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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT.11 崩落の舞台~Stage~
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第03節

「放てぃ!!!!」


号令とともに幾千にも渡る矢が魔物の集団に向けて飛翔していく。

緩やかに弧を描いた矢は迫りくる先頭集団の中ほどに着弾し、無防備の状態のゴブリン、盾の恩恵のなかったオークの頭部、胴体を突き刺していった。

だが押し寄せる歩みが止まることはなく、倒れたオークやゴブリンなどものともせずに前進を繰り返してくる。

二度目の矢の射出した直後に、魔物の軍勢からの倍に近い矢の応酬が飛来してくるも、既に反撃があるのを見越していた城兵たちは、前面に大盾を構えて矢を凌ぐ。

戦端の切り出しはまさに絵に描いたような、定石通りの戦いが展開されようとしていた。


されど、止まることのない進撃は、やがて城壁に張り付かれることで、新たな局面を迎えることとなる。


兵力に倍以上の差があろうとも、攻城戦においての優位性というものは高低差にあり、オークが十体立てて並ぼうとも、届き得ぬ高さを誇る城壁を有するライティン側の利は揺らぐことはない。



最早何度目の矢を番えたのかさえもわからなくなりそうな中で、一人の弓兵が狙いを定めようとしたときだった。

城壁に何かがぶつかる音を耳にするとともに、足からは小さいながらも衝撃による揺れを感じ取っていた。それも一つや二つではなく、時を重ねるごとに何度も何度も発せられてくる。

それが人の頭ほどの大きさの石礫がいくつも城壁にぶつけられているものであるということを確認するのにそれほど時を要することはなかった。

「お、おい、あれを見ろ!!」

「!?でかいぞ、なんだあいつは?」

弓兵の誰かが叫んだ声のほうを見ると、オークの集団の中に一際巨大な体躯を有する個体の存在を確認する。

「ヴァイスさん、あれは・・・!?」

「おいおい、珍しいのがいやがる。ありゃぁジャイアントオークじゃねぇか・・・」


「っ!!

ジャイアントオーク!!?」 


ジャイアントオークは文字通りオークよりも倍に近い背丈を持つオークの変異種ともいわれる魔物であり、性格はオークとそれほど大きく変わらず、どちらかといえば愚鈍であり、オークの群れに混じっていることもしばしばである。

何よりもの脅威はその巨体故の怪力であり、腕力任せの一撃は大木をへし折るほどであることから、近接にての戦闘では危険を伴う。

ある程度の距離から取り囲めるほどに数を揃えて遠巻きにすれば、それほど脅威を感じられるものでもない筈なのだが、此度の会敵においては幾分か認識に誤差が生まれてくる。


ジャイアントオークは足もとの巨石を軽々と拾い上げると、大きく振りかぶって城に向けて投擲する。

腕力の有するままに飛ばされた巨石は、緩やかに放物線を描く軌道で飛来し、城壁の上位部、胸壁に近いところに激突しては激しい音と衝撃を起こす。

小刻みに揺さぶられる感覚は、どこまでも兵士たちに動揺を呼び起こさせるものとなり得る程であった。


ジャイアントオークは再び次の投擲する石を捜しながら、城壁へと近づいてくる。

その度に激突する石が徐々に勢いを増していく。

「マジかよ、こりゃぁ歩く投石機ってやつだぜ!

矢はどうにかなるってもんだが、流石にあいつらにこれ以上近寄られでもしちまったら何かとまずいんじゃねぇの!?」

そう言いながら灰色の長い髪を靡かせたデュナは手にした細身の槍を大きく振るっては飛んでくる矢を弾き落としていく。


「おのれ・・・ジャイアントだ、あのデカブツに狙いを絞るんだ!!」

戦慄する弓兵の声に弓を構える者達は慌てて矢を番え、ジャイアントオークに狙いを絞って矢を放つ。

しかし、ジャイアントオークにとって人の放つ飛矢など虫に刺されたかのような具合で矢が刺さりながらも軽く手で払い除け、飛矢では微塵にもダメージを与えているという手ごたえはなかった。

「ははっ、少しは手応えのあるやつが出てきたじゃないか!」

ジャイアントオークの出現に一際目を光らせた女傭兵サランは、手にした斧槍を石畳に突き刺すように立てると、すぐ後ろに立っていた兵士に手を向ける。

「ほらっ、そこの奴。その槍を寄こしな!!」

サランは兵士の手にしていた槍を奪うように手に取ると、何度か片手で持ちやすい位置へと持ちかえながら、鋭い眼でジャイアントオークを捉える。

未だサランのほうに身体を向けていないジャイアントオークに狙いを定めると、まるで自らが弓のように引き絞るかのように身体を大きく捻らせて、そのモーションから一気に槍を投擲する。

サランから擲たれた槍は、ほぼ一直線に飛矢にも勝る速さでジャイアントオークの心臓がある胸部に突き刺さる。

ジャイアントオークは自身に何が起きたのかさえも考える暇も与えられず、その場に崩れ倒れていった。


「おおっ!!!」

「やった!!デカブツを仕留めた!!」

「さすが剛腕!!」

一体のジャイアントオークが倒れた様子に城壁の上では、彼方此方で歓喜に沸く声も上がるが、所詮は一体を仕留めたにすぎず、サランのいた方向に報復ともいうべき弓矢の応酬がなされると、忽ち悲鳴に近い声へと様相を変える。


「クソッ、こりゃ気の遠くなる話だね」

ジャイアントオークを全て屠るのに一体どれだけの投擲の労力と、防御に回る手が必要となるのか、考えただけでサランは億劫になりそうだったが、さりとてこのまま手をこまねいているわけにもいかず、他の兵士から新たな槍を受け取ると、別路線から迫っていくジャイアントを狙って今一度振りかぶって投擲する。

槍は腕を振り上げたジャイアントの肩口を抉るように貫通していくも倒すには至らず、後方にいたオークの何体かを貫き通して動きを止めた。


「チッ、早々うまくいくわけがないってね・・・」

ジャイアントオークを仕留め損ねたことに歯痒さを込めて舌打ちを打つも、サランは一瞬防御姿勢をとることを疎かにしてしまっていた。

「バカヤロー!!

