数の雷の蛇がリーザの掌から放出され、それぞれが人馬に刺さっているカミルの大剣めがけて突き進んでいった。


バシィィィ―――――――――――――――――ッッッッ!!!!!!!!


剣をすべて叩き落されて無手の状態の人馬は雷の蛇を防ぐ術を持たずに、すべての蛇がカミルの剣に喰らいついた。

雷はそのまま剣を伝って人馬の甲冑の内部に侵入していった。


ドドドドォォッッ!!!


雷撃は人馬の体内で暴れ狂うかのようにほど走ったのか、人馬はその全身を大きく震わせて甲冑の隙間という隙間から煙を吹き上がらせた。

やがて人馬を内部から完全に焼き尽くしのか、鉄が焦げたような匂いを立ち込めさせながら甲冑は次々と剥がれ落ちて人馬の姿は崩れ去っていった。

その中身はまるで蒸発したかのように消え去っていた。

あとに残ったのは甲冑だったであろう残骸のみだった。


「やった…のか??」

ガイナーはしばらく様子をうかがいながらも、一向に動く気配を見せない甲冑の残骸を眺めながら自問した。

「これ以上動いてきやがったら、さすがにきついぜ…」

「はぁ…はぁ…」

数度に渡り魔法を使用したリーザは息を切らせながらその場に膝をついた。

「大丈夫?」

近くにいたカミルがリーザに近付いてたずねた。

「はい、何とか…」

しばらくの間ガイナーたちはその残骸を見つめ続けた。


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