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FINAL MASTER  作者: 飛上
ACT.10 血風の境界~Border~
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第18節

幕舎の中にはガイナーとライサーク、サイルの他に、見廻りから戻ったカミルと寝はじめに起こされてやや不機嫌なフィレル、そして何人かのアファの騎士が集まっていた。

皆が集まってから話し始めるウェスタリアからの使者からの言に、誰もが息を呑む。


「ウェスタリアで戦闘が・・・」

「しかも万に相当するほどの戦力・・・」

騎士たちはウェスタリアの状況が想像していた以上に大きいものだっただけに、幕舎内が一時ざわつく。


サイルはある程度、皆を落ち着かせてから使者に対して口を開く。


「概ねの詳細は把握した。

貴公の王都への道中の安全を祈る」

「はっ、皆さまも御武運を」

そう言い残して使者は、宵闇の中を王都への道を駆けていった。


「まさかここにきて戦闘が始まってしまってたなんてね・・・」

「うん。でも、そのあたりは想定していたことだと思うんだ。でなければ僕たちはここまでやって来ることもないんだから」

「そうだな。ここまではある程度は想定できたことだ」



「さて、こうなった以上はこれよりの行動をどうするべきかをお二人に尋ねさせていただきたいのだが・・・」

状況が状況なだけに、サイルの表情もどこか曇らせずにはいられない様子で、今後の方針を赤眼の傭兵へと投げかける。


一介の傭兵に過ぎないライサークに指示を仰ぐということに、幕舎内にいるサイルの言葉を耳にした騎士たちは、事情を知るものを除いては、皆殊更に怪訝な顔を浮かべてしまうものが幾人かはいる。


千人規模の集団において、陣頭指揮を執るべく立場にあるのはサイルであることは間違いない。しかしヒューバート侯より護衛の任務を仰せつかった手前、ライサークに問うのは正しい判断ではあるのだが。


怪訝な顔を見せる騎士たちを他所に、ライサークは既に定まっている方針を告げる。

「既に戦闘が始まっているという前提で言うのであれば、ここで悠長なことをしている場合ではない。

直ぐにでもここを発ってウェスタリアに強行するべきではあるな。

逆を言えば、あと少しのところまで来てはいるんだ、ここからは後衛と切り離して進んでもそれほど影響はないだろう」

「そうですね、そのほうが脚も早くなることでしょうし」


「フィレルはエティエルとライムを乗せて、後衛の者と一緒に付いてこい。

サイル、出来れば馬車に何人かついてくれれば助かるのだが」

「わかりました。それではミリィレアを付けましょう」

「助かる」


「フィレル、いざとなったら・・・」

「わかってるわよ。あんたたちのことは心配だけど、あの子たちだって危ない目にはあわせられないものね」

既に承知といわんばかりに、フィレルは両手を肩まで上げてやむなしといった仕草を見せた。


フィレルはそう言ったものの、ガイナーたちの思惑とは裏腹に結局のところは、彼女たちが後衛とともに行動するということはなく、そのままガイナーたちに追従していくこととなる。



「!?

ライサーク、どうかしたのかい?」

懸念味のある表情を見てカミルは問う。

「それと一つ、いや二つ気がかりなところもある」

「気がかり?」

「・・・といいますと?」


「この一週間もの間、王都への知らせもないままに過ごしていたということがどうにも引っかかる・・・」

「確かに、少数であるならまだしも、大挙して現れたというのであればすぐにでも王都へと援軍を乞うて然るべきなものですが」

「それをすることが出来なかったのか、する必要がなかったのか・・・

或いはしたくなかったのか」

「どういうことですか?」

「想像の範囲でしかないからはっきりとは言えんが、現在王都では新たな国王の選出の動きが起こりつつあって、六侯家の動きが慌ただしい。

もし仮にサーノイドの攻撃という混乱に乗じて何かが起こると考えてみたら・・・」

「まさか、六侯家の争いの中にサーノイドが襲ってくることを利用しようとしているのですか!?

その様なこと到底考えられません!!」


「確たるものがあって言うわけではない。あくまで想像の範疇に過ぎない。

・・・・・今はな」


「・・・・・

それで、あと一つというのは?」


「この一週間、サーノイドに動きがなかったことだ」

「攻撃がなかったということで何かがあるのか?ということしょうか?」

「こちらへのプレッシャーを与える、こともあるだろうが、本来の目的はおそらく魔物の数を増やすことに専念しているためでもあるだろうな。

サーノイドが本気で来るとなると、魔物の数との勝負といってもいいくらいだからな」


「!?

・・・それって、どういうことだよ?」


ライサークの言葉に小さいながらも引っ掛かりを覚えたガイナーは、そのまま赤眼の傭兵に聞き返す。


「言葉どおりの意味だ。

やつらは魔物が増える時期を狙ってきている」

「そんなことが出来るのかい?」


カミルの言葉にライサークは首肯する。


魔法を使える者でなければ魔力を感知しにくいという側面はあるも、この世界の生きとし生けるもの総てにおいて魔力というものは存在する。

それは獣や魔物においても例外ではない。


生命あるものは魔力と位置付けるも、木々や植物、土や山、そして水や大気といったものは魔素と位置付けされる。


魔素は世界を巡らせてはいるも、川の流れが緩やかなものになるにつれて、水底に砂や泥が堆積するかのように魔素が溜まってゆく場所がところどころに発生する。

その魔素がやがて澱のように滞ってゆくと、澱はやがて魔物を産み出し始めてゆく。

それを更に放置してしまうと、いつしか魔物の群れとなり、次第に増えてゆくこととなる。更に魔素の溜まりからは毒気を帯びて瘴気と化し、ここまで来てしまうと最早収拾がつかないものとなってしまい、人が生活していく環境でさえなくなってしまう。