サラン!!!」

「っ!!?」

声に反応して身を動かそうとするも、既に報復攻撃としての矢がサランの身体を今にも貫こうと風切り音を立てて飛んで来ていた。

サランは矢の何本かを身体に受けてしまうことを覚悟して身を強張らせたが、矢は城壁には届くことなく、突如として吹き荒れた猛烈な風とも空気の壁とも呼ぶものにことごとく弾かれるようにして落下していった。

「今のは・・・」


「てめぇ!ボーっとしてんじゃねぇよ!!」

風は近くに立っていた灰色の長髪を束ねた青年によって生じられたものであり、それによって矢の脅威から逃れ得ることとなったと気付くと、サランは表情を歪ませながらも不敵に笑う。


「流石は“風の悪魔”って言うだけはあるね。あんたにしては上出来だよ」


その間にデュナは、腕を振り下ろしては再度飛来する矢に向けて、吹きおろしの風を生じさせ、風に矢を絡ませて落としていく。

「るせー!いい気になってんじゃねぇ!さっさと他のデカブツでも仕留めやがれ!!」


「はん!アンタに言われなくても、そうするさ!!」


それから、剛腕のサランは通り名に恥じぬ動きを見せた。

サランの槍の投擲によって、実に四体のジャイアントオークを仕留め、その都度兵士から喝采が沸き起こる。

このまま軍勢が退いて戦闘が終了したのであれば、間違いなく軍功第一に挙げられてもおかしくはなかった。それくらいの功績を見せていた。


まだ残るジャイアントに対しては、ゼルフトの指示により通常の弓矢の何倍もある巨大な弩、バリスタの斉射が行われた。

流石にバリスタの矢を幾度も受けて立っていられるほどジャイアントオークも頑丈ではなかったらしく、時とともに数を減らすことに成功する。

剛腕のサラン同様、バリスタによってジャイアントが倒されるごとに兵士たちから鬨の声が上がる。


「サランさん、凄いです」

「ああ、ありゃぁちょっとした名人芸ってとこだが・・・」

何かの気配を感じ取ったヴァイスは、感嘆するリーザを制して少し後ろに退がらせる。

「ヴァイスさん・・・?」

「ゾロゾロと来やがるぜ」


ジャイアントオークからの投石による攻撃は次第に減りつつあるも、そのころには既に夜間での戦闘と同様、寧ろそれ以上の数を以てゴブリンが城壁をよじ登って城壁の上の兵士たちに襲いかかってきていた。

「!!

ゴブリンが来たぞぉ!!」

突如として城壁上での近接戦闘に移行する事態に不意を突かれた部分もあったが、兵士や傭兵たちは昨夜の勢いをそのままに、よじ登って襲いくる軽装のゴブリンを次々と叩き落としていく。

その間にも弓矢の応酬が降りかかってきた時もあったが、兵士たちはさほど問題なく対処していった、かに見えた。

昨夜を上回る規模があるにせよ、兵士たちがゴブリンたちに対し違和感を覚えるのにそれほど時を要しなかった。


「何だ!?

くそっ、昨夜よりも数が多いのか、数が減らねえ!!」

「いやっ、それよりもこいつら前より強くなっていないか!!??」


昨夜のゴブリンであれば、それぞれがバラバラに動いていたこともあって、来る敵を難なく切り捨てていくことが出来た筈だったが、今襲ってくるゴブリンは絶妙に防御姿勢を見せてくることもあり、他のゴブリンと連携をとって攻めてくる。

全体的に動きに乱れというものが少なく、一体に対して倒す手間が大きいものとなっていた。

ある程度の統率の取れた様子を見せるゴブリンに徐々に押され始めていることを痛感する頃には、城壁の上でゴブリンが集団として陣取り、城兵たちと対峙するに至る。


「あそこにゴブリンが集まって・・・」

「チッ・・・

こりゃあ相当の指揮能力を持った奴が来ているってことだな。このままじゃちょっとマズいぜ・・・」


統率のとれたゴブリンであってもヴァイスのいるエリアはまだ問題なく処理は出来ている。

しかし、徐々に数を増やし始めてくるゴブリンを見て危機的状況に陥っている上に状況が悪化してゆくことは明らかなものだった。


「どうするのヴァイス、このままじゃ・・・」

「サリア、リーザ、こうなったら二人はやばいと思ったら遠慮なくぶっ放すようにしな」

これまで魔力を温存させようとしていたヴァイスであったが、ここにきて二人に魔法の使用を促してきた。

「ヴァイスはどうするの?」

「少しばかり好きなようにさせてもらうことにするさ!

デュナ、いったん退がって二人を護れ!!

サランはそっちを任せるぞ!!」


「!?

へっ、言うまでもねぇや!!」

「任せな!!」

ヴァイスの声にデュナは直ぐさまヴァイスの近くまで駆け寄り、サランはゴブリンの一団が集まる箇所に斧槍を振り回しながら駆け出していく。


「さぁて、ここからだ!!」

不敵な笑みを浮かべながらヴァイスもまたゴブリンが集う個所に向けて手にした得物を大きく振り上げて石畳を蹴る。


二人はそれぞれの得物を大きく振り上げ、ゴブリンの集団に向けて力のままに振り抜いた。

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