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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT,02 樹海の遺産~Legacy~
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第05節

奥へ、奥へと進んでいけば行くほどに霧とも靄はともいえるものは、一層濃いものと化し、周囲は完全に濃霧に囲まれてしまっていた。それでも足元とわずか先がまだ見えている以上3人の足は止まらなかった。だが、口には出さないというだけで、3人の中には言いようのない感覚が立ち込めてきていた。ガイナーにはその感覚が一層強く感じられていた。霧の中にいる間でなく、樹海に入ったときからすでに奇妙な感覚をぬぐえないでいた。

そう、まるでこの樹海だけがこれまでとまったく違う世界であるかのような・・・


先へと進んでいるうちにだんだんと霧は晴れはじめ、周囲の見通しが効くようになってきた。そのまま足取りを速めながら進んでいくうちに、やがて木々が拓けた場所が出てきた。それは木々に囲まれた庭園といってもよい場所であった。

これまで不規則に生い茂っていた木々がこの場所を囲むものにおいては規則正しく立ち並んでいる。むしろ自然に生えているというよりも“規則正しく植えられている。”といった表現が正しいのかもしれなかった。その広場にはところどころに石畳が敷かれ、石畳の端には神殿や宮殿に建てられているかのような石柱が木々同様、規則正しく並べられていた。それはこの場所が人工的に造られたものであることを物語るものでもある。

「森の中にこんなところが…」

「ここは一体どういったところなんでしょう?」

「わからないけど、もう少し先に進んでみよう」

3人はそのままひらけた場所を進んでいくことにした。


半ばまで進んでいくとようやく終点らしきものが見え始めてきた。その先に存在していたのは一つの石碑のようなものであった。

だが見つけたのは石碑だけにとどまらず、リーザの悲鳴とも取ることが出来るほどの声で存在を確認されることになる。


「お父様!!!!?」

リーザが父と呼んだのはすでに老人とも取ることが出来るほどの男の姿だった。すでに髪の毛は白くなり、髭もまたそれほど蓄えてはおらぬものの、髪の毛同様の色をしていた。

男の姿は白い色をしていた法衣と同じく白い色をしたマントを羽織っていたが、そのマントはすでに自身の血の色で赤黒く染め上げていた。リーザの父すなわちガイナーが尋ねようとしていたアファの魔導師でもあるラウスはかすかに息を残したままうずくまった状態で3人と出会うことになったのである。


「お父様!しっかりしてください。

一体なぜこんなことに…!!?」

リーザの悲痛な声に気がついたのか、ラウスは朦朧としていた意識を父と呼び続ける少女に眼を向けた。

「リ、リーザ…

どうして?

いや、どうやってここに…??」

ラウスからすれば、娘は心配しつつも館のほうで帰りを待ち続けているに違いないと思い続けていたことだろう。

「この方達にお願いして、連れてきていただきました…」

そう言って二人を指す。

「…そうか、何も言わずに出てきてしまったことが裏目に出てしまったようだ…すまぬ…」

「お父様!!…そんなこと…」

すでにリーザはその顔を涙でぐしゃぐしゃにしてしまっていた。

「お父様が突然樹海のほうへ行かれると聞いて…私、いてもたってもいられなくなってしまって…それで…私も何か、何かお役に立てることがあれば…」

「そうか…」

娘の言い分に納得できたのか、それとも聞くまでもなかったと理解したのか。ラウスは短い言葉で娘に返した。

「お父様!今すぐ手当てを…」

リーザは自身の魔力を用いて“レスア”の魔法の使用を試みようとしたが、ラウスに制されてしまう。

「無駄じゃ、私はもう助かることはない、すでに回生呪が働いていてもこの状態なのだ。最早魔力が尽きる間だけ生き延びているに過ぎぬ…」

「そんな…」

出血量からしてすでに致命傷を受けていることは明白だった。それでもラウスを生きながらえさせていたのは、回生呪が働いていたに過ぎなかった。

回生呪とは高位魔導師がもつ強力な魔力を使用した予備魔法のようなものである。効果はその者の魔力にもよるが、高位のものであればいかなる傷であろうともたちどころに治癒されるほどの効果もある。だがラウスに施されていた回生呪は、自身をただ生きながらえさせるに過ぎないほどの効果にしかその役割を機能していなかった。

「どうして…

どうしてこんなところに…?」

「…これまで古代の史書や文献を読み上げていってようやくここにたどり着いた…」

「ここが…?」

「だが…ここは人が触れてはならぬものだったのだろう…」

「ケインは!?

こんなときに、ケインは一体どこに行ったのですか!!??」

このような状態にもかかわらず、ガイナーは真っ先に何よりも聞きたい質問をに投げかけてしまった。

「そなたは…?」

「お父様、この方がガイナーさんです。ケインさんが言っておられた」

「そうか、そなたが…」

「自分を知っているのですか?」

親娘ともどもに同じことを聞いてしまっていたが、ガイナーからすれば、辺境の一住人をなぜ知っているのかと不思議に思うのも無理からぬことであるだろうから…

「残念ながら、途中ではぐれてしまった…ケイン殿とあともう一人の男も…」

「もう一人…?」

おそらく護衛の従者だろうと考えられた。だが、ケインもまたラウスのように瀕死の状態でいるのではないか…?そんな考えがわずかではあるが脳裏に浮かんできていた…

だがそれとは別の疑問がガイナーには浮かんできた。

「ここは一体どういう場所なんですか?