王国の騎士や、都市に設置するギルドに所属する傭兵たちは、魔物の発生源を絶つべく行動を起こすことで、世界での一定の均衡を保っている。


「そんなことが・・・

でも魔物の発生源なんて、どうやって破壊するのさ?」

「別に何もない空間から突然に現われるということではない。

大概は魔素を溜め込んだ大木や岩、沼といったものが発生源になりやすいし、何よりある程度の予兆はある。そいつを取り除いてしまえば一先ずは魔素を絶つことが出来る。

あくまでも一時的なものではあるがな」


ライサークも傭兵ギルドに所属する一人として魔素溜まりの排除の依頼を受けた経験もあってか、ここまでの説明に淀みがない。


「へぇ・・・」

「つまり魔素が世界に漂っている限り、どこかで魔物が生み出されるってことだね」

「簡単にいえばそういうことだ」

「むぅ・・・」


「話を戻すが・・・

サーノイドとてラウナローアの人種の中でとりわけ外見だけでいえばライティンとそう変わらん。

身体的特徴もそれほど差があるわけでもないからな。

だが決定的に違うのは・・・

サーノイドは魔物を使役することができる」

「使役?」

「例えば普通に従えさせて自身の代わりに戦わせる、といった具合にだ。

ライティンでも狩りや放牧で犬を放ったり、伝達の手段として鳥を用いることもあるだろう。

あれとさして変わらん」

「そんな能力があるんだ・・・」

事実、ガイナーはクリーヤの山中でオークを従えるサーノイドと対峙したことがある。

そのことを思い返せば、ライサークの言葉にある程度の納得がいく。


「中でも戦える者たちの間では、その数が一体だけとは限らん。

戦場に出てくるような奴らは二体以上、普通に十体ほどは従えることができるだろう。

将といった奴らなら百体以上、王族とも言えるような者なら千以上の魔物を従えさせられる」

「・・・・・・」

「だが全体の中に一人か二人くらいは存在する。

・・・・・万を超えた数を従えられる奴が・・・」

ライサークの言葉にガイナーのみならず、誰しもが息を呑む。


「つまりよ、私たちが今千人くらいの兵力があるとして、同じ数のサーノイドがいたとしたら、向こうは魔物の数がプラスされちゃうから・・・」

「普通に十倍くらいの兵力差があるということになってしまうということですね。

ううむ・・・」

ライサークの説明を聞くにつれ、誰もが悲観めいた唸り声を出さずにはいられない。

この部隊の指揮官であるサイルでさえ同様であった。


もし、そんな者がこちらに襲いくるようなことがあれば、ライティンなど簡単に蹂躙されてしまうのではないか、と。

だが、このままにしておくわけにはいかない。

少なくとも黒髪の少年の心にはそういった心情が湧いてくる。


「俺達だけでも行って少しでも力になれるのなら行かないと!!」

「ガイナー・・・」

「そうでないと、リーザが・・・

アファの国が滅んでしまうことになる」


「食い止めるにはもうここしかない、というところまで来ているかも知れんな」

「・・・そうよね。

ここまで来たのなら行くしかないわね!!」

「そうだね。行こうガイナー」

「ああ」


「承知しました。

今すぐ発てる者たちを連れて、すぐに皆様方は出発して下さい。

私たちもすぐに追いかけます」

「わかった。よろしく頼む」


そこからの野営地はすぐさまにバタバタした雰囲気となる。



「ったく、危ないったらないわね。

エティエル、しっかり捕まってて舌噛まないようにね!」

揺れる場所の中でエティエルは静かに頷く。


ガイナーたちが出発しようとしていたときには、馬車の中で休んでいた二人は既に起きていた。

ライムの方はすぐに発つことを聞くと、そのまま銀髪の青年の駆る竜に跳び乗った。

「行くよ。しっかり捕まってて」

「うん」


「フィレル、エティエルを頼んだ」

「こっちは任せて」

ガイナーもエティエルの表情を目にしてから、手綱を振る。

「ライサーク殿、こちらも行けます」

「よしっ、行くぞ!」


誰もが絶望に近い雰囲気が漂う中、僅かな希望の灯を頼りに進みゆこうとするガイナーたち。


闇がさらに深くなる中、ガイヤーたちは野営を畳む中を駆け始める。



既に戦端は開かれている。


手綱を振るうガイナーたちは、ただ、砦の無事を祈念する以外にない。


背後から闇が白み始めた頃、一行は回廊に差し掛かろうとしていた。


「エティエル、どうしたの?いま出てきたら危ないわよ」

馬車から少し身を乗り出してきた少女にフィレルは窘めながらも、少女の表情に不安を募らせる。

未だ見えぬ西の砦に向けられた視線はどこか神妙な面持ちとなっていた。


「カミル、あれは!?」

先頭を走るカミルとともに乗るライムが進む先の空を指す。

それは、既に明るみを帯びた西の空へと立ち昇るいくつもの黒い煙だったことに目の当たりにした者たちに動揺がはしる。


「まさか!?」


事態はガイナーたちが考えているよりも更に、深刻さを増し始めていた。




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