ここに一体何が…??」

そんな質問にもラウスは応えた。だが、その応えは3人にとっては驚愕のものだった。

「この場所はおそらくわれわれの住んでいる世界とは違う場所らしい…」

「違う世界…??」

「この樹海の奥地には強大な魔力で覆われた場となっていた」

「魔力が…」

「あの霧か…」

樹海の靄に違和感を感じていたガイナーはこの言葉で合点した。

「では、ここが…」

そんな言葉もラウスの一言で払拭させることになる。

「き、気をつけられよ…

おそらくまだこの近くに…

この場の番人ともいうべき…」

「…!?」

わずかな気力で発した言葉で現在におかれている状況もまた危険であることが十分に証明された。

ガイナーとカミルはすぐさま付近の警戒を強めた。


最初に異変に気づいたのはガイナーだった。そのまま剣を抜き、カミルもそれに続いた。

ガサガサと規則正しく並んでいた木々が大きくざわめき始めていた。その音に混じって複数の足音とも取れるものがカミルの耳に入ってきた。

「なんだ??

…まるで馬のような…」

「馬…?」

このときのカミルの推測は的を射ていた。

木々を掻き分けるかのようにまっすぐにガイナーたちの前に姿を現したのは、馬にまたがった騎馬のような姿だった。ただ大きく異なるのは、馬の頭部ともいえる部分はなく、上半身が人の姿、下半身が馬の姿をした人馬と呼ばれるものだった。人馬は上下ともに全身を鎧で纏い、両の手には巨大な槍とも剣ともとれるほどの武器で武装した姿でガイナーたちに対峙した。

二人は人馬に剣を向けながら隙を窺った。しかし兜で完全に覆われた頭部では表情を見て取ることはかなわず、ただ兜の隙間から光る赤い眼光だけが映されていた。

「人馬…」

「こいつがラウス様を…」

「ガイナー、まずはリーザたちから離さないと…」

カミルの提案にうなずいて応えると、2人は人馬に一気に駆け寄り、人馬を左右ではさむ形のまま斬りかかった。


ガンッッッ!!!


金属と金属が強い衝撃でぶつかる音がした。人馬は2人の剣戟をその両手の剣で受け止めて、そのまま2人を力任せに振り払った。半ば吹き飛ばされたような2人でもあったが、カミルは着地前に体制を直し、人馬の背後に回る形でその場を離れた。

「くそっ、でかいだけあってすげぇ力だな…」

着地時に体制を直したガイナーはそのまま人馬に向かって今度は下半身の馬の部分めがけて斬りかかった。


ガキィッッッ!!!


人馬はガイナーの攻撃に動じることなく脚を動かすことなく腕だけでガイナーの斬撃に対応した。ガイナーも今度は弾き飛ばされることなくその場に踏みとどまって人馬の動きを押さえつける形を取っていた。その状態をカミルは見逃さなかった。一気に背後に回りこんでいたカミルは人馬の背中めがけて切っ先をむけたまま突っ込んだ。

カミルの攻撃は確実に背中から貫く形で突き刺さる…筈だった。

人馬の装甲はカミルの突撃をものともせず、まるで何事もなかったかのように分厚い甲冑は傷一つつかずにいた。これにはカミルはもちろんのこと、ガイナーも驚きの色を隠せなかった。

「なんて堅いんだ」


ビュウッッ!!


人馬はまとわりついた虫を払うかのように両腕の剣を振り薙いだ。この攻撃にはすでに2人は予測していたので人馬からはすでに離れていた。

「くそぅ、剣が刺さらないんじゃどうしようもないじゃないか・・」

このまま人馬に有効打を与えることが出来ずに人馬の剣戟をかわしつづけることにも限界がある。せめて人馬の弱点でも突き止めることが出来れば何とかなるかもしれない。

だが無情にも人馬はガイナーたちに考える暇をあたえることはなかった。

ブンッッ!!!!

人馬の剣はすさまじい唸りをあげて2人を襲い続けた。

2人はその剣をかわしつつ、反撃の機会をうかがっていた。

人馬の剣はその体躯から威力も高く、リーチも長い、幸いにして攻撃が単調でしかなかったので、今のところはかわしていくことが出来る。だが、このままでは2人のスタミナのほうが先に尽きてしまう。


「ガイナーさん、カミルさん…」

瀕死の父親のそばにいた少女であったが、2人の戦いを固唾を呑んで見守っていた。

しかしあの2人だからこそ人馬の攻撃に対応できているのであって、自分が行ったところで足手まといになるのは明白だった。

「リーザ…」

「お父様…?」

息も絶え絶えにラウスは自分の娘に呼びかけた。

「私のことはかまわずともよい…今はあれを討つことを考えるのだ」

「お父様…何を…??」

リーザには父親が何を言っているのか理解できずにいた。

そんな中でもラウスは言葉をつづける。

「ここも最早危ない。急いでここを離れる手立てをたてねばならんのだ…」

「でも…私は…」

瀕死の父親を放ってはおけない。何よりリーザがここまで来たのはその父親に会うため、出来るならばその父親の手助けをしたいと思ってきたのだから…

「このままでは皆がこの場に閉じ込められるか、ここで死ぬことになるのだ!!

リーザ、自分の成すべきことを見失ってはならん!!!」

「・・・・・」

ここにきてリーザは自分がいかに軽率な行動をとってしまったことを思い知らされた…

だが、ここまできてしまった以上あとには退くことは出来ないということも十分に理解したとき、リーザは意を決した。

「私…やってみます…」

口調は弱々しいものではあったものの、はっきりと自らの意思を述べた表情だった。

リーザはラウスを階段状の石畳に横たえらせて、ガイナーたちが相手にしている人馬のほうへ歩を進めた。


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